やましいことは一つしかありません。(仁王・ブン太・赤也)




星も月も光る夜、私は学校に向かっていた。
暗い学校、私は暗闇とは友達だと言い張れる程好き。だから電気がなくても全く苦痛でない。むしろ快感。
目を細めて歩く先には私が普段使う教室。
ここだって今の時間は音がなくて静かで…の筈だった。
あれ、今…物音が?
私の他に誰かいるのか、そんな事を考えながら向かう。
向かった先、それが物音でなくて話し声なのは近くに来れば分かる。ひそひそとした話だった。
誰だろう?密やかなそれに合わせたみたいに私も密かに近寄る。
聞こえた声は男子のもの。

「ふーん。で、D組のあれはどうだったぜよ?」
「美味。なかなかいけたぜぃ」
「赤也は…確かA組のだったか?味はどうぜよ?」
「なかなかいけたっすよ」

声は…聞いた事がある。確かテニス部の仁王先輩に丸井先輩、後は…赤也だから切原君だねきっと。
でも、声が誰か分かった所で全く意味が分からない会話。美味?何が?
まぁ…どうでもい…

去ろうとした私。偶然とはいえ話を聞いてしまったのもあってこっそりこの場から去ろうとするのだが、こういう時にどうして物音をお決まりのようにたててしまうのだろう人って。きっと急いで去らないとと思うと慌てるのだろうな、なんて考えつつ。

「誰じゃい?」
「…」

声が掛けられるが、私は身動きも声を出す事も出来ない。どうしようかと悩んでいれば教室からふたつ影が覗いた。

「聞いてたのかよ…
 …誰だお前?知らねぇなぁ…」
「あ、俺知ってる!確か…隣りのクラスの皆月!」

覗いたのは丸井先輩と切原君。
丸井先輩は私をまじまじと見つめ、切原君は私を指差して名前を告げた。こんな状況なんだから身バレは止めて欲しい。今は憎たらしい程明るい月明かりは悲しいかな、外の街灯やらと共に暗闇に慣れた目だと申し訳程度でも顔が分かってしまう。

「隣りって…どっちの隣りじゃい?」
「あ、こっちのっす」

切原君がばっちり私のクラスの方を指差す。最悪だ、これで私の身分は確定される。
何を話しているのかさっぱり分からない。こっちと言われた後、仁王先輩と丸井先輩が私に近寄って来た。

「あ、あの…」
「見られてしまったら仕方ないのう。………実はな、俺達吸血鬼なんじゃ」

…は…?
にこにことした表情を見せたまま、全然意味の分からない言葉を仁王先輩が放ち丸井先輩はしげしげと私を観察していた。

「そ、そういう冗談は…」
「冗談じゃないナリ。今の会話もそれじゃよ」

いや、絶対冗談でしょう。私が不思議そうにというか胡散臭さ爆発で訝しげに眺めていたら仁王先輩が二人に耳打ちしていた。
…逃げてもいい、私?
こっそりと僅か一歩下がる。もう一歩下がる。よし、まだ気付いていないわもう一歩。

「はい、逃げんのはなしな」
「おわっ!」

いつの間に後ろに回られていたのか、丸井先輩が私を受け止めてしまって結局の所私に逃げ場はない。
前には仁王先輩と切原君、背後は丸井先輩。
絶体絶命、私ヤバい。

「という訳じゃな皆月さん。聞かれたからには俺らに従って貰わんと困るぞよ。というか、血を提供して貰わないと」

何でやねん、と激しく突っ込みたい。どうして私が生け贄にならないと駄目なんですかですか!
しかし、仁王先輩の優しい口調と目線が私を射抜く。ただ、優しいのに有無を言わせないこれは何。
吸血鬼なんて絶対嘘だ。なのに…こうして見られてしまうと本当なんじゃないかと思ってしまうのはどうして…
私は身動き取れなくなって大人しくその場に止まる。それに満足したのか背後の丸井先輩の手が離れた。

「聞き分けがいい子は嫌いじゃないぜよ。じゃ……赤也にでも後は頼むか」
「え、俺!?」
「…へぇ……そういう事ね。じゃ、俺ら先に帰るぜぃ」

意味が分からない。意味が分からないが二人の先輩は私と切原君を残して消えていく。
途方にくれた私は切原君に視線を向け、恐る恐る口を開いた。

「あの、切原…君…」
「…取りあえずさ、皆月」
「はい?」
「俺と、付き合わねぇ?」
「は?」


やましいことは一つしかありません。
(さて、どこまでが本当か)


2011.6.28.Tue
kirika@No more
オリオン。様提出済み。

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