反抗期






「だからあれ程出てくるなって言っただろい!」

 滅多に声を荒げる事などない兄貴に怒鳴り付けられ、びくりと肩が揺れる。ジクジクと痛みを訴える腕を反対の手で押さえ付けてはいるが、止血しきれずに指先から落ちた血が、点々と床に染みを作ってゆく。
 今までなら戦闘になればすぐさま部屋に押し込められ、終わるまで出てくるなと、酷い時には外に見張りまでつけられる始末だったが、戦闘の度、自分1人だけがそうやって守られるのはもう限界だった。幼い頃は、響き渡る銃声や飛び交う怒号に怯えて、親父の腕の内で震えていたこともあったが、今はもう守られてばかりの子供じゃない。

(俺だって、兄貴や他のクルーと並んで戦いたい。兄貴の背中を少しでも守りたい。守りたいのに)


「お前が前にでてきても戦力にならない事くらいわかってんだろい!挙句に、怪我までしやがって!」


 そんな俺の気持ちなど少しも分かっていない兄貴と、兄貴を納得させられるだけの実力を持たない自分にどうしようもない憤りを感じながら、必死にそれを悟られまいと目の前にある自分と同じ碧眼を睨み上げる。


「俺が前に出ようが、誰に切られようが俺の勝手だろ!」


 周りでは、敵船から撤退してきたクルー達が遠巻きにこちらを伺っている。普段から冷静沈着な態度を崩さない1番隊隊長が、人目につく甲板で怒鳴っているのが珍しいのだろう。俺だってこんなに怒りを露わにしている兄貴は久々に見る。
 そんなに俺が戦いに参加するのが気に食わないのかと、思わず舌打ちがでる。
そんな俺の態度を見て、ひくりと片頬を吊り上げた鬼、もとい兄貴を見て、ヤバイと感じても最早手遅れで。俺はコクリと、小さく唾を飲んだ。

「お前がどれだけ怪我をしようが勝手だがな、足手まといなお前が出て来たせいでウチの隊員が怪我でもしたらどうしてくれんだよい」

「おい、マルコっ」

 傍で見ていたサッチが、流石に言い過ぎだと兄貴の肩を掴む。
 反論できない。確かに兄貴の言う通りだ。現に、1番隊のクルーが庇ってくれたからこの程度の怪我で済んだものの、そのクルーが気づくのが遅ければ、最悪の事態にだってなり得たのだ。自分の力不足で自分が傷付くならいい。しかし、そんな自分を庇ってクルーの誰かが、と考えて唇を噛んだ。

(でも、それでも、俺だって一緒に戦いたいのに。ずっと兄貴や他のクルーに護られてばかりじゃいやなのに。どうして分かってくれないの。なんで俺の気持ちを聞いてくれないの)


「自分の力不足がわかったら、これからは戦闘中に外に出てくんじゃねぇよい」


 サッチの手を振り放って兄貴が言う。暗に、俺の部下を危険に曝すな、と。
 言い返す言葉も見つからず、自分の力不足に対する悔しさと、兄貴に対する怒りと、1番隊の隊員に対する僅かな嫉妬とで、今にも溢れ出さんばかりの涙を見られたくなくて、俺はその場から走り出した。





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