DREAM REBORN! | ナノ
渋滞の中で
「…雲雀さん、イライラしてますか?」
「してない」
雲雀さん、相当イライラしてる。今日は、雲雀さんの車で旅行に来て、その帰り道。渋滞が予想されていたから、今日は観光もそこそこに早めに出たつもりだった。それなのに、見事に渋滞に巻き込まれてしまった。人が群れるのを嫌う雲雀さんが、旅行に連れてきてくれたから、せめて渋滞だけは避けたかった。
「こ、今回はありがとうございました!久々に遠出が出来ましたし、一日中雲雀さんと一緒にいられて嬉しかったです」
なるべく渋滞の話題に触れないようにと、私は話題を変えた。
「僕も嬉しかったよ。最近忙しくてなかなかゆっくり時間がとれなかったからね」
そういって、雲雀さんはこちらを向いて微笑んでくれた。私もつられて笑顔になった。
「雲雀さん、本当に忙しそうでしたもんね。今回の旅行で少しでもくつろげたのならよかったです!」
雲雀さんの仕事内容は詳しくは知らないけど、たまに傷を付けて帰ってくることがある。それが心配だけど、雲雀さんは毎回心配しなくていいと言う。だから、私はあまり気にしないようにしている。
「…あ、少し動いた」
雲雀さんは、指でハンドルを軽く叩きながらそう言った。やっぱりイライラしているのか、さっきからハンドルを叩くことをやめない。
「…ごめんなさい」
「…は?」
私は思わず謝っていた。雲雀さんの横顔か心なしか険しくなっているように思えたからだ。やっぱり、人混みに雲雀さんを誘うのはよくなかったみたいだ。
「…さっきからずっとハンドル叩いてます。やっぱり、渋滞にイライラしてるんじゃないかと思いまして…。私が我儘言って旅行なんて…」
「違う」
「へ?」
雲雀さんは私の言葉を遮ってそう否定した。
「渋滞にイライラしてない…というのは嘘だし、人が群れるのを許してるわけでもない。…ただ、君と付き合いはじめて、こういうものはつきものだって理解し始めているんだよ。」
前の渋滞を睨んでいた雲雀さんは、こっちを向いて言った。その顔つきは優しかった。
「君となら、こんなのも悪くないかななんて思っているんだよ、名前。」
「…私も渋滞にイライラしていないわけじゃないんですけど、雲雀さんとなら…。雲雀さんと一緒にいられる時間が少し増えるので…嬉しかったりします…」
自分でも恥ずかしいことを言っている自覚はあったから、語尾がだんだん小さくなっていく。そんな小さくなった最後の一音まで雲雀さんは聞き逃さなかった。
「随分と可愛いことを言うんだね。…襲われたいの?」
「えぇ?!あのっ、そのっ…!」
「冗談だよ。…でも、今はこれだけ…」
ーーーちゅっ
「顔が真っ赤だね、名前。これの続きはまた後で…」
渋滞の中で
(誰かに見られたらどうするんですかっ)
(見せつけたら?)