Dark In White@‐White(ブン太)


Dark In White‐White‐


女の子ならば一度は憧れる巫女さん。ただ、現実は…うん、見た目可愛いだけだと思う私。いや本当に可愛いんだけどね。
巫女さんバイト、もとい巫女助勤をやるのはお正月。しかしながらお正月といえば…ね。

「さ、さっむ…」

丸一日ほぼ外で奉仕。ホントほぼ外だ。一応カイロも貼ってるしヒートテックを着てはいるものの、この冬の下、あんなぺらい服装なんて寒いに決まってる。そんな中この普段見る事のないくらい大勢の参拝者の方に笑顔を浮かべてないといけない。ぶっちゃけ寒くて顔が引きつる。が、一度はやってみたかった巫女さんのバイト。正直思ったより辛いけど楽しいのもあるから…頑張らないと。
もうすぐ年が明ける。そのために普段ならこんな大量の人なんて彷徨かないだろう時間帯なのに人混みは尽きない。当たり前だ。あ、除夜の鐘が鳴り出した。
そんな事を思いはするものの、この寒い中甘酒なんてあったかい飲み物の需要は高く、それを振る舞う仕事を請け負っている私はそういったものを思う暇がない程忙しかった。

「あ、甘酒八つな」
「はい」

言いながら紙コップに甘酒を注いでいく。何人かで来てるみたいだが年末、こんなのも珍しくはない。
珍しくはないはず…だったが…

「え、ブンちゃん!?」
「は…咲良!?」

こんな団体様、珍しくはないが注いだコップを渡そうと顔を上げた先にいる彼とこんなたくさんの人混みの中で会えるなんて珍しくないはずが、ない。というか珍しい、最早運命的な確率に近いのに。

「驚いた…まさかお前がここでバイトしてるなんてな…あ、ジャッカルこれ」
「私もまさかこんなところにいると思わなかったよ」

巫女さん仕事の基本、笑顔で甘酒を注いだコップを渡していくものの内心は漠々だ。数が多いから少しくらいは話せるのは嬉しいが、何分緊張し過ぎる。どうしよう甘酒こぼしちゃいそう。
震える手で渡すとブンちゃんがそれを受け取り、ジャッカル君に渡していく。ジャッカル君も私に話し掛けるが、耳に全く入らなかったどうしようごめんねジャッカル君。でも私の手は止める訳にも行かず、紙コップをひとつ、またひとつと渡していく。早くこの緊張タイムを終わらせて欲しいと思った反面、終わってしまうとブンちゃんが人混みに紛れてしまうから終わって欲しくないといった葛藤に悩まされてしまった。
だけど時間は無情にも過ぎる。

「じゃ、また後でな」

あっという間に誰と来てんだか分かんないがブンちゃん達団体様の甘酒なんて注ぎ終わり、お盆を持ったジャッカル君とふたり人混みに消えてしまった。

ただ私はブンちゃんに会い、混乱し過ぎていたから気付いていなかった。

―よく思うとブンちゃんの言葉が不自然な事に。


2013.1.9.Wed
kirika@No more
章夜さんに捧げもの。

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