短編 | ナノ


ririca様リクエスト「理想の、」


「―――名前姫」

ふわり、と柔らかな金の瞳が名前姫と呼ばれた彼女に向けられる。
愛情の全てを込めたかのような優しげな眼差し。彼の容姿も相まって、何ともいえない色香が漂っているような気がする。そんな思わず世の女性が悲鳴をあげてしまいそうな微笑を向けられた彼女もまた、世の全ての人々を魅了させるであろう笑顔で男の下へと駆けていった。

「ぬらりひょん様!わざわざお迎えに?」
「ああ、名前姫に何かあったら大変だからな」

フッと笑みを見せた彼は愛しい妻の頭を優しく撫でる。そんな夫に対し頬を緩める名前姫は恐らく気付いていなかったのだろうが、その男は何も今迎えに来たわけではない。むしろ初めから、居た。

名前姫が江戸の子どもたちと楽しげに話す中、少し離れたそこの屋敷の角に立ち、彼女の美貌に吸い寄せられるように集まってきていた男という男を片っ端から片付けていたのだ。その証拠に、あの角を曲がれば地獄絵図が広がっていることだろう。
しかし、そんなことを微塵も知る由もないあの目も眩む美しい姫は、惜しみ無い笑顔を愛しい夫に向けている。

「もう直に日が沈む。虫が増えてくる前に帰るぞ名前姫」
「?そうですね。それでは皆様、さようなら」

ぺこりと丁寧にこちらに頭を下げてから夫に連れられて帰っていく彼女は、さすが。育ちの良さを感じさせる振る舞いである。仲睦まじく腕を組んで去っていく二人の後ろ姿を見送り、ポツリ。呟いた。

「……………羨ましいわ」
「美しくて淑やかな名前姫様と、伊達男で男気溢れる旦那。素敵よねぇ」
「それに比べて家の旦那と言ったら…」
「「「はぁぁ…」」」

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