快楽を呼ぶ悪魔
08
で、でも・・・言わなきゃダメだ!
「く・・・首輪を、とってほしいんですけど……」
「……話を、聞いていなかったのか? 取れないと言っただろう」
悪魔さんが、呆れたように笑う。……と、取れない!?
「な、なんで!?」
「まあ、正確に言うと、取れないというわけではないが・・・。……まあ、言ってもかまわないだろう」
悪魔さんが、首輪に指をかける。この人、首輪好きだなー。そんなに好きなら、自分がつければいいのに。
「首輪の解除条件は、最後まですることだ」
「す、する?」
現実逃避染みたことを考えていると、悪魔さんは楽しそうに笑いながらとっても漠然としたことを言った。するって、なにを・・・?
「お前は本当にばかだな。さっきまでしていたことだ。セックスに、決まっているだろ?」
悪魔さんが、にやりと笑う。……セ、!?
「・・・で、でもさっき……!」
考えたくもないことだけど・・・あたし、そういう意味では、・・・その、したよね?
だったら……不本意だけど、はずれてもいいんじゃないの?
「あれはまだ途中だろ。……男の性器を、お前の穴にぶちこむ。そこまでやらなきゃはずれない」
「な、なんてこと言うんですか!?」
「濁して言っても通用しないようだからな。わかりやすくていいだろう?」
「よくないですっ」
アレを、あたしの中に? し、信じられない!
「む、無理です!」
「だったら、一生はずれない。……それとも、さっきの男たちに挿れてもらうか?」
悪魔さんが、ふっと笑う。……絶対、ぜーったいいや。
「いや、です。は・・・はじめては、好きな人と……したいもん」
そう言って、ぷいっと悪魔さんから視線をそらす。
だって・・・あたしの中に、ほかの人が入るんだよ?
やっぱり、本当に大好きな人と……繋がりたいよ。……まだ、全然見込みはないけど。
あたしが顔を赤くしながらそう言うと、呆気にとられたような顔をしていた悪魔さんが、クスクスと笑った。
「・・・っ、」
その顔を見て、思わず心臓が跳ねる。
……この人、こうやって笑うと……かわいいんだ。さっきみたいに、にやにや人をばかにするような笑い方より、ずっと。
「おかしな女だな。……まあ、俺としてはしばらく楽しめそうでいいけどな」
そういえば……、
さっき、悪魔さんが時間を止めてくれたとき。自分のためだ・・・とか、言ってた。
要するに、手に入れた玩具を、すぐに手放したくなかった・・・ってこと?
どんだけ性格悪いの、この人!! 可愛いなんて、間違っても思うんじゃなかった!!
……なんて、悪魔さんへの罵倒の言葉をぶつけつつ今後のことを考えていたら・・・急に、背筋がぞくりと震えた。
現実感がなくて、今まで真剣に考えてなかったけど……。
あたし、明日から学校、どうすればいいんだろう・・・?
まさか、クラスの男子とか、先生みんながあたしなんかを襲いたいって思ってるわけないけど……。
「ど・・・どうしよう、」
「どうした?」
「ど、どうしたじゃないようっ! あたし、明日から学校どうすればいいのっ!?」
「学校? あぁ・・・人間は難儀だな」
「何言ってんの、ばかっ!」
「ばっ・・・!?」
怒り半分、さっきの笑顔半分で、いつの間にか悪魔さんへの敬語は外れていた。
ふん、ふんっ。敬語って敬うべき人に使う言葉だもんねっ!
……なんて、現実逃避してる場合じゃないんだってば!
あたしが顔を真っ青にしていると、どうやら「ばか」に面食らっていた悪魔さんが、しばらくなにやら考えて・・・口を、開いた。
「……首輪の力は、その姿を見たものにしか効果はない」
「ほえ?」
「……ほえ、じゃない」
……えっと。どういうこと?
悪魔さんが、口を押さえながら・・・呆れたようにぽつぽつと話しはじめる。
「……つまり、何かで首元を覆って首輪を隠せば、首輪によって理性が外されることはない」
全部言いきってから、悪魔さんがため息をついた。
そのあと、「甘いな俺は」なんて自己嫌悪の言葉を発しているのが聞こえる。
……なんなんだろう、この悪魔さん。
あたしを苦しめたいのか・・・助けたいのか。
いや、苦しめたいに決まってるんだけど……。
……でも、きっと・・・そんな悪い人じゃないんだろうな。きまぐれであたしに首輪をつけて、人に襲わせた。でも、結局困っていると、助言して、助けちゃうんだ。
……すっごく、あまのじゃくな人。
「悪魔さん……」
あたしは、悪魔さんの顔を見た。最低な人で・・・文字通り、悪魔みたいな人だ。
きっとこの人の気まぐれで、あたしの人生は大きく変わる。でも、今目の前にいるこの人は、なんだかんだ助言をくれる。記憶を、消してくれる。
「ありがとう」
ありがとうって、おかしいかな。
罵倒したい気持ちのほうがはるかに大きいけど、あたしは、小声でお礼を言った。
けれど、お礼を言った瞬間、悪魔さんは、きょとんとした顔をして見せる。
「なんだ、お前。ばかな女だな」
それから、そう言って、少しだけ頬を赤らめた。