DREAM うたプリ | ナノ
触れる体温
「苗字、今日から練習を始めるぞ」
聖川さんとパートナーになった私は、今日から練習がはじまる。“お前の作った曲が歌いたい”と言われた時は、何かの冗談かと思ったけれど、
その熱く、真剣な目に私はパートナーを承諾したのだった。
「早速なんですが、聖川さん。」
「あぁ、なんだ」
「これ…、新譜です」
聖川さんとパートナーになった日から私は、少しずつ曲を作り始めていた。
作る前はどんな曲にしようか悩んでばかりいたが、聖川さんの歌っている時の表情や、今まで見せてくれた表情を思い浮かべると驚くほど速く曲が完成したのだった。
聖川さんは、新譜を受け取ると真剣な顔で見始めた。
「あ、あの…、どうでしょうか…?」
読み終わったころを見計らって、私は恐る恐る聞いてみた。
「苗字…」
聖川さんは、まだ真剣な顔つきのまま私をみつめた。すると、突然聖川さんの顔がほころんだ。
「いいじゃないか。すごく素敵だ。まさに俺の歌いたい曲、と言ったところだ」
そういって聖川さんはもう一度楽譜に目を落とした。その顔つきは先ほどのものとは違って、おもちゃを与えられた子供のように無邪気だった。
「この曲に合うような歌詞も考えなくてはいけないな」
「はい…!」
聖川さんがわくわくしているのがこっちにも伝わってくる。
「それじゃ、苗字。これ、一回弾いてみてくれないか?」
「分かりました!」
私がピアノの前に座ると、聖川さんは当たり前のように隣に座った。小さな椅子に二人座っているので、お互いの肩がぶつかる。
こ、これじゃ緊張しちゃってうまく弾けないよ…!私はちらりと聖川さんを見る。
「ん?俺のことは構わず弾いてくれ」
聖川さんはどいてくれそうにもないので、そのまま弾き始める。初めは少し緊張して思い通りに弾けなかったが、しばらくするといつも通りに弾けた。
それに今日は、自分が作った曲を歌いたいと言ってくれた本人が隣にいることもあって、いつも以上にうまくできた気がした。
「…こんな感じです」
弾き終わって聖川さんを見る。
「やはり、お前の作る曲は本当にいいな」
笑顔でそう言われ、その顔がとてもかっこよく私は思わず目をそらした。
「…ただ、ちょっと一か所修正いいか?」
「全然かまいません!」
聖川さんは楽譜を指で追いながら修正箇所を探し出す。
「…あぁ、あった。ここだ」
そういって聖川さんは楽譜通りのメロディーを弾いた。
「これでもいいんだが、俺的には…」
そして、修正後のメロディーを弾いた。
「こっちのほうがいいと思うんだが、どうだ?」
「わぁ…!」
普通に修正後のほうが聞きやすくなった。
「すごいです、聖川さん!」
「いや…、そうでもない」
聖川さんはほんのり頬を染めて、そっぽを向いた。私は忘れないうちに楽譜を修正し、弾き直した。
「そこは、そうじゃなくてこんな感じ…」
「あっ」
その時、鍵盤の上の二人の手がぶつかった。私は思わず声をあげてしまった。
「す、すまん…!」
「い、いえこちらこそ…」
頬が熱くなるのを感じ、片手で抑える。
触れる体温
(き、今日の練習は終いにしよう!!)
(そ、そ、そうですね!!)