こんにちは恋心



競技大会、期末テストが迫り、放課後の部活動が全面的に禁止されるようになると、体育館やグラウンドで競技大会の練習をする生徒や、期末テストに向けて勉強に励む生徒が良く見られるようになった。仁王もその内のひとりであり、丸井に誘われた名字も教室に残り、苦手な英語の教科書にかじりついていた。

(珍しいこともあるもんじゃ)

いつもの名字なら、真っ先に体育館へ向かうだろう。何かに取り憑かれているかのように、右手を動かし続ける名字を見て仁王は首を傾げた。提案者である丸井は勉強を始めて早々に飽きたと云って、体育館へ向かったというのに。

「名字は体育館に行かんのか?」
「あー、今日はいいかなって…」
「?」

煮え切らない返事を返す名字に、仁王はさらに首を傾げる。から元気のようにも見えるし、勉強に集中しているかと思えば、ふとぼうっと何かを考えているような姿も見せる。間違いなく何かがあった様子の名字が仁王は随分と気になった。

「何かあったんか?」
「それが…」

重々しく口を開いた名字が紡いだ言葉に、仁王は言葉を無くした。
興味本意で聞くんじゃなかった。

「田中に告白されて…」
「は?」
「それで断ったんだ。だって田中だよ? 友達にしか見れないし」
「でも昨日の今日で会いづらい、と」

こくりと首を縦に振った名字は困ったように眉を下げて笑った。
田中が名字のことを気にかけていたのも、妙に自分を敵対視していたのにも、仁王は気づいていた。気づいていて、知らないふりをしてきたのだ。いつか、こんな日がくるだろうと予測はしていたが…。
早く丸井が戻ってこないかと、沈黙が降りた間を始めて気まずいと思った。

「名字」
「何?」
「俺もお前が好きだって云ったらどうする?」

冗談だ、とすぐに云っておけば良かったと、名字が出ていった扉を見つめて仁王は眉をひそめて笑うのだった。


 

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