「お帰り、楽しかったか?」
「おん」
今日は蔵ノ介の誕生日だった
部活の連中達と晩飯を食べ、祝ってもらったばかり
ただ一つ気掛かりなことがあった
「おかん、あいつから電話あった?」
「あいつて…来とらんで?」
去年から付き合っている彼女なのだが、ハワイへ越してしまって、傍にはいない
所謂、遠距離恋愛というものだ
電話ぐらいはくれると思っていたのだが…
「どうする蔵ノ介ー愛想尽かされたんとちゃうん」
「冗談言うなやー」
笑う母に適当に返し、部屋に篭る
でも、さっきの言葉が離れない
愛想尽かされた?
1番考えたくない答え
少し暗くなった自分に、期待の音が流れた
ディスプレイを見ると、今一番会いたいやつの文字
「もしも『間に合った!?』何のことや」
出るや否や、焦った声が聞こえた
『蔵、そっち今何時!?』
「今か?11:58やな」
『おーギリギリセーフやね!』
こっちの気も知らず、明るい声で返ってくる
ちょっと、ムカつく…
「何言うとんねや、意味不明やし」
『あーごめんなーこっち今5時ぐらいやねんけど…日にちごっちゃやからさー…気づけてよかったわ』
時差…
言われてみれば、そんなものもあった気がする
なんて思いだすと、いらつきも無くなってしまった
ただ、いつもみたいに
電話を楽しみにしていたみたいに
「朝早くやってんな、おはよう」
『おん。おはようーそんで…』
君の声が
『誕生日おめでとう』
より近く感じる瞬間
PM11:58(最後は絶対君の声)