おっと、コレ何フラグ?
……なんのフラグだろう、これは。
「うわー、レベル高すぎだべ」
「しかも女子高生? やっべー、マニア垂涎?」
「お前気持ち悪!」
つーか、なんでこんな連中と道端で遭遇すんのよ。 どんだけ治安悪いの、この街。都会でもないのに……。田舎だからいるわけ? こういうの。
「ち、か・・・」
「……大丈夫だよ」
わたしの腕を掴んで、あずみが震えている。 もう、最悪だ。危機管理が甘かったなんて言われたら反論できないけど、まさかこんなやつらがのさばっているなんて思うわけもなくて……。
わたしは、人っ子一人いない、街頭もない公園で、静かにため息をこぼした。
ことの発端は、先日のチョコレートケーキ騒動。 そんなもの作ったこともなかったわたしは、当然のことながらあずみと練習を始めた。 ハロウィン当日は1人でつくったものを持って行かなければならないから、いつもとは違って、料理教室の場所はわたしの家。機材とか、そろえなきゃならなかったしね。 女王こと美姫ちゃんには、ハロウィンまでちょっとの間、あずみを借りることを伝えていた。
でも、日が落ちてくるこの季節、暗くなるまであずみを引き止めるわけにも行かなくて……。 なんとも健全ながら、いつも19時くらいには解散してたんだよね。この時間なら、人通りがあるからあずみが1人で帰っても問題ないし。それに、雪平くんが来てくれることもあった。
けど、今日はやらかしてしまった。 ケーキ作りの練習が終わった後、2人でDVDを見始めたんだけど、ついつい寝ちゃって……。 今日はうちの両親も帰ってこず、気がついたら22時を回っていたんだ。 遅くなっちゃったし、泊まって行くか打診をしたけど、あずみは首を横に振った。今日はあずみのお母さんが友達と旅行に行ってるとかで、お父さんの料理を作ったりしなきゃいけないんだって。 結局は、あずみの家まで送りがてら、わたしがあずみの家に泊まるという話で決着がついた。
そんなこんなで2人並んであずみの家に向かっている途中、4人の男に絡まれた。 最初は、「マンガかよ、くそチンピラ」なんてのん気でいたけど、男たちの欲をはらんだ目と、人っ子一人いない公園というシチュエーションが、危機感を煽る。 ……あずみの家までショートカットしようとして、公園なんか通ったのが間違いだった。公園は、子どもたちの専売特許。夜は、チンピラか盛ったカップルがいるくらいのものだ。
「……はあ」
小さくため息をついて、状況整理をする。 相手は4人か。
一番最悪の状況は、わたしとあずみの両方が連れ込まれて犯されること。ようは、レイプされることね。 一番ラッキーな状況は、誰かが偶然通りかかってくれること。でも、それはちょっと難しいかもね。帰りのラッシュは終わっているし、この通りはもともと人通りが少ない。
だとしたら、妥協点は? 囲まれているこの状況で、最悪の状況を逃れるためには?
「……っ、仕方ないか」
小さく呟いてから、あずみの耳元に唇を寄せる。 あずみはひくりと震えたけど、わたしの言葉に耳を傾けた。
「あずみ、逃げて。で、人呼んで来て」
「やだっ! 置いてけ、ないよ」
「……お願い、あずみ」
用件だけ伝えて、あずみを思い切り突き飛ばす。 わたしたちを囲む4人の男の合間をすりぬけて、あずみは円の外に出た。
「千夏、やだ!」
「言うこと聞いて、逃げなさい!! あんたまだ、12歳なんだからっ!!」
そう言うと、驚いたのは男たちだ。 ……そりゃ、そうだろう。そんなの、嘘だもん。
あずみに追いすがろうとした男の手を取って、上目遣いで覗き見る。
「ね、あの子妹なんだけど、まだ12歳なの。手を出したら、犯罪よ?」
「12歳・・・?」
その言葉にうろたえている男に、心の中でののしりをぶつける。 だって、この状況がすでに犯罪なのに。被害者の年齢なんて関係ないじゃない。 それから、横目であずみに懇願をぶつける。 あずみは、ぎりっと唇を噛んで、ダッと走り出した。……お願いだから、助けを呼んで来て。
「だから・・・ね? あの子は逃がしてよ。……わたしが、残るから」
小首を傾げて、挑発するように言い放つと、男たちはにやりと笑った。 次いで、リーダー格の男がわたしのおとがいに指をかけて、笑う。
「気に入った。……だが、別の場所に移動するぞ。あの子、どうせ助けを呼びにいったんだろう?」
「…………っ、」
その言葉に、ビキッと固まる。 ……そりゃ、そうか。いつまでもここにいるはずもない。 それから、男がチラリと公園の入り口に目を向けた。……白いワゴン車がとまっている。用意周到、だ。おそらく、これがはじめての犯行ではないんだろう。
「……気の強い女の泣き顔は、そそるな」
「っ、うる・・・さ」
あずみを逃がしたいと、気を張っていた。 でも……恐怖を感じないわけがない。 足は震えるし、悔しいことにぼろぼろと涙がこぼれる。
「お前、いーい女だな」
「っ、や・・・」
べろり、と男の舌がわたしの頬を舐め上げる。気持ち悪さにぞくりと体が震えた。
「ほら、来い。可愛がってやるよ」
ぐいっと腕を引かれた瞬間、震えていた足が崩れた。 心の中で平静を保っていようと、怖いものは怖い。
「やだ、離してっ!!」
「ほら、来い。助けに来られちゃ困るんだよ」
「イヤだっつってんだろっ!」
ぶんっと手を振ったけれど、男は意ともしない。にやりと口角を上げて、楽しそうに笑うだけだ。
「言葉遣いも、可愛く調教してやるよ」
気持ち悪いっ!!!
「や、だ・・・誰かっ!!」
「来ないよ」
漫画じゃない、ドラマでもない。 こんなときに、全員にヒーローが現れてくれたら、性犯罪なんか起こらない。
「笹川から、手を離せっ!!」
絶望の淵、視界の端で、金髪が揺れた。
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