君を手に入れる幾つかの事



早まったな、と昨日の仁王と同じ感想を無表情で云ってのけた柳に、仁王は無償に腹がたった。笑ってくれれば、冗談だったと云いに行く勇気も沸いてきたものを。
隣の席とは面倒なもので、今日朝から仁王は机に伏せて一度も顔をあげていない。顔を見ると要らぬことまでべらべらと口から溢れてしまいそうだった。

「俺のところに逃げて来てもどうにもならないぞ」
「わかっとるが、どうも教室にはいづろうてのう」
「だが、放課後は丸井とバレーをするんだろ?」

そうだった。仁王は今思い出したらしく、そんな約束するんじゃなかったと頭を抱える。タイミング良くF組の扉を開けてやってきた丸井は、そのまま仁王を引きずって体育館を目指した。助けを求めるように自分を見る仁王の視線を、全く気にもせず柳は勉強へと戻ってしまった。
体育館では既に他のクラスが各々に練習をしていて、これだけ人がいれば顔を合わせることもないだろう。そう仁王は思っていた。

「おーい名字! バレーの練習見てくれよ!」
「え?」

丸井が向こうで練習していた名字を呼んだのだ。名字はバレー部の部員と練習をしていたようで、その中にあの田中もいた。どうやら、田中と会うのにもう気まずさは無いようだった。しかし、仁王と顔を合わせるのは嫌なようで、名字は丸井の申し出に困っている。

「お前俺たちのクラスなんだから、俺たちにバレー教えるべきだろぃ」
「えっと…」

名字は困ったように田中と顔を見合わせる。その光景に仁王の中で何かが切れた。こうなったら、どうなろうが構わない。
仁王は名字の元へ歩いて行くと、その腕をつかんで無理矢理こちら側に連れてきた。

「昨日のあの言葉、冗談だ、と云いたいところじゃが生憎本気でな」
「へ?」
「のう、名字。ひとつ、俺と賭けをしんか?」


 

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