小説 | ナノ



 雲ひとつない快晴の空。複数人での甲板掃除にうってつけの日でもあった。デッキブラシ片手に床を擦る音が重なる。潜水艦は何度も海中へ潜るから汚れが付きやすいため、こうしてこまめなメンテナンスが必要らしい。ガレオン船は腐食が大敵だが、鉄の塊である潜水艦は錆が大敵だ。命を預けるため海中に潜るなら、なおさら。
 昨日のあれから。シャチはなんてことない様に振る舞ってくる。むしろあれは夢だったんじゃないかというように気さくに話しかけてくるし、笑ってくれる。だけどその夢とやらを思い出す度に突き付けられたナイフと悪寒が目を覚ませと警告していた。
 私はただ、勘違いしていただけだったのだ。彼らは私を信頼しているわけでも友好関係を築いているわけでもない。ただそう、許容していただけだったのだ。よくよく考えてみれば私は単独行動をしていない。プライベートな瞬間以外は必ずペンギンかシャチがそばにいたから二人は見張っていたのだろう。親切心で目的を隠している。私を不快にさせないために。いや、もしかするとスパイだと思われている可能性がある。別にトラファルガーをどうこうするつもりはないが、裏切る可能性があると思われるのはこちらとしても不本意だった。治療が終われば大恩ができる。その後は適当な所に下ろして貰い、見逃すつもりだ。だからそれまではなるべく目立たないようにしなければいけないが、ひとつだけ心残りがある。私の行方と後輩のことだった。
 突然拐われた私の行方を海軍は探すだろうし、彼が誘拐などと不名誉なことで世間を騒がせて島に降り立つのを妨害するつもりはない。まあ知名度が上がった方が彼としても本意なのかもしれないが。それは二の次として、治療期間が長引いてしまえば折角昇格した私の地位がなかったことになる懸念があった。本部としても新しい人材を派遣しなくてはいけないだろうし、万が一私がその地位に就けなくなったら後釜として後輩を推薦するつもりではあった。その旨だけを本部に伝えたいのだが、こうして外部との連絡手段を断たれるのは辛い所がある。トラファルガーに直訴して隣で見張ってもらうのはどうだろうか。だが却下される場合もある。だから私は昨夜考えた作戦を実行することにした。

「……よーし、よし」

 シャチが他のクルーに呼ばれている瞬間を狙い、船の影になる場所で海軍のバッジを空に翳して一羽のカモメを呼ぶ。昨夜のパンの残りを与えているうちに手紙をその脚に括り付けた。この個体は海軍が秘密裏に進めているプロジェクトの一部だった。伝書鳩ならぬ伝書カモメ。何処にいてもそのカモメを見つけられれば緊急時でもこうして正規ルートを外れて緊急の手紙を運べる。下積み時代にそのプロジェクトの個体のお世話係をしていた。この時ばかりは父の七光りに感謝をする。秘匿性が高いため普通の下積みには任せられない仕事だろうし。まだ試運転の段階だと聞いていたが、背に腹は変えられない。

「よろしくね」

 最後に自分の海軍コードを伝えるとカモメは敬礼して飛び立った。その瞬間に私の名前を遠くから呼ばれる。咄嗟のことで驚愕に飛び上がってしまい、声が裏返ってしまった。
 陽射しの下に出る時に振り返るとカモメの姿はなかった。遠くの群れに混じってしまったのだろうか。
 その瞬間、船がグラついて足元が浮き柵に捕まった。海が波立ち、飛沫が顔にかかる。

「う、うわあぁぁ! 海王類だーッ!」

 誰かが叫んだ声につられて顔を上げると、船体に影を作る巨大な海王類がいた。イカのような足と魚のような鱗と鳥のような頭を持っている、大変気持ち悪い海王類だった。しかしこんな小さな船など彼らにとってはただの鉄屑で、非力な私たちは簡単に捕食されてしまう。逃げ場などないのだ。砲撃のようなものくらいなら太刀打ちできるかもしれないが、武器も持たず丸腰でへたり込む私に襲いかかる触腕をただ眺めるしかできなかった。

「───退け!」

 絶望の狭間に、一縷の怒号が轟いた。希望と言うにはあまりに鮮烈で、救いの手と言うにはあまりに乱暴なそれは雷鳴と似ていた。太陽光が弾けたような閃光が冷たく引き裂いて、私を踏み潰すはずだった触腕がボトッと重い音を立てて側へ落ちる。トラファルガーの能力だと気付いた時にはもう一本触腕が落ちてくる。無論痛みはないと言えど自身の腕が切り落とされて海王類が怒らないわけがなく、激昂のままに残った腕を振り回す。波立つ海面と揺れる甲板。トラファルガーも不安定な足場では決定的な致命打を与えられずにいるようだった。

「ニイナ! こっちだ!」

 波の音と船体の軋む音の隙間でシャチが吠えている。私のために差し伸べられた手を取ろうとしたところ、切り落とされた触腕がうねりシャチの体を跳ね飛ばした。

「シャチ!」

 飛ばされた彼の体が扉から出てきたベポにぶつかる。武器を多数持っていたベポがそれを派手にばら撒きながら共に倒れた。ふと自分の影ではない暗さが視界の端に入って転がりながら避ければ、そこには怒り狂った触腕が出鱈目に跳ねていた。彼の能力は切断することで戦力を大幅に削ぐことができることが利点だが、切断先にも感覚があるため完全に無力化させるわけではない。実際に見た目よりも知能があるのか、感覚を掴んできた海王類がトラファルガーに反撃をする。暴れる触腕を抑えようとクルーが奮起するものの、その巨大さに四苦八苦していた。
 だから、とどめが必要だと思った。膠着すればするほど船体の破損が大きくなる。揺れて崩れた体勢を床を転がることで衝撃を緩和させ、ばら撒かれた武器を手に取った。転がった薬莢を一つ拾い上げ、装填する。ボルトを起こして照準を定める。こんなに揺れて不安定な体勢で撃ったことはない。これほど命の危険を感じる場所に来たことはない。私はずっと安全なところで微々たる首の値しかつかない小悪党だけを狩ってきた。そんな私ができることなんてなにもなかった。海軍にいたって最前線では足手纏いだし、誰かの穴埋めだろうと昇級できるチャンスも今回限りだろうと思っていた。そんな安っぽい掃いて捨てるだけの命なんて、見返りを持たなかった。

 ──────ダァンッ!

 雷鳴と間違うほどの轟音が耳元で鳴る。大きな反動は全て右肩に集約され、肩が外れたのかと思ったほどだった。その犠牲を払った弾丸の行方は、真っ直ぐに怪物の眼球を撃ち抜いた。途端に傾く巨体と劈くような雄叫びを切り裂くように、トラファルガーが海王類の首を刎ねた。落ちた首を追うようにその巨躯も波間に沈み、気を失ったのかあれほど跳ねていた触腕も静かに佇む。船の揺れも揺籠のように落ち着きを取り戻し、残されたのはびしょ濡れの甲板と疲弊した体だった。水飛沫さえ弾け飛ぶほどの歓声が上がる。この船の船長を讃える言葉や無事を祝い抱き合う体の隙間に、納刀の冷たい音がこちらに届いた。鋭い視線と、交差したような気がした。

「ニイナ! ナイスアシストだな!」
「シャチ……」

 右肩を庇う私に気を遣ってか、左肩を優しく叩かれる。シャチも海王類に跳ね飛ばされていた腹を抑えてる。もしかすると肋の一本でも折れてるのかもしれない。私も謝礼の意味を込めてシャチを気遣おうと口を開けた時、歓喜の声の隙間から冷静な二つの声が聞こえてきた。

「あれ、どうします?」
「邪魔なら捨てろ。食えそうなら今日の夕飯にでも出せ」
「不味そうッスね」
「物資が少ねぇって言ってただろ。二人は救護室に行け。ペンギン、治療してやれ」
「アイアイ」

 海水をたっぷり含んだ服を脱ぎながら気怠げにトラファルガーは歩み寄ってきた。隣にいたペンギンに声をかけて預けていた鬼哭を受け取り、私たちを通り過ぎて船内に入ろうとする。その僅かなすれ違いの瞬間、周囲の雑音が止んだような気がした。実際はそうでないことはわかっているが、きっと私の全神経がその声を聞き漏らすなと凪いだ空間を作ったのだ。

「……よくやった」

 ───私は称賛されるような立場でもなかった。私はただ、あの怪物の隙が出来ればいいと思っていた。そうすればトラファルガーが致命傷を負わせるだろうし、もしかするとこの行為は他の誰かのポジションだったかもしれないのだ。でも私が誰よりも先手を打った。小さな運が重なって、私の引き金がきっかけを作ったのだ。
 ちっぽけな私の勇気が、少しだけ命に価値を見出してくれた。




 それから立て続けに仕事が舞い込んできた。どれも下積み時代を思い出す雑用ばかりだ。手際は悪い方ではないと思う。だから任せられるのかもしれないが、暇を持て余したり見張られたりするストレスを考えると仕事に没頭した方がまだ良い。実際に私のことをよく思わないクルーと仕事の会話から始めていくと、あっさり打ち解けたりしていく。それが人伝いに伝染していき、話しかけられる頻度や会話が続くことが増えた。一部はまだ冷たい目で見下してくるがそこは無理に打ち解けようとは思わない。心を許せるほど馴れ合うつもりはなくても、生活が潤滑に進むことは大切だ。どことなく職場と一緒だな、とちょっとだけホームシックにはなった。

「おっ、戻ったか」

 思ったよりも仕事というものは手こずるもので。右肩の軋みがそれを助長する。手負いといえど私よりも明確に傷がついたクルーは多く、その仕事を肩代わりしていればこんな時間になってしまった。食堂方面から歩いてきたペンギンとシャチを見て夕飯を食いっぱぐれたかと思った。その私の落胆した顔と腹の虫に二人は笑う。

「安心しろ、まだ残ってるぞ」
「悪いな、俺の分の仕事も任せちまって」
「それはいいよ。私よりシャチはもう大丈夫?」

 触腕に跳ね飛ばされた衝撃はベポによって緩和されただろうが、肋が一本折れていたと聞いた。頑丈なベポがクッションになってくれたからこの程度で済んだだろうが、もしも硬い壁に叩きつけられていたら背骨も折れていたかもしれない。

「俺はもう平気。それよりニイナは悪化してねぇか? 明日の甲板掃除は変わるからよ」
「ありがとう、助かる」
「じゃ、よく食べてよく寝て療養しろよー!」
「今日のシチューはまずいからなー!」
「えっ」

 唐突な宣告に飛び上がりそうになった。冗談なのかもしれないが、昼間に彼がペンギンに言っていたことを思い出す。あの巨人族の腕にも負けない大きさの触腕はどうやらハズレのようだった。ピンポイントで美食家も唸らせる食材が手に入るわけでもないが、それにしても試食くらいしてから出して欲しかったものだ。空腹な胃はどれだけ許容してくれるだろうか。
 少しだけ重くなった足取りでもすぐに着く距離に食堂はあった。薄暗い廊下に暖かい光の筋が漏れている。そこに惹かれるように近付き、扉を開けば誰もいないがらんどうの食堂が広がっていた。いや、一人だけぽつんと静かに座っていた。

「ようやく終わったか。ご苦労」
「……いえ」

 バタン、と重たい本が閉じる音を鳴らす。中央より少し奥。いつもの指定席にいるトラファルガーは夕飯の香りも温度も冷め切った食堂で一人、医学書を黙読していた。
 そして座れ、と言うようにトラファルガーの対面のテーブルを指先で指定される。爪と木が打つかるノック音が軽快に───だけど少し胃の底を重くした。私が椅子に座るのと反比例して彼が立ち上がる。キッチンの奥で食器が鳴る音がして、遅れてシチューの匂いが届いた。すぐに背後から目の前に皿を置かれる。刺青まみれの手がスプーンと水の入ったコップを置く様を見て、漸く彼が装ってくれたのだと気付いた。

「怪我人を働かせて悪かったな」
「いえ、私はまだ軽傷だったので。貴方はもう済ませたんですか?」
「ああ。俺のことは気にするな」

 この船の主人が何故ここに一人残っているのか聞くのは野暮だろうか。そしていくらコックがいなくたって私一人でご飯を装うことはできるのに、何故船長自らサーブしてくれたわけを聞くのも野暮というものだろうか。そして何故、立ち去ることも再度読書を再開するわけでもなくただじっと私を見つめるわけを聞いても教えてくれるだろうか。
 どことなく居心地の悪さを感じながらシチューを口に運ぶ。香草が少しキツイくらいだが特別不味いわけではない。付け合わせがパンではなくご飯なのは彼の好みかもしれないが、纏めて口に入れても合わないわけではない。

「……美味いか?」

 静かなこの空間で私の咀嚼音が響かないか、少し心配していたところに今まで黙っていた彼から言葉を投げかけられて肩が跳ねてしまった。皿の中身はすでに半分を消費していて、私も淡々と胃に内容物を詰め込むだけの作業をしていただけだから尚更。
 先ほど二人が言ったようにまずいわけではない。ただちょっと、肉が独特なのだ。食感は鶏肉に近いのだが、磯のような臭みがあって固い。だから香草を強めに入れているのだろう。海軍でもありあわせやその時現地で獲れた獲物などを使って食事を賄う時がある。あまりサバイバルを経験したことのない駐屯所勤めの私だが、この部類ならまだ食べれる方だと理解している。

「そうですね、美味しいです」
「それはよかった」

 なるべく食べれるようにとシェフが調理したものなのだから、その努力を称える意味でもそう言葉を紡いだ。そこでふと頭を過ったのはこのシチューをトラファルガーが作ったという仮説だ。だから感想を求めたのだろうか。いやしかし、一船長でありコックでもない彼が調理を行うことなどほぼないだろう。だから何故そんなことを聞くのかと少しだけ頭を傾げた私の視界に、一枚の紙が差し出された。
 彼が徐にポケットから取り出したのは小さく皺がついた紙だ。それを見た瞬間、温まった胃の所在が分かるようにそこ以外の血の気が引いた。
 ───それは、私が昼間海軍に宛てて書いた手紙だった。

「これが何か、わかるよな」

 確認の言葉ではなかった。念を押すような、息が詰まる圧力で抑えつけるための枷だった。

「簡単な暗号を用いてはいるが、内容はお前の所在と安否だけだった。これだけだったらスパイだ海軍だと囃し立てるほど俺は懐は狭くねェよ」

 指先で摘んで所在を示すようにヒラヒラと目の前で小さな紙切れを踊らせる。背中の産毛が逆立っているのがわかる。

「だが万一にも火の粉になる火種ならば、俺は船長としてそれを事前に消す必要がある」

 血の気の引いた頭はこの状況を切り抜けるために少ない酸素を使って回り始めた。しかしそんなことをしても無駄なことはわかっているのに、やめられない。この場を切り抜けるべき具体的な案など湧いてくるわけもなく、ただどうしよう≠ニいう恐怖に支配される。これは一種の思考の放棄だと気付く余裕はなかった。

「可哀想になァ、あのカモメもお前に付き合わなきゃ今頃痛い目を見ずに済んだはずだ」

 せせら嗤うような声だった。それが空っぽの頭の中をいつまでもぐるぐると回る。全身の筋肉が強張っている。目の前のシチューの中にある固くなった肉のようだと思った。生臭い、鳥の味。
 ぐん、と胃の筋肉が縮み上がり、熱い何かが食道を逆流する気がして口元に手を当てた。必死に目を逸らし、押し込めるように啜り泣く呼吸を繰り返す。深く息を吸えない。熱を持つように息苦しさが胸元に蟠る。痙攣するような食道に落ち着くことをただ祈った。
 どれくらいそうしていただろうか。短かったかも長かったかも覚えていない。深呼吸できるほど落ち着いてきた時にようやく口を覆っていた手に生理的な涙が落ちたのに気付いた。

「……着いてこい」

 背けた視界の端でトラファルガーが立ち上がったのを見た。私が落ち着くのを待っていたようなタイミングだったが、その言葉には強制させる魔力があった。なんとか吐きはしなかったものの、気持ち悪さが胸元で停滞している。水で流し込みたいけど、そんなことをする猶予はない。ふらふらと覚束ない足取りの私とトラファルガーの距離は一定だった。暗く肌寒い廊下はこの気持ち悪さを洗い流してくれるようだったが、長くは続かなかった。やがて着いた場所に見覚えがある。船長室、またの名をトラファルガーの自室だ。
 顎先で入室を促される。背後で閉じられる扉の音が胃の底に響いた。なんてことない部屋だ。少しばかり本が多かったりするくらいで、彼の性格を表しているような整然とした部屋だった。その部屋の片隅に2人掛けくらいの大きさのソファとテーブルがある。読みかけの本やブランケットが掛けられたソファと大きな白い布が掛けられた何かがあるテーブル。トラファルガーは徐にその白い布を勢いよく取り払った。

「……えっ、」

 そこにあったのは大きめの鳥籠だった。中にいる鳥は急に明るくなった視界にパニックになり叫び声を上げるはずだった。最後の抵抗とばかりにもがくはずだった羽や胴体はトラファルガーの能力によって適切に切り取られ、断末魔を上げるための嘴は紐で縛られていてくぐもった呻き声しか出せないようだ。見た目はグロテスクでも、生きている。
 私はその鳥があのカモメだと気付いた瞬間、せり上がっていた気持ち悪さがようやく胃の底に落ち着いたような心地だった。冷えた体の芯が少しばかり温まったような気がした。だが、背中を這う悪寒だけは消えずにいる。それがこれから起こる私の人生の序章だということを、この時は知らずにいた。

「別に俺はお前を監禁するつもりはねぇよ。こんなものを出さない方がお前のためだと俺は忠告をしたからな」

 食堂での彼の行為はただ私への忠告だったんだ、と楽観的に捉えた。きっとカモメを飛ばした私を見て裏切ったと早とちりした彼は私を試したのだろう。そうやって試すようなことをしてその結果、手に持った紙面以上に私は過ぎたことをするわけないと納得してくれたんだ。バカな私はそう考えた。彼の言葉の腹を探りもせず。忠告はその言葉通りに大人しくしていろと言うことだと受け取って。恐怖で張り詰めていた糸が解けた私は思考を放棄していた。
 その言葉に、どれだけの価値があるかも知らずに。
 トラファルガーは一束の新聞を投げて寄越した。拾い上げて紙面を整えたが、その後のページを捲る必要はなかった。一番の大見出し。そこへ私の視線は釘付けになっていた。

「───これ以上帰る場所を失いたくなかったらな」

 追い打ちをかけるようなトラファルガーの冷たい声が愚鈍な私をせせら笑う。私のためを思っての言葉ではなかった。それは私の命の価値≠これ以上擦り減らさないための最終通達だった。
 モノクロの大見出しが嫌でも目に入る。部下を数名殺害の後逃亡∞海賊と駆け落ちか∞逃亡資金はとある企業より横領か∴鼬ゥすればただの悲惨な事件だと思うだろう。そこに私の名前や手配書が含まれているとなると他人事ではないことは明らかだった。
 私はもう、海軍には戻れない。冷や汗で濡れた衣服が背中に張り付いて不快だった。彼の手で組み立てられていくカモメを見て、結局私はどこまでいってもこの人の掌から逃れられないのだと気付く。
 気味の悪い歪な鳴き声が、耳から離れない。



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