俺の声は彼のもの | ナノ

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朝、いつも通りの時間に意識が浮上してくる。

でも、ちょっと違うなって思った。なんだか目を開けたくないなって思った。


「ん…」



でも、早く起きないとお母さんが怒るし、お腹も空いた。



俺は目を開けた。





「やぁ、おはよう。」



「え、な、んで?」



俺が目を向けた先にいたのは昨日会ったお兄さんだった。最後に見た顔と同じ顔をして俺を覗き込んでいた。

なんで、家にいるの、って言いたかった。

でも…



「ここ、どこ…?」



俺が寝ているベッド。それが置いてあったはずの部屋が、無かった。

屋根も壁も、二階も無かった。



俺はただ土の上に置かれたベッドで寝ていた。

「君が寝ている間にね、」

お兄さんが話し出す。でも俺はそれどころでは無かった。



お隣の家も前にあったはずの家も、全部無かった。あるのは耕した後みたいな土だけ。

小さな村だったから、家が無くなるとただの野原みたいになっていた。



誰もいなかった。

「っ!お、お母さんは?お父さんはっ!?」

なんで、なんで、いないの。どこへ、俺を残してどこへ、行ったの。

「日和くん。君のお父さんとお母さんはね、ずっと約束を無視していたんだよ」

約束?

「ここの土地はね、もう三年くらい前からダムになるって決まっていたんだよ、でも君のお父さんとお母さんはそれが嫌だったみたいで、ずっと知らん顔していたんだ。」

お父さんとお母さんが約束を無視した?

「そ、そんなの嘘だよっ!だって、だって、」

無視していたという三年間、以前と変わらず俺を抱きしめてくれてた。笑ってた。
俺がたかやんと喧嘩して無視してた時も駄目だよって言ってくれた。

「日和くんのお母さんとお父さんはもうここにはいないよ。遠いところへ行っちゃったよ」

お兄さんは笑顔でそういった。

ココニハ、イナイ?

じゃあ、僕は?なんでここにいるの?今から追いかければ間に合うかな、俺が寝坊しちゃったから、先行っちゃった?

やだ、やだ、やだ!

ベッドから飛び降りてお兄さんを力いっぱい突き飛ばす。
それから俺は走った。


早く、もっと早く走んないと

お母さんとお父さんに置いて行かれちゃう。


寝起きだったから、パジャマだったし、裸足だった。
でも、そんなこと気にしてなんかいられなかった。


村の外へなんか出たことがなかった。小さな村は全力で走ったらすぐに過ぎて、右も左もないような森の中へ。俺は走っていった。


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