「アレン君、お疲れ様」
水路で帰ってきたアレンをコムイは迎えた。コートは所々破れているが大きな怪我はなさそうである。
本来毎回エクソシストの迎えが出来る程コムイも暇ではない。それでもアレンに与えられた任務は特殊で、十五歳には荷が重い。だからコムイ直々に迎えに行くようにしているのだ。
「人使い荒いですよコムイさん。こっちはアクマやらノアやらで大変だったんですから」
「でもこっちは成功したよ。先鋭部隊を派遣したからね」
「これで失敗してたら流石に怒りますよ」
アレンは疲れた顔で船から降りてコムイに一礼した。疲れているとはいえ上官に対する振る舞いは変わらない。最年少元帥としてアレンは危険な地域に派遣されることもある。しかし元帥とはいえまだ十五歳、危険は付き物であり心配が絶えない。
そんな彼が受けた今回の任務はいわゆる囮だった。アクマやノアの意識をアレンに向けさせ、その間に他のエクソシストにイノセンスを取りに行かせる。当然複数の敵との交戦になるのでアレンの負担は大きくなる。しかも他のエクソシスト達がイノセンス回収に時間をかける程アレンの身は危険に晒されるのだ。
「リナリー達だからね、そんなに時間はかからなかったと思うよ」
「こっちはレベル3とティキミック卿、それにルル=ベルですよ」
「ははっ、それはすごい」
コムイは笑っているが内心申し訳なく思っていることをアレンは理解していた。大切なエクソシストを危険に晒すことはコムイが嫌がることである。
「報告書は後で出しますからシャワー浴びてきていいですか?」
「もちろん」
アレンがまたコムイに一礼して部屋に戻ると、水路の向こうからもう一つ明かりがやってきた。
「コムイ〜終わったさ〜」
「アレン君帰ってるよ」
ラビと神田とリナリーが船から降りる。そして神田から手渡されたのはイノセンスだった。
「お疲れ様、報告書は後でいいよ」
コムイがそう言うと三人は疲れたとぼやきながら部屋に戻っていった。回収側とて戦闘がない訳ではないのだから当然疲れているのだ。
「アレン君も三人も無茶するなぁ」
コムイは渡されたイノセンスをヘブラスカに渡すため水路を後にした。
「あっ、リナリー」
「お疲れ様、アレン君」
風呂上がりに談話室にて、たまたま二人は会った。湯上がり姿のラフな格好であり、団服は着ていない。
「ノアと交戦したって本当?」
「えぇ、倒せませんでしたけど時間稼ぎになれたなら」
「ありがとうね。おかげでこっちはアクマだけで済んだわ」
「………リナリー怪我は?」
リナリーの腕に巻いてある包帯に無意識に目が向く。それを隠すように腕を摩った。
「ちょっと掠っただけだよ」
「そうですか、それならよかった」
話したいのは山々だが報告が待っている。アレンとリナリーは一度部屋に戻った。どうせまた後で室長室で会うことになるのだから。
「やぁ、神田君」
「チッ、コムイかよ」
明らかに上官に対する態度ではないが、コムイは特に気にしなかった。むしろ神田がコムイに敬語なんて使ったら槍が振るような出来事である。もちろん神田の態度にもコムイへのそれなりな敬意は含まれているのだ。
「アレン君また無茶な戦い方したみたい」
「何で俺に言う」
「僕が言ってもアレン君直さないんだよね。その場では納得するけど実戦だといつもの癖が出る」
「俺にどうしろと?」
「アレン君が無茶な戦い方する理由……分かるでしょ?」
「………」
「アレン君が多くの戦地に派遣されるのはアレン君が元帥だからだ。今の元帥は四人、余裕なんて全くない」
「はっ、俺に元帥になれって言ってんのか」
「アレン君のサポートに回って欲しいんだよ。今の君は十分強いけどノアや伯爵に対してだと十分じゃない」
「ラビやリナリーにでも頼め」
「僕は君の成長が一番早いと思ってる。君の力でアレン君を守って欲しい」
それがスタートラインだ、とコムイは言って去った。神田はコムイに言われたことを胸の中で響かせながら、室長室に向かった。