お天気お姉様と体温@(ブン太)
「さ、さーむい!」
全く、ど・こ・が、気温16℃よ!
目茶苦茶寒いじゃない!
こんなの…16℃どころか6℃もないじゃん!
* * *
今日の最高気温は16℃。
朝のニュースでアナウンサーが告げていた。
だから、私は何を思ったのか、手袋を家に置いて来た。
…夕方の事なんてすっかり忘れて…
さっきは理不尽に気温の低さに怒ってみたものの、実際は私の頭がお馬鹿なだけなもので。
よく考えましょう。自分が帰る時間はお昼な筈がない事を。
「あー…ったくさみいんだから…」
「随分親父くせぇと思ったら…やっぱり先輩か」
「うーわ出た…年中頭が暑苦しい奴」
「な…俺の何処ら辺が暑苦しいって?」
「頭の色。そんな赤い色、いつ見ても暑苦しい」
手を寒さのあまりコートに突っ込み、背中を丸めて歩いていた私はまぁまさに親父と言われても仕方無い。
そんな私の目の前に現れたのは寒いと縮む私を嘲笑うかのような頭と格好をした後輩。
あー…頭だけじゃなくてマフラーとか普通に温かそうだわ。
あ、手袋。羨ましい…それくんないかしら?
「つーか先輩、何でこんな寒々しい格好で歩いてんの?」
「チミ、先輩相手にタメ口かい?まぁ良いけど…天気予報が16℃って言ってたから」
そう言うと、はぁと溜息が聞こえる。
もう…しょうがないじゃない!
16℃にびっくりしたし、朝家出る時暑かったんだから!
「先輩後先考えなさすぎだろぃ?」
「煩いよガム小僧。そんな事自分が一番分かるっての」
あーもう…
私はこんなに寒い寒いと暴れてるのに、この目の前のガム小僧は余裕で余計ムカつく。
「先輩、んな格好で歩くの危ねぇだろぃ?」
「寒いから仕方無いじゃん」
昔、先生から言われた気がする。ポケットに手を入れて歩いちゃいけません、と。
分かってるけど…分かってるけど今は駄目無理。
こんな木枯し手なんか出せない。
「うわっ!」
「先輩危ねぇ!」
ポケットに手を入れていた。
そんな私にタイミングよく障害物が存在し、躓く私。
しかし…ダサイしまさにお決まり。
このままだと顔面強打で美しい顔に傷が付きそうという時。
「ったく…ホント見てて危なっかしいんだよ…」
顔面強打の危機、それを助けてくれたのはガム小僧。
私は…ガム小僧丸井君の腕にすぽりと収まってしまった。
「わ、ちょっと!」
何か恥ずかしい。
顔だけ熱い。
しかも…何かぎゅーっとされてる気がするのは…私の錯覚か?
「ちょ、離してよガム小僧!こんなの誰かに見られたら誤解されるでしょ!」
丸井君人気あるんだから!可愛いって人気あるんだから!
こんなの見られたら…私、丸井君のファンに殺されちゃう!
「んじゃあ…誤解じゃなくしちゃう?」
「は…え?」
「嘘嘘、寒そうだから…温めてやる」
「え、あ…」
頭が混乱する。私の返答なんてまるで無視だ彼。
身体も丸井君に包まれて温かいが、あれだけ冷たかった私の手もいつの間にか丸井君の手と絡まっていて温かい。
どうしよう、全然意味が分からない。ねぇ、私こんな事して大丈夫なの?
「…どういう事、ガム小僧」
「別に。ただ先輩の事抱き締めたかっただけ」
相変わらず全然意味が分からない。
でも、身体が熱い。
手も熱い。
顔も熱い。
ぼっとその熱に包まれていたら、ふと丸井君が離れた。
…何だか寒い気がしてしまった、どうしよう…
「先輩、手ぇ貸して」
「ん?…はい」
そんな私の心境を読み取ったのか?
丸井君が離れて結局寒くてコートにしまった片手を差し出すとそれは繋がれ、今度は丸井君のコートのポケットにしまわれる。
「これなら、歩いても…手ぇ冷たくなんねぇだろぃ?」
「う、うん」
そして、凍てつく掌は(それは彼の手の中に…)
「そーだ、やっぱり誤解無くすか?」
「は?いや訳分かんないよチミ!」
「先輩唇冷たいぜぃ?」
「!」
外気で冷えた唇に残る…温かさ…
「な、俺と付き合って先輩」
end...
⇒
back