「計ちゃん」

そう言って腕を掴む加藤の手は凄く優しい。俺より体格も力も優れているはずなのに。
腕を掴まれ、見つめられる。周囲に厳ついと思わせることもできそうな凛々しげな目には優しさと俺が映っていた。

「計ちゃん?…俺の顔に何かついてる?」
「え、ああ、えッと」

何も反応をしない俺を不審に思ったらしくどうしたの?という顔で覗き込んでくる加藤に「お前の事考えてたんだよ」なんて恥ずかしい事を言えるはずもなく言葉を濁した。

「えッ!ついてるなら言ってよ計ちゃん!」
「あ、いや、その、ついてねーよ!ついてない!」
「えぇッ…でもなんかありそうな」
「ねーッての」

絶対あるだろとか言いながら綺麗にオールバックで纏めた髪を空いている片手でがしがしと掻く加藤にはもう凛々しげな目はなく少し気の弱そうな、昔の頃の影を残す目がついていた。

「もー…加藤……はぁ…」
「えッ、あッ、何?えッ?」
「好き、加藤」
「……えッ!」
「好きだッて」
「……」
「もう言わねー」
「え、ああ、俺も計ちゃん大好きだよ!計ちゃんがいない世界が考えられないぐらい好きだ!」
「…」
「あれ」
「…ストレートすぎんだよバ加藤」


二人きり、片手を掴まれ見つめ合ってる雰囲気に呑まれたというのを言い訳に好きだと言えばその倍の言葉が返ってくる。
こっちの瞳を反らさず真っ直ぐ見つめてくるのとストレートな感情表現に未だに慣れないのとで、俺は顔を背けることしかできなかった。


「計ちゃんこっち向いて」
「やだ」
「照れてる?」
「聞くなよ」
「ちがう?」
「ああもう!そうだよ照れてるよッ!」


一々確認してくる加藤に耐えられなくなり、バッと顔を正面に戻してそのまま加藤に勢いに任せて思い切り抱き付いた。(コイツの言葉を借りるなら加藤にアタックってところだ)

男子高生一人分の体重+αをまともに食らって倒れない加藤の体は流石に体格も筋肉もあって固いと言えば固いのだが、恋人という名目もあって妙に落ち着く。抱き付いている時に鼻腔に入る加藤の匂いも落ち着きと共に俺の鼓動を速めていく。


「!…計ちゃんちょっと苦しい…」
「加藤あッたけェ」
「あー…それ最近歩にも言われるんだよなァ」
「子供体温」
「言うほどもう子供じゃないけど」


あはは、と笑う加藤にまた愛しい気持ちがこみ上げて抱きついている手に再び力を込める。


「今日の計ちゃんなんか甘えん坊だな」
「うッせーよ」
「可愛い」


加藤も今まで支えていただけの手に力を込めたらしく背中に温もりが広がった。力任せではなく、かと言ってただ弱いだけの力ではないので心地がいい。


「可愛いよ、計ちゃん」
「ん…」


背中をさすられ、流れでそのまま髪を撫でられた。いつも通りの、俺がよく知っている体格相応のごつめの手に身を任せ、俺はそのまま目を閉じた。







11/03/24
普通のバカップルが書きたい
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