Side Hayato
「随分顔のいいメンバーだな」
「お前以外のバスケ部員は? もう練習なんかしたくないー、ってか?」
「転入生、相変わらずかわいーねー」
「…………っ、」
先輩たちの言葉に、翔太はギリッと歯を食いしばったようだった。オレの横に立っている歩も、ぶーっと頬を膨らませて、先輩3人を睨んでいる。
……結局、バスケ部の2年は、誰一人今日の試合に出てくれなかった。全員が、翔太の誘いを拒否したんだ。 最後のメンバーへの声かけには、オレと歩も同行したんだけど……。そいつは、ものすごく苦しそうに、「本当にすまないっ」と翔太の誘いを断った。聞くところによると、ほかのメンバーも全員、同じような様子だったらしい。
つまり3人目のメンバーには、昼食時の約束が適用されて、オレが選ばれてしまったのだ。
「……おい、翔太」
「なに・・・?」
「オレ、体育以外でバスケやったことねーけど・・・大丈夫か?」
「……大丈夫。おれが・・・頑張るから」
罵詈雑言を吐く先輩たちを睨みながら、その言葉から歩を守るようにして立っていた翔太にこそっと近づく。 翔太ひとりが頑張ったって……。もともと、3年を抑えてレギュラーになっていたほどだし、翔太は先輩よりは技術もあるんだろう。でも、さすがにひとりで太刀打ちできるほど甘いものでもないはずだ。
「……あ! 一年はどうなんだよ!? ひとり、チームに入れられないのか!?」
「……無理。おれも考えたんだけど、先輩が手を打って、脅してた。そもそも、最近の変な練習のせいで、1年生も練習に来てなかったしねぇ」
深く息を吐きながら、翔太が言う。……マジ、絶体絶命ってやつだ、な。
「やぁ」
「ふ、副会長さん・・・」
「やだなぁ、歩。昴でいいってば」
と。沈むオレたちの傍に、生徒会副会長の吉池 昴が近づいてきた。朗らかに笑う副会長は、一直線に歩の下へと近づく。……好かれすぎだろ、歩。
「そっちの3人目は、飯田くん?」
「あ、はい」
「……あの、瀬奈って今忙しいんですか・・・?」
「ん? うん。今日、どうしても終わらせなきゃならない書類があってね。今日は生徒会室から出せないんだよ」
歩の言葉に、副会長は「ごめんね」と笑う。……アイツ、マジで使えねえな。
「じゃあ、準備はいい?」
「……はい」
にっこりと笑う副会長の言葉に、翔太が頷く。
「勝負は、3on3。制限時間は、前半後半10分ずつの計20分。スリー・ポイントラインの外から打ったボールは2点、中から打ったボールは1点。ファウル2回で退場。……こんな感じで、大丈夫ですか?」
「いいよ。……こっちは退場者が出ても交代のメンバーがいるけど、お前らは3人ギリギリだろ? 退場者が出た場合、どうするんだ?」
「1点マイナスで、コートに戻れるようにします。……退場は、出しませんけど」
翔太と先輩のひとり・・・部長だろうか。ふたりが、ルールの確認をする。 えーと、3on3の場合、ハーフコートでオフェンスとディフェンスを入れ替えながら勝負するんだったな。ディフェンスがスリー・ポイントライン内でボールを奪った場合、一旦スリー・ポイントラインから出てオフェンスをしかけなきゃらならない・・・だったっけ。 昼休みに、付け焼刃で覚えたルールを頭の中で確認する。……マジで、不安しかねえんだけど・・・。
「……エンドラインからボールが外に出た場合は、左右のコーナーからスローイン・・・」
横で、歩がぶつぶつとつぶやいているのが聞こえる。 歩の運動神経のすごさは、体育のときに証明されているけど・・・でも、バスケははじめてやるって言っていた。……本当に、どうなるんだよ、これ。
「審判は?」
「セルフジャッジで行きましょう」
「わかった。……オレたちが勝ったら、転入生借りるからな?」
「……っ、」
翔太が、キッと先輩を睨む。 この件に関しては、副会長が便宜をはかってくれると言っていたようだけど・・・大丈夫なのか、本当に。
「んじゃ、はじめて?」
話がまとまったところで、副会長が微笑み、言った。 コイントスで、攻守を決定。まずは、先輩たちがオフェンス、か。
「歩、颯斗・・・。ボールは、つかんだらおれに回して。歩は、できるだけ動き回って、フリーの人をつくらないようにしてほしい。颯斗は基本、パスカットだけ頭に入れておいて」
「わかった」
「お、おぅ」
「……ごめんねぇ、本当に。変なことに、巻き込んじゃって・・・」
試合前の円陣。きゅっと唇を噛んで、翔太が言う。 そんな翔太を、オレが軽くはたいて、歩が頬をつねった。
「・・・ひはい」
「ばか。言ったでしょ? ぼくは、翔太の力になりたいのっ」
「あぁ。……勝とうぜ、翔太」
「……っ、うん!」
歩とオレの言葉に、翔太が大きく頷く。 とにかく、勝たなきゃ。歩のことも、副会長に頼む状況にならなければそれが一番なんだし・・・。 ……まぁ、簡単に勝てるような相手でもないけどさ。
“ピーッ”
高い笛の音が鳴って、試合がはじまった。
**********
「っ、はぁ・・・」
ぜぇぜぇと息を切らす翔太。 ハーフタイムは5分間。得点は、12対5で・・・負けていた。
「ごめん、翔太・・・。オレ、全然動けなかった」
「ぼくも・・・ごめんっ。ぼくがシュートを狙えないからっ・・・」
「ううん・・・ううん。違う。ふたりとも、すっごい頑張ってくれてる。……ありがとう」
オレと歩は、どう足掻いたって素人。いくら運動神経のいい歩も、はじめてのバスケで、いきなりゴールにボールを放ることはできない。反射神経でボールは奪えても、そこからが繋がらない。 翔太は、先輩2人に徹底的にマークされ、ほとんど動かせてもらなかった。オレたちの得点のうち、自力で入れたのは1点のみ。あとは・・・ファウルによる、フリースローの得点なんだ。交代要員のいる3年チームは、翔太がシュートを打ちそうになると、ファウルをしてでもそれを押さえ込もうとする。話によると、翔太はもともとPGというポジションらしく、フリースローが苦手らしい。レイアップやゴール下のボールを抑えてフリースローに持ち込ませれば、得点の確立がぐんっと下がるとか……。
得点を狙うには、翔太にボールを集めるしかない。 けれど、翔太には2人の先輩がべったりとマークしているし、シュートを狙いに行くと、ファウルしてでもそれを止められてしまう。
逆転を狙う後半。……正直、八方塞がりの状況だった。
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