こうしたい、と思う気持ちに素直に従ってもいいんだろうかという迷いはあるけれど、私はやっぱりこの奥のもやもやを取りたいから…今は従う事にしてみた。正直まだ怖い。でも、あんなにあのふたりが笑顔であんな事を言うなら、良いんじゃないかと思う。
だけど…私は臆病だ。そう思ってしまうと、今までは雨だからと行かなかったのに…晴れても足が向かない。

あの人に会いたいのか、と言われてしまうと迷いなく頷く事が出来る。ただ、どうして会いたいんだろうかと聞かれると困ってしまう。何度もいうが、私は彼の事など何ひとつ知らないんだから。知らないからこそ、知りたい。これが今の私がしたい事…になるが、どうして知りたいのかというと困ってしまうが。どうしよう、困ってしまう事ばかりだ。

「なー若紫さーん!」
「何ですか?」
「今日暇なん?」

あの日、白石さんや忍足さんとお昼を食べた日からほんの少しだが周りが動いた気がした。きっとこの学校はお節介が多いんだ、そう思う。今だってそう。正直、こうやってまた同じクラスになった人と話せるなんて思わなくて。煩わしさはどうしてか今は感じない。何でだろう。

「暇ですが…何かされましたか?」
「あ、あんな…嫌やなかったらやけど…テニス部の練習一緒に見に行ってくれへんか?」

確かこの子は忍足さんが好きな子だ。しかしいつもは違う子と一緒に見に行っていたはずだがと思って聞いてみれば、用事が出来たから無理とさっき断られたそうで…
私に頼みにくるくらいだ、ひとりで行くのが余程大変らしい。なんだかこういう子は可愛いなと思う。そして、羨ましいと少し感じる。

「大丈夫です」
「ほんまに!?ありがとう若紫さん!」

答えを返すと嬉しそうに笑って私の手を握り締めてぶんぶんと振ってくれた。

* * *

放課後、私とその子とでテニス部のコートの方に向かった。正直来るのも初めてだが、来る事はないだろうとも思っていた場所だった。
私達以外にも見に来た人がいるようで、フェンス越しにぽつぽつと練習を見に来ている女の子達がいた。ここの男子テニス部は強い。そしてどこの学校でも強い部活にいる面子はやはりモテる。これは小学校から変わらない女子にモテる男子の条件。クラスの真ん中に立てる男子は運動が出来る男子になる確率が高い。

「あ、忍足君や!」

かっこえぇー!なんてはしゃいで私の腕を叩かれる。そういえば白石さんや忍足さんの部活をしている姿を見るのは初めてだ。ふたりとも運動はとても得意なようだから体育の時の姿は意識せずとも目に入ってきたが。
しかし、普段と違うジャージで練習しているせいもあるのだろうし部活はやはり自分が好きでやっているというせいもあるのだろう。

「違う…全然…」

つい漏らした呟きは一緒に来た子に拾われ、そやろー!なんて嬉しそうな顔になる。もしかして他の見に来ている子達もそんな気持ちだろうか。体育の時間とは全く違う生き生きとした姿。別に体育の時間が生き生きしていないわけではないが…なんて言うんだろう、彼らにとってこれがあまりにも自然に馴染んでいて…とにかく素人の私でも凄いんだと思えるくらいだった。本当に…あんな小さなボールよく打てるな…なんて思う。
ぱこんぱこんとリズミカルな音を立ててラリーたるものが続いている。白石さんや忍足さん以外にいるテニス部の人達も同じように多分ラリーをしている。そしてその表情は楽しげに見える。
だからか見ているだけの私もなんとなくだが楽しいような気分になってくる気がする。が…

…練習に遅れてきただろうその人物。コートに新たに入った人物に、私は固まってしまった。

「え…!?」
「…
 は…!」

私の声にでも気付いたんだろうか。先に入っていた人達と同じジャージを身に付けている、あの人が振り返る。
私の視界には、驚いた顔が見えた。

私はあの人の事なんて、何にも知らない。
今まで知らなかったけど、今、貴方をひとつ知った。


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