「おはよ」
目を開けた瞬間、赤い目と視線がかち合う。
「……うさぎ、さん・・・」
「…………仁菜チャン?」
白い髪と赤い目。 その取り合わせを見ていたら、急に言葉が口をついた。
そんなわたしの謎の言葉を聞いた瞬間、目の前の男はその赤い瞳を大きくして、わたしの名前を呼んだ。
「……あはっ。変わらないね、本当に」
「……うっ、」
「覚えて、ないよね? いいんだ、それで」
「…………?」
「あのね、仁菜チャン、意識飛ばしちゃったんだーよ。俺、誰かわかる?」
目を細めて優しげに笑って、彼は首を傾げた。 この人は……、
「……瀬下、さん」
「ピンポーン。でも、これからは禅でいいよ」
「ここ・・・どこですか?」
「俺の家」
「家・・・?」
冷たい手のひらが、わたしの額に当てられる。 ……あれ? わたし、なんでここにいるんだろう。学校へ行くはずだったのに……。
痴漢にあっていたのを助けてもらって、調書が終わるのを待っていてくれて……。 それから、……それから、
「目覚めて早々悪いけど、我慢できないんだよね」
意識を失う前の状況に思考を張り巡らせていると、急に瀬下さんが声をあげた。 相変わらずうっすらと微笑みながら、瀬下さんはすっと立ち上がって、それからベッドの上に足をかける。 ギシッという音がして、ベッドが軋んだ。
「……な、に?」
「どっちにするか、決めた?」
わたしの上に馬乗りになった瀬下さんは、見下ろすようにしながらそう言った。 どっち……? どっち、って。 ……そう、だ。
「選ぶ……」
「いい子だねー、ちゃんと覚えてたんだ」
目覚めたばかりだからか、思考が思うように働かない。 ぼーっとした頭で、わたしは瀬下さんに提示された2つの言葉を思い出した。
「……あの、付き合うか、監禁・・・? って……」
「言葉のままだーよ」
「え、っと……」
「まあ、選択はあとでね。どちらを選んでも、このあとの俺の行動は変わらないから」
「あの……顔、近いです」
問答を繰り返しているうちに、瀬下さんの顔がすぐそばまで近づいてきているのが分かった。 瀬下さんの行動はあまりに不可解で、わたしが理解できる範疇を越えている。 ただ、これ以上近づいてこられると……その、キスみたいなことをしちゃうんじゃないかと思って、わたしは抗議の言葉を発した。
……でも、
「近づけるよ? キスするんだから」
「え、な・・・っ、んぅ!?」
否定も、なにもかもを覆うように、柔らかいものが、わたしの唇を塞いだ。
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