○○彼氏 | ナノ
キスさせろ
「おい、キスさせろ」
「ふ、ふぇ?!」
それは突然だった。紘の方からいつものようにデートに誘われ、二人で観覧車に乗っている時だった。
あまり遊園地が好きでない紘が、今日はどうして遊園地に誘ってくれたのかわからなかったけど、それでも嬉しかった。
はしゃぎ疲れ、観覧車に乗ろうと言ったのは私の方だった。いつもならダメと言われるのが分かってて誘わないが、今日はなんだか乗ってくれる気がしたから。
「変な声出してんじゃねーよ」
「だ、だって!紘が急にびっくりするようなこと言うんだもん…!」
「なんだよ、今更」
そう言って、向かい合っていた紘はいつの間にか私の横に座っていた。
「あ、あの…」
「俺様が何で今日、珍しくこんなとこ来たか知ってっか?」
「う、ううん…」
私は素直に首を横に振った。
「俺様は遊園地が嫌いだ。今日来て再確認した。…ただ、名前の喜ぶ顔を見た瞬間、遊園地も悪くねぇなって思った。
お前がいればどこだって楽しくなるんだなって」
「紘…」
紘は真っ直ぐ私を見てそう言った。
「だから、キスさせろ」
「え、ちょ、あのっ」
「何だよ、嫌なのかよ」
そう言って紘は私に壁ドンするような形で迫ってきた。私の後ろは壁。これ以上下がれなくなると、今度は紘との距離が縮むばかり。
「い・や・な・の・か?」
私の弱点を知り尽くしている紘は、その一つである耳元でそう囁いた。途端に真っ赤になる私の顔。
「真っ赤だぜ、顔」
「うぅ…。紘の…バカ」
紘はそれを聞いてニヤリと笑い、静かにキスを落とした。
…と、思うのも束の間。いつものように激しいキスに変わる。わたしがなかなか口を開かないと、無理矢理にでも入ってくる紘の舌。
熱い熱い紘のキスは私の頭の中をかき乱す。
「っ…紘…!」
「うっわ、エロ…。まじそそる。
…続きはまたあとで、な?」
紘の指差す方を見ると、もうすぐ降りる頃だった。
「べ、別に続きなんて…!」
「はいはい、降りんぞ」
紘はまるで聞く耳を持たず、観覧車から降りた。
キスさせろ
(早く帰って続きを…)
(し、しないからね?!)