快楽を呼ぶ悪魔 | ナノ

快楽を呼ぶ悪魔

07


「……あずみ!?いるのか?」


「あ、紳!紳っ!!」


外から聞こえたのは、紳の声。
……来て、くれたっ・・・。





「……いいところで」


先生が、ちって舌打ちして……。
指の動きを、一層速めた。


「あ、あっ、や、やあっ!やめてえっ」

「潮吹きまで、教えなきゃな?」

「あずみ……!なんで・・・なんで越えられないんだっ!?」





バン、バンって、外から何度も体当たりする音が聞こえる。
紳、魔力が弱まってるって言ってた。
……いつもしてたワープみたいなこと、できないんだ。
時間も、止められないんだ!


「あずみ…っ!……このっ、」





紳が、うめく声が聞こえて……。
バーンって、大きな音が鳴った。


……そして、





「な、ん・・・!?」


先生が、唖然とした顔でドアを見た。


ドアには、大きな穴が開いていた。
ドアの向こうで、紳が苦しそうにうめいている。


「っ・・・はあ。あずみを・・・離せ」



紳の手の平が、先生に向けられた。
そして、ひゅって音とともに、黒い光のようなものが、先生を貫いた。


その瞬間、先生は、崩れるようにその場に倒れ込む。


紳が、はあはあって息を切らしながら、あたしのほうに走ってきた。





「紳・・・紳……!!」


紳が、くくりつけられていたロープをはずしはじめた。
あたしはボロボロ泣きながら、紳の名前を呼び続ける。


「紳・・・ありがと。あり、がとう・・・!!」

「礼を言われる立場じゃない。……ごめんな。守るって、約束したのに」


ロープを外した瞬間、紳があたしを抱きしめた。
耳元で、ごめんなって、何度もつぶやかれる。


「ううん・・・。携帯、落としちゃって……」


あたしは、紳の背中をぎゅって抱きしめた。


「あり、がと・・・。ありがとっ……」





予定してた場所と違っても、校舎から離れていても、携帯を、落としてしまっていても……。
紳ならきっと、助けてくれるって信じてた。
なんでか、そう信じ切ってた。





「ひっく・・・あり、がとう・・・紳っ」


泣きながらお礼を言い続けるあたし。
紳は、あたしの顔を見て、前髪を払うと、こぼれおちる涙を唇ですくい取った。


いつもだったら驚いて身を引いちゃうけど、なんだか触れられたところがあったかくて、あたしは紳のこと見つめていた。


「泣くな・・・。泣いている顔は、見たくない」

「う、んっ・・・」


こぼれおちる涙をひとつひとつすくわれて、なだめるように髪や背中をなでられた。
紳が優しくて……。
あたしの心も、少しずつ落ち着いていく。








しばらくそうしたあと、あたしは急に恥ずかしくなって、紳から体を離した。
そして、崩れ落ちた先生の方を見る。


「先生は・・・?」

「……少し、陰の光を当てただけだ。大丈夫だ。……記憶を、抜くんだろ?」

「うん……。紳、魔力が弱まってるんでしょ?……大丈夫なの?」

「記憶の消去は、そんなに魔力を使わないからな。……瞬間移動や、時間を止めることはもう……できないが」





やっぱり……。
紳は、悪魔としての力をどんどん失ってる。


それでも、ここにいてくれるのは、あたしのためだよね?


紳が、先生の頭を掴んだ。
先生の頭から、黒い光みたいなものがぼわって浮き出る。
紳が、それを掴んで……ぐしゃって、つぶした。





あれが、記憶……?





「これで大丈夫だ。……校内だ。置いたままでも、大丈夫だろう。……行くぞ」


紳が、あたしの鞄を取り上げて、あたしの手を引っ張った。


「え・・・?で、でも……」





あたしだってここにはいたくない。
でも、こんな状況で先生だけ置いて行ったら……。


「ほかの人間が来たとき、まずい状況になる。……早くしろ」


そう言って、紳があたしの腕を引っ張る。
……そっか。
ドア壊れてるし、先生は気絶してるし……。


「……わかった」


あたしは、先生に頭を下げた。
……ごめんなさい。
変なことに巻き込んで、挙句にあんなひどいことさせてしまって……。





「あずみ、早く来い」

「わかった」





あたしたちは急いで外に走り出……そうとした。


「あ、れ・・・?」





がくん、


足が、崩れる。
思うように、歩けない。


……さっきまで、弄られていたせいか……力が、入らない。


「あ、れ・・・なんで……?」


足をさする。
下半身に、力が入らなくて。
立ち上がろうとしても、足は床に張り付いたままだった。


「どうしよう……立てない……」


早く、行かなきゃいけないのに・・・っ!





ふわっ


「あ、きゃっ!」

「つかまってろ」


紳が、あたしのことを抱えあげた。
俗に言う、お姫様だっこ。


「あ、紳……」

「いいから。・・・暴れるな」

「う・・・うん」





どくん、

心臓が、跳ねた。


どくん、どくん・・・

心臓の音が、やけにリアルに聞こえる。





妙にドキドキして、紳の顔がまともに見られない。
あたしは、紳の首に手を回して、首元に顔をうずめた。


「……どうした?大丈夫か?」


急にあたしがそんなことをしたから、紳が不思議そうに声をかけてきた。


「……っ、」


なんか、胸がいっぱいで声が出ない。
あたしは、こくんって頷いた。


「そうか……?」

「ん」


ぎゅって、紳の首に回す腕に力を入れた。








紳は……魔力が弱くなってるって言ってた。
もし、その魔力がなくなったら、紳はどうなるんだろう……?
帰れなくなったら、ずっとこの世界に……いてくれるのかな?


そんなこと、ないよね。
紳がここにいる理由なんて、ないもん。


しょせん紳にとって、あたしは気まぐれで首輪をつけただけの相手、だし。





今、紳につながりたい人はだれかって聞かれたら、あたしはどうこたえるかな?
やっぱり、ヒロ兄って言うのかな?
それとも……ほかのだれかなのかな?





なんか、わかんないや。……考えたく、ないや。



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