※中一設定です。



友達も出来た。寮生活にも慣れた。何不自由なく学校の中で暮らせるようになった秋。それでも、夏休みに顔を見せた実家が恋しくなるのも、仕様がないだろう。
聖ルドルフは各地から生徒が集まってくる。中には都内に住み、自宅から通っている生徒もいるけれど。私は関東と云えど、少し離れた県の出身で、自宅ではなく寮から学校へと通っている。帰省するのにほとほと困る距離ではない。でも、毎月毎月帰れるような距離でも、ない。
ため息を吐いて、読んでいた本を閉じる。机に突っ伏すと、前から声をかけられた。


「深いため息を吐いて、どうしたんです?」
「観月くん……」
「いつも元気な貴方がその様子では、今日は雨でも降りそうですね」


図書室で本を読むという自習の時間。私の前の席に座る観月くんは、同じクラスの男の子だ。
そういえば、観月くんも実家を離れて寮暮らしをしているのだったか。では、この気持ちを共有してもらえるのではないだろうかと、思いきって口を開いた。
一通り話終えると、観月くんはなるほど、と頷いてくれた。


「ホームシックですか」
「中学生にもなってみっともないと思う?」
「いいえ」
「そっか…」


淡々と答えてくれる観月くんは、ホームシックになったりしないのだろうか。……ならないだろうなあ。だって観月くんのまわりは、いつだって賑やかだ。
毎日寮から学校に行って寮に帰ってくる、というありふれた私の日常と違って、観月くんの生活はそれにテニスがプラスされる。しかも聖ルドルフのテニス部は、全国各地から優秀なテニスプレーヤーを募っていると聞くし。観月くんもその一人なのだと思う。


「私も部活入れば良かったかなあ」
「なぜです?」
「だって観月くんはいつも楽しそうだもの」
「んふ、そう見えますか?」


そう云うと、おかしそうに目を細める。「確かに、」呟いて、考えて、その先を云うのは止めたようだ。人差し指を顎につけて、何かを考えている観月くんの長い睫毛が影をつくる。
何かを思い付いたのか、いつもの笑顔で観月くんがこちらを向いた。いや、いつものよりもいくらか楽しそうだ。


「では、テニス部に来ますか?」
「え?」
「現在、マネージャーの仕事は僕がやっているんですが、手のかかる方々ばかりで」
「え、でも私テニスやったことないし、運動もできるほうじゃないよ?」
「ええ、知っています」


まわりの迷惑にならないように小声で話す私たち。それはなんだか、内緒話をしているようでドキドキした。
テニスをしたこともなければ、運動も得意ではない私をマネージャーに誘うとは、観月くんに一体どんな意図があってだろうか。ホームシックになっている私を元気付けるための冗談だろうか。それとも、どんな人間の手でも借りたい程忙しいのだろうか。
観月くんの考えがわからなくて、私は観月くんの顔を除き込む。すると、観月くんは「僕は君だから誘ったんですよ、名字さん」と笑うものだから、私はどうしていいのかさらにわからなくなる。ひとつだけわかるのは、この赤いであろう顔をどうにかしなくちゃいけないってこと。


「か、考えておく、よ」
「んふ。良い返事をお待ちしています」


しどろもどろな私を見て、観月くんはくすくすと笑う。その様子が私にはとてもかっこよく見えて、テニス部マネージャーになってもいいかなあ、なんて思っちゃったりなんかするのだ。


シナリオ

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