渡されたキーの部屋に着いた。
隣の玲は大袈裟なくらいに喜んで部屋のあちこちを見て回っている。

畳の匂いが落ち着くいい部屋だ。

俺は荷物を部屋の端に起き、部屋の奥にある、外が見渡せるようになっている一人掛けの椅子に座る。目の前の小さめのテーブルに携帯と腕時計を置く。

まだ夕飯までに時間があるし、風呂にでも入るかな。
フロントで温泉は地下一階と言っていた。

「草壁さんっ見て!これー!」

急に現れた玲に少し驚いていると、玲は浴衣を手にして満面の笑みを浮かべていた。

「浴衣か。」

紺色のシンプルな浴衣。小さくここの旅館の名前が入っている。

「うん!…草壁さん浴衣嫌?」

玲の小首を傾げる仕草に勝るものはないと思う。

「嫌じゃない。俺のサイズあるか?」

そう俺が言えば嬉しそうに浴衣の置いてある戸棚へ走っていく玲。
その後ろについて行ってみると、

「草壁さん、おっきいから一番大きいサイズだよね。これで大丈夫?」

「んー、多分大丈夫だ。」

玲が一つの浴衣を差し出してくるので、受取り、手に取り広げる。
たまにふくらはぎの途中とかになるのもあるけど、ここのはきっと平気だろう。

玲は俺のより一つ小さいサイズを選んだみたいだった。玲は背は低くないが、細い。ヒョロヒョロとかそういう感じではなく、こう、女性的な線の細さだ。

なにやら荷物を引っ張りだそうとしている玲を盗み見る。
こちらに背を向けて膝立ちで鞄の中を漁っているから小さなお尻が丸見えである。って、俺は何を考えているんだ…。
あ〜フリフリすんなって。

なんだか見てはいけない気がして視線を逸らしてしまう。
自分が同性のお尻に目がいくようになるなんて、予想外の人生になりそうだな。

「草壁さん!温泉!夕飯まで時間あるし、温泉入ろー!」

丁度俺も言おうと言おうとしていたので、そうだなと言って風呂の支度を始めた。






「うっわー!広…」

温泉がある地下一階に降り、お風呂から出たらアイスが食べたいとか話しているうちに男湯に着いた。
落ち着いた雰囲気に、脱衣所に広がる暖かい空気。まだ早い時間だからか人はあまりいない。

人がいないうちに入ってしまおう。

俺は未だ興奮してあちこち見て回る玲を捕まえ服を脱がせる。

玲は「あー」とか「うー」とか言いながら大人しく服を脱がされている。

上を脱がせ、流れでベルトに手を掛けたとき、初めて玲が抵抗した。
俺の手を抑える玲の指。白く細い指はほのかに赤い。

するすると目線を上に上げていくと、顔を真っ赤にして泣きそうな玲がいた。

「っあー、悪い。自分で脱げるよな!俺も脱がねぇと、」

「…」

デリカシーが無かった…今のは俺が全面的に悪い。つい年下だから子供扱いしてしまった。

玲に背中を向け服を脱いでいくと、ふとある事が気にかかった。

玲は暴力などは受けてはいないんだろうか。

さっきは脱がす事にしか思考がいってなかったため玲の裸を見てはいない。

でも、傷とかがあったら普通一緒に風呂入るの嫌がるよな。

あまり気にしないことにして風呂場で使うタオルを持ち玲の方を見た。
腰にタオルを巻いた玲も丁度俺の方を向いたところらしく、照れ臭そうに笑うと俺の手を取って風呂場へ向かった。

前を歩く玲の背中は綺麗だった。






「よし、頭洗ってやろう。」

「えっ!?」

月曜までめちゃくちゃ可愛がってやるって決めたからな。

よくの泡の立つふわふわの髪をかき混ぜながら、玲の身体が美しい陶器のような事に安心した。

無視という心をズタズタにする行為も許せないが、暴力なんて振るわれていたら怒りで理性なんて振り切れそうだ。




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