愛☆猫 | ナノ


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Side Shota



一度だけ、歩に相談しようとしたことがあった。
だけど、あのときは颯斗が大変なことになっていた時期で……。自分のこと、後回しにしちゃった。
そもそも、言わないほうがいいかな、とも思ってたんだよぉ。

でも、歩は言った。「なにもわかってないと思わないで」って。
それはきっと、さっき雅が泣きそうな顔で言った「ふざけるな」と同じ意味なんだろうって思うんだ。
たしかに、おれは……おれたちは、守りたい、危険にさらしたくないっていう一心で、相手の気持ちを考えてなかったのかもしれない。
おれだって、容姿的には生徒会長みたいに「カッコいい!」って言われる立場ではねーもん。「かわいい!」って、不本意だけど言われちゃう立場。
だからこそ、歩や雅の気持ちをわかってあげられるはずだった。なのに、自分の気持ちを通して、ふたりの気持ちを考えてなかった。


だから、話す。
正直……本当に、辛いっていうのもある。
颯斗が助けてもらったみたいに、おれも助けて欲しいって、心の奥底では思っていたんだ。





去年の4月付けで、顧問の先生が学校をやめた。家業を継ぐとかなんとかって理由で。
その顧問の先生は、もともとうちのOBで、厳しいけどすごくいい先生だったんだ。先生のおかげで、おれたちの高校、県内でも有数の学校になれたんだよぉ。

そんでね、ちょっと自慢に聞こえちゃうかもしれないけど……いまの韮崎学園のバスケ部レギュラーって、全員2年生なんだ。それって当たり前で、ここ数年、ちょっと力が落ちてきた学園の力を取り戻すために、おれたちの代はスポーツ推薦で県内の強豪校から人を集められたから。
だからバスケ部って、高校からの外部入学が、じつはすごく多いんだよ。おれは、レギュラーの中では唯一、幼稚舎からここにいるけどねん。

でも、強化を名目に集めたはずなのに、先生は学校をやめてしまった。
そうしたら、もともとこの状況に納得がいっていなかったらしい先輩の一部が、いままでの鬱憤をはらし出したんだ。
レギュラーは、3年生である自分たち。外部から来た後輩たちには、指導という名のいじめ。おれは、一応幼稚舎からここにいて、中学のときから先輩たちにはお世話になってたから、標的にされずに済んだけど……でも、1年間一緒にがんばってきたチームメイトがひどいことされているのが苦しくて……悲しかった。いまの顧問は“かたちだけ顧問”で、部活には全然顔出さないし。

で、唯一先輩に意見できる立場として、おれはちょっと前に、先輩に食って掛かった。歩が颯斗を助け出した後だよぉ。あのときの歩の行動力に感化されて、おれもがんばらなきゃって思ったんだ。
おれ、なにしてるんだろう……って。
でも、それって結局先輩の火に油を注ぐ行為になっちゃった。……中学のときから、おれずっとレギュラーやらせてもらってたから……正直、おれのこと良く思ってない人もいたみたい。





「そ、れで……暴力?」

「殴られたのは、1回。でも……もう、練習がおかしくなってる。同級生は、練習に来ない。おれと先輩だけで、練習してるんだぁ」


おれの言葉を聞きながら、歩は悲しそうな顔をした。
本当は、昨日だって歩に部活を見せたかった。カッコいいところ、見せたかったんだ。
でも、あの空気を見せたくなくて、うそついちゃった。


「でも、悔しい。先輩だって、昔は優しかったし、部活もすっごく楽しかった。なのに、こんなことで辞めるの、悔しくて……。だから、おれだけは行ってた。だって、おれがいなくなったら、きっと同じ学年のチームメイトは、ずーっと来られないと思ったから」


きっと、先輩もおかしくなってるんだと思うんだ。ずっと優しかったのに、おかしくなっちゃったんだ。
でも、先輩たちの悔しさとか、悲しさとかを取り払って、もとの部活にする方法が思いつかない。


「……翔太、同級生のところ、行こう?」

「ふぇっ。で、も…おれ、何度も行った! でも、『あんな思いしてまで続けられない』って、断られちゃったんだよ、っ」

「……何度でも、行こう。ぼくも一緒に行く。この状況で、翔太だけが我慢するなんて、絶対ダメだよ。それか、先生に……、」

「みーっけ!」


歩が、どうしたらいいのかを提案してくれる。
その提案は、一度はおれがやってみたものばかりだったけど……歩と一緒なら、もう一度がんばれるかもしれない。

でも、そんな歩の言葉をさえぎる声がした。
声のしたほうを向くと……せ、んぱい…。
昨日、水飲み場でおれに声をかけてきた2人と、もうひとり……計3人が、此方を見ていた。


「さっき、翔太の場所、教えてくれた……」

「うん、そー。よりによってオレに聞くんだもん」


歩が、そのうちのひとりを見て、苦しそうな顔をした。
カズキ先輩と、面識があるのかな?
あぁ、でも……やばい、よぉ。先輩、にやにやしてる。


「なぁ、ショウ。編入生とはただのクラスメイトって言ってなかったか?」






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