小説 | ナノ




「キャプテン、お手伝いしましょうか?」
「いらねェよ」


 鼻で笑って一蹴された俺の気遣いと共にキャプテンの鬼哭が海軍をまとめて両断する。その艶やかさに、俺は魅了されている。
 下っ端揃いの海軍の軍艦には主に補給目的で襲撃した。次の島に立ち寄るまで食料と燃料が心許ないためである。本来は海上を進んでいたが、見張りの者より海軍の軍艦を発見、偵察船のため大物は乗っていないだろうと見切りをつけたキャプテンの一声により潜水した。海上からゆっくり仕掛けるほどキャプテンは馬鹿じゃない。いきなり浮上してきた潜水艦に、海軍も咄嗟の判断が出来ずこちらが優位となった。だがもともとハートの海賊団は少数精鋭のため、下っ端揃いの海軍とはいえ一個大隊を相手にするのは骨が折れる。ほとんどその功績をキャプテンが掻っ攫っていくけど、それでも一人当たりの交戦回数はいつもより多い。


「チッ……shit!」


 頬を掠めた刃に苛立ちが募る。表面が焼けたような熱が走り、痛みに口端が歪む。俺に傷をつけてくれた海軍の腹のど真ん中に躊躇なく鉛玉をくれてやった。二つ前の島で見つけた散弾だ。お気に召してくれたかな?
 愛銃を持ち替えて弾倉を込める。装填。シャチに襲い掛かる海軍軍曹の米神を正確に射抜けば、へらりと笑った顔を寄越された。


「ニイナー、血が出てるぜ?」


 ここ、と自身の頬を指したシャチに嘲笑が漏れる。お前だってボロボロだろうが。


「肋骨いってるやつがいう台詞じゃねぇな」
「うっ……これはちげーし。乗り込んだ際に打ち所が悪くて……」
「最初っからかよ。ダセェ」
「うるせぇよ!」


 自身の体を庇うようにして地団駄を踏むシャチにもう戻っていろ、と船を指差すと「覚えていろよマイフレンド!」と叫んで見事なまでの宙返りをして自分達の船に帰っていった。直後に聞こえた呻き声はなかった事にしてやろう。
 さて、と。残る敵はキャプテンとペンギンが片付けてくれている。減った人員はシャチのように船に帰ったか中に物資を漁りに行ったかのどちらかだろう。俺も物資班に混ざろう、と足を進める。いつもより笑みを深めたキャプテンが解剖実験を行っている。久々の戦闘を楽しんでいるようで何よりだ。
 船内へ続くドアは壊れてお情け程度に引っかかる蝶番にきぃきぃ、と音を立てていた。勝手に開いているそこに入ろうと一歩を踏み出した時、視界が翳った。


「ーーーニイナ!!」


 珍しく焦燥を含んだ大声をキャプテンが出したことを思い出すのは事が終わってからだった。その時はただ俺を呼ぶキャプテンの声が聞こえただけだった。
 飛びかかってきた海軍に反射的に銃を引き抜いて照準を定めたと同時。目の前に「DEATH」の文字と鮮血が踊った。生温いそれが鼻先に付くのと同じにいつの間にか引き金を引いていた。鉛玉は海軍の心臓を射抜く事ができたが、俺の関心はそこにはない。


「……キャプ、テン?」
「ッ、止血帯、あるか……」
「キャプテン!ああ、くそ、ペンギン!」


 思ったより深かったのであろう傷口を左手で抑えて、止め処なく鮮血が流れる右手が震えていた。動脈が切られているとはいえ、このくらいで失血のショックにはならないだろう。だが、手のひらから肘まで肉が見えるほど深く斬り裂かれたそれはすぐに治りそうにない。俺はツナギを脱いで自身のタンクトップでキャプテンの傷を抑えた。驚いた様子のペンギンに手短にその場の指揮を任せて、蒼白な顔のキャプテンの背中と膝裏に手を差し入れて担ぎ上げると急いでポーラータングに戻る。意識ははっきりしている。痛みに歯を食いしばる様に焦燥が駆られた。
 扉を背と肩で荒々しく押し破り、刮目する仲間を「どけ!」と一喝して治療室に入る。後で考えてみたら、半裸の俺が血濡れのキャプテンを横抱きにしてたらそりゃ誰だって驚くよな。


「…………すみませんでした」


 麻酔をして縫合。優しくガーゼを当てて丁寧に包帯を巻いた。反対側だったらキャプテンの刺青が削れるところだったからこれでよかったと言えばよかったのだろうか。


「お前の処置が早かったおかげで跡は残らねェだろうよ。そんなしょげることはねェ」


 鎮痛剤が効いているおかげか、幾分表情を和らげたキャプテンが俺が巻いた包帯をしげしげと見る。いつもあまり良いとは言えない血色だが、それくらいにまで顔色も戻ったのでよしとする。
 俺もそんなキャプテンを見てようやく昂っていた神経が落ち着くのがわかる。あの血の気が引いたと思ったら爆発的に血が頭に回っていく感じは、二度と味わいたくない。
 漸くひと段落ついたと思ったら裸の上半身が肌寒く感じた。消毒のアルコールが鳥肌を誘う。血濡れのタンクトップとガーゼ達は袋に入れて纏めてある。医療衛生が行き届いているおかげで結ばれている袋の口に血液は付いていないが、今にも滲み出してきそうなそれに吐き気が戻ってきた。


「キャプテンも……俺なんかほっといてくれれば怪我しなかったんですよ」
「考えてみろ、俺の傷とお前の命。どちらに重きを置く?」
「……キャプテンの傷と言ったら?」


 俺が眉を寄せて答えると、キャプテンは面白そうに喉を鳴らして笑った。


「お前の命は随分安いな。忠誠心が高いのは褒めてやるが、安売りするモンじゃねェ。お前の命はこの船に乗った時から俺のモンなんだ。軽々と敵に渡すモンじゃねェんだよ」
「キャプテン……それ、プロポーズですか?」
「今すぐ気を楽にして神に祈れ」


 ROOMの構えをとったキャプテンにごめんなさい!と言うとうるせェとばかりに向こう脛を軽く蹴られた。革の靴先が骨に当たって地味に痛い。


「大体、今更お前の代わりを探すのも骨が折れるんだ。精々俺のために働いて俺が許可したら俺のために死ね」
「やだキャプテンカッコいい」


 ニヤリと不敵に笑ったキャプテンが手の甲で俺の頭を叩いて立ち上がった。「お前も風邪引く前に着替えろ」と言って立ち去った彼はお説教を忘れていった。本当なら、敵に気付かなかったことを咎められて怪我をさせたことを詰られるのを覚悟していたのに。嗚呼、もう本当、好きだよキャプテン。





「キャプテン、お手伝いしましょうか?」


 ノックを数回の後、珈琲と共に船長室に入ると報告書を纏めているキャプテンがいた。羽ペンを握れないのか指先で弄び眉間に皺を寄せる彼を見てそう声を掛けざるを得なかったのだ。


「……悪いが、頼めるか」
「勿論」


 デスクに長い脚を組んで収めているキャプテンに珈琲を渡したら紙の束とペンを借りてソファテーブルに座る。前に罰当番でやったことがあるのでそれなりに勝手はわかるのだ。胸を張って言えることではないけど。


「キャプテン、ここ数字違いますね。多分これエタノール83mlじゃなくて80mlだと思います」
「ああ……シャチか。あの馬鹿、希釈間違えてねェよな」
「多分……」


 デスクから俺のいるソファへ移動してきたキャプテンが珈琲片手に隣へ座り込んだ。一人分の体重に傾く。珈琲の匂いが強くなって、俺の手元を覗き込むキャプテンに肩が跳ねた。柔らかな髪と白い項が見える。ピアスのキャッチまで目に入るのはダメだ。保て理性。


「ま、まあ……これくらいなら大丈夫でしょうよ。前に軟膏でやった時は肝を冷やしましたが」
「ああ、あれは前にシャチが怪我した時に丁寧に塗り込んでやった」
「そんな……ワセリン足してやってくださいよ……」


 悪どい笑みを至近距離で見せてくれるキャプテンに引きつった声が出る。会話の内容的に違和感はないはずだ。誤魔化せたなら何よりだ。よりによってこの船のキャプテンに邪な想いを抱いているなんて知られたらマストに吊られる。まだバレる訳にはいかない。


「ニイナ、口開けろ」
「え? ……ムッ!」


 漸く俺の視界の端に移行してくれた、と思ったら掛けられた言葉に横を向くと何かを強引に口の中に突っ込まれた。反射的に歯を閉じると噛み砕かれたそれから芳しい香りがした。チョコレートだ。口内のものがわかると咀嚼を続けて蕩けるそれを喉奥にしまい込んだ。素直に美味い。


「……美味しいです。贈り物ですか?」
「…………いつだったか買ったきりだったモンだ。俺は食わねェから食え」
「なんの為に買ったんですか」


 また差し出された一口大のそれを口を開いて誘い込めば、キャプテンの指から放たれた。いつのまにかあった箱には残りあと二つ。手のひら大の箱は綺麗にラッピングされていたようだ。よくキャプテンは贈り物を貰うから俺らが毒味と称して貰ったりするし、こうやってペンギンとかが一口食べてからキャプテンも漸く口を付け始めたりするのだ。でも今回は俺にとって嬉しい毒味らしい。


「……ようやくマシな顔付きになったな」


 しまった、俺用にも珈琲淹れてくればよかった。喉が乾く。三つ目のチョコレートを放られた時に微かにキャプテンの指が唇に当たったような気がした。気にしない、気にしない。まだ切れるな理性。


「え、俺そんなに酷い顔してました?」
「そりゃ瞳孔開き気味の奴がペンギンや仲間に喝入れて俺を担ぎ上げて、すげェ気魄で手際良く処置してくれりゃァな。普段もそれくらいキビキビしてほしいモンだ」
「無茶言わんでください」


 楽しそうにクツクツ笑うキャプテンに呆れた溜息をついた。何も言わなかったと思ったらそんなことを考えていたのか。それだけ酷い面をしていたのなら、このチョコレートはリラックスしろとのことだろうか。確かに糖分は大事だ。張り詰めていた神経が切れることなく撓むのを感じた。誰かに渡すつもりだったのであろう、黄色いリボンが解かれて焦茶色の包装紙が無残に剥がされたパッケージ。それの残りの一つをキャプテンがつまみ上げた。渡されるはずだった誰かさん、ごめんね。


「おら、ラストだ」
「俺もう口の中甘ったるくて……キャプテン食ってくださいよ」
「いらねェ。大体これは……」


 不自然に言葉を切らしたキャプテンがそのままの姿勢のまま固まる。どうしたことだろう。彼らしくない言葉の詰まり方に俺は首を傾げる。それにキャプテンは眉間の皺をより深くした。


「……キャプテン?」
「…………とりあえず珈琲飲め。あとそこ、日付違う」


 一度チョコレートを置いてからその手が珈琲のマグカップの取っ手を此方に寄越す。間接キスですかキャプテン!
 とりあえず恐れ多くもそれを頂いて、修正の箇所を正す。珈琲の苦味が久しい。この香ばしさとチョコレートの甘ったるさが合う。きっとお高いチョコレートなんだろう。マグカップから顔を離すと隙も与えず唇にチョコレートが寄せられる。


「……んぐっ」
「抵抗すんな」


 口は苦味を得て少しはまともになったけど、胃はもう甘いものを拒んでいる。ちょっと閉口してみたけど、少し強めに押されてしまえば受け入れるしかなかった。その際にはっきりとキャプテンの指に触れたのがわかった。誰か勘違いだと言ってくれ。


「……甘ェな」


 いや、むしろ蔑んでくれ。
 俺が素直に食べなかったため、溶けたチョコがキャプテンの指につく。それを彼は舐めとった。意図せず性的なそれを匂わすような仕草に心臓が一拍強く戦慄いた。俺のフィルターのせいかもしれない。だが、その指は……俺の唇に、触れた指だった。
 固まる俺を余所に気にした様子もないキャプテンは空箱を捨てに立ち上がった。「早く仕上げねェと増やすぞ」なんて脅されて漸くその背から視線が外れた。
 羽ペンが紙に引っかかる度に言いようのない気持ちが募る。増やされてもう少し一緒にいるのもいいけど、今はこの気持ちと表情に整理をつけさせてほしい。なんだか俺だけがこんなに意識しているようだ。悔しいので、やり返してやってもいいでしょうか。ねぇ、キャプテン。





「キャプテン、お手伝いしましょうか?」
「あ?」


 くるりと自分が持ってきたフォークを回す。本日の夕飯のメニューはサクラアユのムニエルとポルチーニのクリームパスタだ。残念ながら米はなくなってしまったのでリゾットみたいなスプーンで掬えるものは作れなかったらしい。スプーンならまだしも、左手でフォークを扱うのは辛いらしいキャプテンに話しかけると、不機嫌丸出しの顔を寄越された。右手は器用なのに、左手で上手くパスタを巻けないキャプテンかわいい。


「……結構だ」
「まーまー、そう言わずにィ」


 少し強引に俺は自分のトレーを持ってキャプテンの隣に座る。普段ペンギンが座る場所だが、手筈は整えているんだ。持っていたフォークをキャプテンのパスタに綺麗に巻き付けて、口元に近付ける。さっきのお返しの始まりだ。
 それにキャプテンは後ろに下がる素振りを見せるが、椅子に座っているためそこまで下がれるわけではない。遅れてきたペンギンがキャプテンの前に座ってその様子を笑う。


「そうですよキャプテン、ニイナのせいなんだからちょっとくらい使ってやってくださいよ」


 ナイス、ディアフレンズ。こっそり親指を立てると帽子の隙間からウインクを寄越された。お前それカッコいいからやめて。
 ペンギンの援護射撃があったおかげか俺が急かすようにキャプテンを呼んだからか、彼は一瞬の戸惑いの後におずおずと口を開けた。それにゆっくりとフォークを差し入れる。まるで雛鳥の餌やりのようで不思議と暖かい気持ちになる。カッコよくてエロくて可愛いなんて最強スペックすぎやしませんかね、キャプテン。
 何度か繰り返すとキャプテンも慣れたのか、次はこっちとかオーダーを付けてくるようになった。仰せのままに、マイロード。


「ニイナももう少し視野を広くしたらどうだ? 狙撃手なんだからそうであるべきだろう」
「お前のお説教は聞き飽きたぜ、ペンギン」
「大体狙った獲物をすぐ狙撃しないのも悪い癖だ。狙っている間に逃げるぞ」
「すぐ発砲したら気付かれて警戒されるかもしれないだろ。外堀から埋めるのは基本だ」
「今に痛い目見そうだな」
「見ないさ。急所に一発、それで終わりだ」
「全く……キャプテンもこの馬鹿になんか言ってやってくださいよ」
「キャプテン、ほらあと一口」
「……あ、ぁ」


 俺とペンギンが言い合いをしていてもキャプテンは止めることなく食事に専念してくれていた。俺とシャチならすぐに手を出す喧嘩へと発展するが、ペンギンとなら口で終わると思ってくれているからだろう。実際俺がお説教されているだけなんだけど。
 言い合いをしていてもキャプテンへの給仕は忘れない。最後の一口となった綺麗な薄ピンクのムニエルと付け合わせのアスパラをその口元へ呼びかけと共に運ぶと、キャプテンは不明瞭な返事を寄越した。そして覚束ない唇で受け入れてゆっくり咀嚼する。お腹いっぱい?と聞くと曖昧な頷きと共に帽子を目深に被った。
 その頬が、赤く色づいているのに気付いたのは誰だろう。その呼吸が、荒くなるのを自制しているのに気付いたのは何人いただろう。俺が内心ほくそ笑むのに気付いたのは、ペンギンだけだろう。


「どうしたの、キャプテン。傷痛む?」
「ッ!」


 俺がその肩に軽く触れると、大袈裟なほど跳ね上がった肩と詰めた息に心配に下げた眉が悦に浸りそうになる。白々しい俺の声が少しばかり大きかったようで周りからキャプテンを心配する声が数個返ってきた。それにキャプテンは答えることなく荒々しく椅子から立ち上がってふらふらと早足で食堂を出ていった。
 本当キャプテンってばカッコよくて可愛くて、エロい。


「……知られたら嫌われるぞ」
「嫌われないさ、外堀は埋めてきた」


 綺麗に食べてくれたなぁ、と皿よりも持っていたフォークをくるくる回して眺める。それをトレーに置いてからキャプテンが中途半端に使っていたフォークでパスタを巻く。まさか俺がフォークを持参していたなんてキャプテンは知らないだろう。それに媚薬を塗り込んでいたなんて、尚更。
 協力者であるペンギンは複雑そうな顔をする。キャプテンを敬愛するはずなのに共犯者となった可哀想な苦労人だ。


「証拠を残すヘマはするなよ」
「安心しろ、今から仕留める」


 BANG、と指のピストルを撃ち鳴らして冷めたパスタを頬張った。うん、美味い。





「ねぇ、キャプテン」


 何も知らない俺の獲物は無防備に急所を俺に見せびらかしている。それを撃ち抜くなんて朝飯前だ。

 夕飯も早々に切り上げて俺はゆっくりとキャプテンがいる船長室に向かう。見聞色の覇気のお陰でキャプテンがどこで何をしているかなんて簡単に把握できる。覇気が使えるなんて知っているのはペンギンだけだ。キャプテンにはこの狩りが終わってから告げる予定だ。
 だって、そうだろう。本当は今日のあの不意打ちをかましてきた海軍の存在に覇気のお陰で気付いていました、なんて言えるはずもない。
 だからキャプテンは知るはずもない。全て俺が知っているということを。本当は襲い掛かる海軍に気付いていた。俺を庇ってくれるのを待っていたよ。担ぎ上げた時に僅かに擦り寄ってきたね。そのチョコレートは俺のために買ったけど渡せなかったってペンギンから聞いたよ。間接キスに顔が赤いのも知ってるよ。前の島の補給で米を買い忘れたのは俺なんだ。その時に媚薬となる材料をペンギンに用意して貰ったんだ。
 用意周到に準備したんだ。味方全員が全て組み込まれたシナリオだと気付かないままに。

 隠すことない笑みと一緒に普段は絶対にするノックもなく扉を開けた。気配を殺していたからか、それとも我慢できなかったのか。俺が扉を開けるまで来客に気付かなかったようで、目の前のベッドに横たわってジーンズの前を寛げるキャプテンがいた。ダメだよ、鍵かけないと。俺が後ろ手で掛けてあげるからさ。
 驚いたキャプテンが言葉もなく固まる。ああ、赤い顔と潤んだ瞳。そして荒くなる吐息に俺まで煽られそうだ。デザートは美味そうだ。俺は舌舐めずりをする。開けられたチャックから覗く下着越しの起立したモノに噛み付きたい。
 キャプテンは暫く固まっていたが俺が床を鳴らすように靴を進めると、漸く我に返ったようで怒ったように眉を上げて俺に怒鳴るために口を開けた。そんな様子も可愛くて仕方ない。それに被せるように彼を呼ぶと、喉を引き攣らせたのを目敏く見つけた。
 右手の包帯に少し血が滲んできている。後で代えてあげるからね。しかし慣れない左手でどうするつもりだったのだろう。そんなものよりもっと気持ちいいこと、してあげるよ。


「お手伝い、しましょうか」


 セーフティを外してマズルを獲物に押し当ててしまえば後はトリガーを引くだけ。ほらペンギン、見てみろよ。外堀さえ埋めれば簡単に射留めることができるだろう。
 この狩りに終わりを告げる銃声が鳴るまで、あと少し。



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