Side girl
あ。こ、こんにちは! 南高の近くのコンビニでバイトをしている、A……秋川英子(あきかわ えいこ)と申します! あの、わたし、本当に平凡で……。 なんにもないですよ? ドキドキすることも、なーんにもないんです! 幸せなカップルさんを見てきて、「恋したいなぁ」なんて言いましたけど、なんっにもないんですよ!
そんなわたしでいいのでしょうか? 本当に、見てくださる方に申し訳ないくらいなにもないんです……。 ……あ! そしたら、この間奈緒先輩が来たときの話を……、
「英子ちゃん、出ている分の雑誌がなくなっちゃって……俺取ってくるから、バックヤードのどの辺にあるか教えてもらえる?」
「ふぁい!」
奈緒先輩との思い出に浸っていたら、ぽんっと肩をたたかれました。 び、びっくりしました! 後ろを振り向くと……この間入った大学生のアルバイトさん、朝倉太陽(あさくら たいよう)さんが声をかけてくださいました。わたしよりここでのバイト歴は短いですが、以前も別のコンビニで働いていたことがあるらしく、わたしなんかより全然できる方なのです! ということで! いけません! 朝倉さんにお手をわずらわせては!
「わたしが行きますよ!」
「え? 俺が行くよ。重いし」
「大丈夫です! 朝倉さんは、もっとお客さんのためになることを!」
そう言って、バックヤードに向かって走ります。 気づかないなんて、一生の不覚ですっ!
「英子ちゃん、待って!」
バックヤードに向かって急いでいると、後ろから声が聞こえました。 あれ? 朝倉さん、一緒に来てしまっています!
「俺も、知らないわけに行かないし・・・。一緒に行こうよ」
「え、あ・・・そ、そうですね!」
そうでした! これでわたしが雑誌を持ってきてしまったら、朝倉さんが一生雑誌の場所を知らず仕舞いじゃないですか! ……考えが足りませんでしたね・・・。
「ごめんなさい、朝倉さん・・・」
「何で謝るの? よろしくね」
「はいっ!」
そう言って、朝倉さんはにっこりと笑いました。 やっぱり、カッコいいですねー。 言ってませんでしたが、朝倉さんが入ってから、南高からは朝倉さんを見に来る生徒さんがいっぱいいるんですよー。 店長が、「売り上げがあがった!」って喜んでいました!
わたしと朝倉さんは、並んでバックヤードに歩き出します。 それから、バックヤードの電気をつけて……あ、あれ?
「電気がつきません!」
「本当だ。……電球、切れちゃったのかな?」
朝倉さんが、きょろきょろとあたりを見回して言いました。 えーと・・・暗いけど、よーく見れば見えますね。
「英子ちゃん。バックヤードの大体どの辺にあるの?」
「ここからだと、右奥ですね」
「じゃあ、危ないから俺が・・・」
「一緒に行ったらだめですか・・・?」
場所を伝えたら歩き出そうとする朝倉さんの服の裾を、とっさに掴んでしまいました。 だ、だって・・・お役に立ちたいのです! 朝倉さんか、ぐっと息を飲んだ気配がしました。
「……危ないよ?」
「大丈夫ですよ! 何度も行ってますし……」
「いや・・・。出会って間もない男と、暗がりに……って、英子ちゃんはわかんないよね」
「? あの、行きましょう!」
ぶつぶつと何やらを呟く朝倉さん。 うーん。作戦を練っているのでしょうか? カッコいいですね!
「じゃあ、転んだら危ないから、手をつなごうか」
「え、え!?」
「それが無理なら、危ないから英子ちゃんはここで待ってて」
「お、お役に立つんです!」
朝倉さんは、売り上げに貢献しています。 わたしも、ちゃんと役に立たなきゃいけません!!
そう奮起して、朝倉さんの手をパシッと握りました。 その瞬間、朝倉さんが息を飲むのがわかります。
「……はぁ」
「ど、どうしたんですか? わたし、手汗ひどいですか?」
「違うけど……。ま、いいや。行こうか」
くいっと、朝倉さんがわたしの手を引っ張りました。 ……手、おっきいです!
朝倉さんが先導してくれたこともあり、無事バックヤードから雑誌を取れました! あとはこれを並べるだけですねっ!!
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