ブルーブルーブルー
「名字、呼んでくれないかな?」
昼休み、トイレから戻ってきた仁王の肩を見慣れない男子生徒が叩いた。振り向くと笑顔でそう告げられ、断る暇も無くよろしくと告げたそいつは、人の良さそうな笑顔でこちらを見ている。
しかたなく自分の席へ戻り、弁当を開けようとしていた名字に呼ばれていることを伝えれば、小首を傾げた彼女。
「誰?」
「俺の知らんやつじゃ」
彼女の視線が入り口へと向かうと、仁王を呼び止めた男子生徒がこちらへ手を振る。それを見た名字は「なんだ、田中ね」と呟き、同じように手を振った。
弁当に蓋をして、ぱたぱたと駆けていく名字を見送って、仁王は自分の席に着く。それを面白そうに眺めていた丸井に、仁王は不機嫌そうな顔で問いかける。
「あれ、誰じゃ」
「お前知らねーの? C組の田中、男バレの部長」
「ほー」
「あいついー奴だぜ。前に飴くれたしな!」
ブンちゃんの中じゃ、飴くれたら全員いい奴じゃろうが。思っただけで、口には出さなかったが。仁王は教室の入り口で話す二人を見た。
(気に食わん)
何がどうというわけではないが、仁王は確かにそう思った。それは、名字と話している田中が笑顔の絶えない好青年ということか、丸井の云う通り人の良さそうな人間であるということか、それとも。
身長の高い名字と並んでも、お似合いなくらいに背が高いということか。
「おい仁王、顔こええぞ」
「……」
丸井が引きつった顔で仁王を見る。顔が怖いとはどういうことだ。いつもと同じだろうに。仁王は、はあ、とため息を吐く。
考えるのは面倒だった。話し終わったのか名字が席へ戻ってくる。やっと昼食を食べられるのが嬉しいのか、ご機嫌な様子だった。
「お前良く食うな、太るぜ」
「丸井にだけは云われたくないんだけど」
「うるせえ! つうか、またでかくなる気だろぃ」
「身長はいくらあっても足りないからね」
「それ以上でかくならんでいいぜよ」
ぽつりと呟いた仁王の言葉に、丸井と名字は不思議そうに顔を見合わせる。その光景を横目に仁王は顔を伏せるのだった。
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