7
それから俺は毎日のように体液という体液を舐められた。血だったり、涙をだったり、汗だったり。響也は舐めながら自分は体液愛好家だと言っていた。
そんな日々に耐えることが出来なかった俺は一度、逃げようとした。
でもダメだった。屋敷の外へ出て、少し歩いた所で捕まってしまった。
そして、首輪を付けられた。鎖で繋がれた。
お仕置きと言っていつもよりひどく求められた。
痛かったし、悲しかった、ものすごく。
あの夜以来俺は響也以外の人に会わない。寂しかった。響也は昼間いない。俺はずっと一人だ。夜には響也が帰ってきて、求められる。地獄のような日々だった。
そんなある日いつものように鎖で繋がれ、床に力なく横たわっている俺の前に響也以外の人が現れた。
「見つけたっ!!ひよ!!!!!」
耳に馴染むその声とその呼び名に俺は目を閉じ静かに泣いた。
「た、かや、ん…」
たかやんだった。あの村で親より長い時間一緒にいた、たかやんだった。
二ヶ月たらずでたかやんは凄く大人びていた。それに比べ俺は明らかに一回り小さくなっていた。求められる日が続き、食欲もなくなり、水も飲まなくなっていた。
たかやんは俺の首輪と鎖を取ると抱きしめてくれた。
「ひよ……来るの遅くなってごめんな…」
ふるふると首を振る。
「た…やん…」
「ん?」
「あり、がと……」
最後に見たのは泣きそうに、でも暖かいたかやんの顔で、俺は久しぶりに安心して眠りについた。
次に目を覚ますとたかやんと優しそうな中年の夫婦がいた。たかやんはこの人たちに拾われたらしい。
その無瀬さん夫婦は俺の事も引き取ってくれた。お金持ちらしい無瀬さんは俺が響也に見つからないよう色々と手を回してくれて、俺は少しずつ昔のように元気になっていった。
無瀬さん夫婦は俺とたかやんを学校に行かせてくれて、俺は大体普通の人と変わらない知識を持つことが出来た。…俺の世間と言うか常識知らずには無瀬さん夫婦も驚いていた。
でもたかやんは俺より間抜けだったくせに今や学校では天才と言われていた。ずるい…。
俺は変わった声らしくて、あまり友達が出来なかった。
だから中学の3年間はたかやんとずっと一緒いた。でも時々響也の顔がちらつき、調子を崩した。
そんな時はたかやんが学校を休んでまで面倒を見てくれた。
そして、高校受験。
俺は無瀬さん夫婦の希望である近衛島学園へ。たかやんは高校は外国の学校へ行くことになった。
「あーあ。ひよと同じ学校行きたかったわ」
「はは。俺もだよ。…でもたかやんは将来有望なんだから、俺応援してるからさ」
夕飯を食べ終え、たかやん部屋にお邪魔して2人で話す。
たかやんは明日、日本を立つ。
「……そーじゃなくて、俺ひよが心配なんだよ。あれからまだ3年しかたってない。」
「3年もたったよ」
最近は響也の顔を思い出しても平気になってきていた。
あの事件からたかやんは俺に対して過保護になった。でもそれだけで、他はいつもの明るくって少し頼りになるたかやんだ。
「ひよはさ、真面目だから。沢山考え事するとすぐ熱出すし、変な輩に好かれるし…声エロっ…いや、色々あるけど、やっぱひよが近くにいないと俺寂しいよ。」
「…俺だって。たかやんいないと寂しいし、勉強教えてもらえないし、友達ゼロになるし……」
「おい」
「嘘だって(笑)…たかやんが日本帰って来てるって言ったら俺学校なんて放り出してたかやんに会いに行くから。絶対言ってよ?」
「おうよ。……なぁ、ひよ。」
「なに?」
「最後に抱きしめていい?」
真面目な顔で、そう言うたかやん。
「うん。いいよ」
気付いたらそう言っていた。
もう、高校を卒業する最低3年はたかやんに触れられないし、見ることも出来ないって思うと悲しくなった。
たかやんは隣いた俺の方に体だけ向けると優しく、それでいてしっかり抱きしめてくれた。
俺もたかやんの背に手をまわす。
耳ともでたかやんが囁いた。
"ひよにたくさんの幸せが訪れますように"
「ん…」
ありがとう。
もう、あんな事が起きませんように。
大事な人が傷つきませんように。
prev / next