Let's 採点 LOVE | ナノ


(01)


この間のことが、頭ん中ぐるぐるする。


奈緒の中で、一生一緒にいたいと思ってるのは、オレだけ?
点数なんかつけてるの、オレだけ?


奈緒のファーストキスは……オレだった?





ワケ、わかんない。
どうしよう、どうしよう……。


だって、奈緒は……。





今日は、月曜日。
金曜日に奈緒と飲んで……びっくりするようなこと、言われた。
あのあと、奈緒が起きる気配は全然なくて……。
ちょっと悪いなとは思ったんだけど、オレ、自宅に帰って……。


土曜日は、奈緒あずみちゃんと遊ぶって行ってたから、会ってない。
日曜日も……会わなかった。


で、今朝ひさびさに会った瞬間、奈緒が申し訳なさそうに言ったんだ。
「ごめん。あたし、酔っちゃった?お酒飲み始めてからの記憶が全然なくて……」


本当、ばかみたいなんだけど、その言葉にほっとした。


それで、いつもみたいに会話しながら登校して……今に至る。
現在、昼休み。





教室でお弁当を食べていると、教室がざわりと揺れた。
……なに?


と、隣の椅子が音を立てる。
……んん?


立ち上がった紳くんは、つかつかと教室の入り口のほうへ……って、あずみちゃんじゃん!





珍しい……。
紳くんが行くことはあっても、このクラスにあずみちゃんが来ることはあんまりないんだ。
つか、紳くんが、「あずみを好奇の目に晒したくない」とかなんとかって理由で、あんまり来ないようにって言ってるんだ。


ぼーっと教室の入り口を見ていると、あずみちゃんの後ろからサラサラの黒髪が……奈緒っ!!


オレも慌てて立ち上がって、紳くんの後を追う。
急いでいたら、がしっと誰かに腕を掴まれた。


「いっ!?」


勢いがついていたせいか、肩が外れるんじゃないかってほどの衝撃。
何かと思って振り向くと、そこにいたのは……シュンヤ。


「あ、わり・・・」

「いーえー。……どしたの?」


問いかけると、シュンヤは恍惚としたまなざしで入り口のほうを見た。


「マドンナ、お前に会いに来たの?」

「……え?」

「だーかーらー!!天使が雪平くんに会いに来たのは分かるんだけど、マドンナはお前に会いに来たのかって!」

「な、なんで・・・?」


それが、そんなに喚くほどのこと?
質問には答えずに、問い返す。すると、シュンヤははあっと息をついた。


「あのなぁ、 五大美女の2人はすでに野郎もち。女帝のレイカ様はそういう感じじゃねえし、おかんの笹川は他校人気のが高いだろ?今、学園の一番人気はマドンナなんだよ」

「は、はい……?」


シュンヤが言ってることの、意味が分からない。
えーと……五大美女の2人……あずみちゃんと女王か。その2人は彼氏持ち。つまり、紳くんと譲のこと、か。
んで、女帝……現生徒会長の白鳥レイカは、そういう感じじゃない。……確かに、あの子すげー怖いもんね。
で、おかん・・・ま、『お姉様』らしいけど……。確かに、おかんは他校人気が非常に高い。すげー美人なんだけど、おせっかいだし、意外と間口が広くて、ほかの五大美女ほど敷居が高くないんだよね。結構男とっかえひっかえしてるから……。だから、学園での人気は5番手なんだ。


で……。
残るのが、マドンナの奈緒。
……確かに、「遊んでるらしい」って噂はあるものの、だれかが名乗りを上げたわけじゃないし……。
だから、1番人気?


「そのマドンナがさー、遊び人で有名なお前と、最近よく一緒にいるって噂になってんだよー。そういう関係なのかなーって思ってさ」

「ち、ちが・・・」


違う、のかな?
ヤることはやってるけど……でも…………。


「いーなー。マドンナと幼馴染で」

「そ、・・・」


シュンヤが、奈緒とあずみちゃんと紳くんがいる、クラスの入り口を見た。


オレも、つられて入り口に目をやる。
すると、きょとんとして此方を見ている奈緒と目が合った。


「………ちが、う・・・」


違う。
奈緒は……そういうんじゃない。


怖いんだ。
奈緒を“彼女”にするなんて、考えたこともない。
もし、そんなことしたら……オレ、奈緒のこと、壊しちゃう。
閉じ込めて、支配しちゃう。
そんなの……絶対に、嫌だ!


奈緒を誰にも取られたくない気持ちと、奈緒をオレのものにはできないって気持ちが、ぐちゃぐちゃする。


「お、おい・・・シノ?」


奈緒から目を逸らして、シュンヤのほうを向いた。


「違う。奈緒は……そういうんじゃ、ないんだ」

「シ、シノ・・・?」


びっくりしたようにオレを見るシュンヤに、にこって笑いかける。
そして、奈緒に背を向けて、譲と弁当が置いてある窓際の席に戻る。





「……壱?マドンナさん、いいのか・・・?」


席に戻ると、譲が不思議そうに声をかけてきた。
オレは、譲に向かって笑いかける。


「うん。奈緒は、あずみちゃんの付き添いだもん。別に、オレに会いに来たわけじゃないしねー」


へらっと言って、再度お弁当に手を伸ばした。
譲は、不思議そうにオレを見ていたけど、オレがそれ以上話す気がないのを悟ると、中断していたパンを食べる作業を再開した。
……あ、譲って独り暮らしらしくて、お弁当じゃなくて購買のパンなんだ。ちなみに紳くんは愛妻……あずみちゃんの、手作り弁当。オレは、普通に母ちゃんの弁当。





「おい、」


ぺち、


頭に手を乗せられて振り向くと、紳くんが立っていた。
お、おぉ・・・。手に、手作りらしきタルトを持ってる。
たぶん、調理実習かなんかで作ったんだろーなー。
それを持ってきたのかー。可愛いなー。


そんなことを考えていたら、とん・・・と目の前に同じような包みが置かれた。
……ん?


「大澤からだ」

「奈緒、から・・・?」


名前を聞いた瞬間、心臓がズキンと音を立てた。
……奈緒、オレに会いに来てたってこと・・・?


「なんでお前、来なかったんだ?」

「だ、って・・・奈緒は、あずみちゃんの……付き添いで……」

「アホか」


紳くんははあっとため息をつくと、哀れんだような目で、オレの顔を見た。


「……鈍すぎると、取り返しのつかないことになるぞ」

「……え?・・・なに、言って……」

「俺も、危なかったんだ。……あのとき、あずみが言ってくれなかったら……」


目を細めて、紳くんが低い声で言った。
……紳、くん?


「……まあ、いい。大澤から伝言だ。『今日は、あずみと千夏と遊ぶから、一緒に帰れない』」

「あ・・・う、うん」


いつものような口調に戻った紳くんが、淡々と奈緒の言葉を口にした。
オレは、その言葉にこくんと頷く。








紳くんの言葉の意味を……。
たかが数時間後に、嫌って言うほど理解するだなんて、思ってなかった。





ごめんね、奈緒。






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