快楽を呼ぶ悪魔
06
……紳の、
紳の声は、低くて、ちょっと棘があって……。
でも、優しいの。冷たく聞こえる声の中に、分かりにくい優しさが含まれているんだ。
閉じ込めていたはずの感情が、いとも簡単にあたしの心に広がった。
『お前は俺のものだ。……生涯尽きることのない快楽をやる』
はじめて、紳に会ったとき。
あたし、紳に殺されるんじゃないかって思った。
『なんだ、お前。ばかな女だな』
そう言って、頬を赤らめた紳。
あのときから、あたし紳は実は悪いやつじゃないんじゃないかって思った。
『お前は、俺のものだって言っただろ。勝手に、襲われるな』
先輩に、体育倉庫で襲われたあと、あたし、はじめて紳とキスをした。
『俺が、お前を守ってやる』
言ったとおりだった。紳はあのあと……あたしを、ずっと守ってくれた。
紳は強引で、冷たくて……。
でも、強くて優しい。
泣き虫なあたしを泣かせないようにって。
傍にいてくれた。涙を、拭ってくれた。・・・抱きしめてくれた。
あたしは・・・あたしは、そんな紳のことが……。
好きに、なったんだ。
**********
あたしは、最低で最悪な女だ。
今さら……こんなことに、気がつくなんて。
「う・・・っく……」
甘い声は、涙と嗚咽でかき消えた。
ヒロ兄の手が、止まる。
「あ、ず・・・」
「……め、さい・・・。ごめんな、さい……」
あたしは、はだけた胸を手で押さえて、起き上がった。
「…………、」
「ごめ、なさい……。ヒロ兄・・・ごめ……」
「……紳、くんか……」
ヒロ兄が、立ち上がりながら、呟いた。
その言葉に、驚きながら……あたしは、頷いた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい……」
もう、謝ることしかできない。
何を言っても、許されない。
……最低だ。
ヒロ兄は、あたしの方を見ずに、床に落ちていた服を、あたしに向かって投げた。
「……ヒロ、兄・・・」
「・・・行け、よ……」
「ヒロ兄、あたし・・・ごめ、」
「行け!」
ヒロ兄の、大きな声。
あたしは、びくって震えた。
「……今の俺、なにするかわかんねえ。今日だって、お前とこんなふうになるつもりはなかったんだ……」
ヒロ兄が、震えながら言った。
それだって・・・あたしの、せいだ。
首輪を見せてしまった・・・あたしのせい。
覚悟もなく、「はずして」と願った、あたしの……。
「ヒロ兄・・・ごめんなさい……」
「早く・・・帰れ!行け!」
「……っ、」
あたしは、服を抱えて……ヒロ兄の部屋から、飛び出した。