昨日玲に言われた話し方の件だが、やめてみると自分で思っていたより気が楽になった。
もちろん、気が楽になったからと言ってこの特異な状況が変わるということはないのだが。




「じゃぁーん!草壁さん見てこれ!今日の家庭科の時間調理実習だったんだー!」

そう言って玲がリュックサックから出したのは透明なタッパーに入れられたクッキーだった。
ふたを開けるとふわっとバターの香りがして、今さっき夕食を食べたところだというのについ手がのびる。

「俺、お菓子はあんまり作ったことないんだけど、友達がこれ食べて美味しいって言ってくれて、俺草壁さんに食べてほしくて食べるの我慢して持って帰ってきたんだよぉ」

どう?美味しい?と聞いてくる玲に頷く。

「美味しいぞ。お前もほら、食べろ。」

なんだか、自分だけ食べているのが恥ずかしくなったので、タッパーに入ったクッキーを一つ掴み、玲の口元へ持っていく。

「えっ?い、いいの?…わっ、どうしよう、すごくうれしい…」

自分で作ったくせに頬を赤くして喜ぶ玲。ぱくりと小さな口を開けるのを見て、猫い餌付けしてるようだと内心笑う。

「うまいか?」

自分で作ったわけでもないのにそう言っていた。

「もぐもぐ、おいひいです。」

「お前、なんでも作れるんだな。なんでそんななんだ?」

素朴な疑問を言ってみる。最近の高校生は皆こんな感じなのか?だとしたら少しは見習いたいものだ。

俺の問いかけに、玲はうーん。と少し困った顔をした。

「えっと、俺んち両親共働きで、その、教えてもらったと言うか…」

「教えてもらったぁ?誰に?」

「…と、友達のお母さん…」

きっと共働きなのを知ったその友達のお母さんが見兼ねて家に呼んだりしたんだろう。

「いい友達持ったなぁ、よしよし」

「ぅ〜ん、ゴロゴロ」

「じゃなくて!!!お前ものるな!」

「えへ☆」








「んでね、黒羽はすっごくかっこよくてぇ、強くって、優しいんだぁ!」

こいつのその友達とかいう奴は元宮黒羽(もとみや くろう)はなんでもすっごくかっこよくて、強くって、優しいらしい。

「ふーーーーーーん」

そしてその惚気のような話を聞いてる俺は超絶機嫌が悪い。

いつもだったらウザいの一言でやめさせたりするのだが、なんかこういう顔されながら話されると言いずらい。

こんな、目キラキラさせて、頬赤くして、眩しいくらいの笑顔。

可愛い。悔しいがその一言に尽きる。

なんでもその黒羽とやらは小さな頃からの親友で、現在も同じ高校に通っているらしい。
しかも喧嘩がすこぶる強いらしく、学校のトップで、友達(玲はそう言っているがきっと下僕)も多く、先日の深夜の突然訪問の際の玲を支えていた2人もそうらしい。

「あ〜、草壁さんにも紹介したいなぁ」

「おー…あ、そういや俺の知り合いもお前に会いたいって言ってたな」

今日の昼に見た怪しい笑みを残した新崎を思い浮かべる。

「え!あの茶髪の罵られてる人っ!?」

「の、罵られてる…まぁ、そうだ。」

罵っているのが自分なだけに反応しづらい。
「えー!じゃあ明日っ!明日黒羽とその罵られてる人呼んで、パーティーしよ!俺料理作る!」

新崎も明日来るって言ってたし、まぁいいか。

「いいぞ。あいつも来る気満々だったし」

「やったー!!俺も黒羽連れてくるねっ!」

そうして決まったパーティーならぬ、食事会。
俺はやってくるさらなる特異な状況に蓋をし、ただ明日のさぞ豪華だろう料理に夢を馳せていた。




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