Side Ayumi
その日は、翔太と話すことは叶わなかった。 冴島くんに引っ張られて自室まで行ったけど、どうやら翔太は部屋には戻ってきていなくて……。 「心配だから、探しに行こう」って提案したけど、冴島くんは首を横に振った。翔太から「友達の部屋に泊まる」ってメールが来たみたい。 心配だったけど……明日、きちんと話そうって言って、その日は解散になった。
「……颯斗・・・翔太、大丈夫かな?」
「んー。なんか事情があるっぽいけど、話してくれるよ。たぶんな」
颯斗も心配そうにしていたけど、「本当に困ったら言ってくれるはずだから」って笑った。 ……そう、だよね。心配ばっかりしていても、仕方ないよね。
――ふとんに入って目を閉じると、目の前に浮かんだのはお兄ちゃんの顔。 ……今日は、いろいろあって・・・なんか、あのときのお兄ちゃんとのできごとが、夢かなんかだったんじゃないかって思う。 でも、いつもなら来るお兄ちゃんからの「おやすみメール」が来ないってことは……。 来ないってことは、きっとあれは現実だったんだ。
「・・・おに、ちゃん・・・。おやすみ」
小さく呟いて、目を閉じる。 明日になったら……全部、解決したらいいな。
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次の日。 教室に入ってすぐ、見知った金髪の髪が見える。翔太!
「しょ、翔太!」
「歩!」
駆け寄ると、翔太はにへらっと笑った。 颯斗も、ちょっと安心したのかほっとした顔をしている。 ……冴島くんは、相変わらず厳しい顔をしているけど。
「おはよお! 昨日、話の途中でどっか行ってごめんねぇ?」
「う、ううん! それより、翔太昨日の、」
「早速なんだけどさあ、歩宿題見せてくれない?」
わたしのセリフをさえぎって、翔太がペロッと舌を出した。 翔太に宿題を見せることは珍しいことじゃないけど……なんとなく、この言葉に違和感を感じる。
「おれ、昨日やってる時間なくてぇ。歩か雅、お願いっ」
「え、っと・・・」
「僕はお断りだよ」
パンッと手を合わせた翔太を一瞥して、冴島くんが言い放った。 そして、ふっときびすを返してしまう。 ……えぇー、っと・・・。
「い、いいよ?」
「ほんとう? やったぁっ!」
翔太はにっこりと笑うと、わたしが差し出したノートを受け取った。
「あゆー、おはよーう」
翔太の様子を見ていると、急に後ろからずっしりとした重みを感じる。 目の端に見えるのは、見知った赤髪だ。
「跳、おはよー」
「んふー。今日はあゆの背中空いてたー」
跳はうれしそうに、わたしの首に手を回す。 く、苦しいです・・・!
「犬飼! 歩から離れろって!」
「やーだよっ。悔しかったら颯斗くんも抱きついたらー?」
「えっ、な・・・ば、ばかっ!!」
跳を引き剥がそうとする颯斗。それから、そんな颯斗にからかいの言葉をかける跳。 いつもの光景・・・なんだけど、いつもとちょっと違うような……。
「三宅くんの背中が、空いて……翔太、」
違和感の招待を突き詰めようと悩んでいると、ふいに冴島くんが声をあげた。 何事? と思っていると、冴島くんがつかつかと翔太に歩み寄る。
「え、なに? みやび、」
「最近、ずっとおかしいと思ってた。ここ数日、翔太が三宅くんに抱きついたりしなくなったから」
「っ、なに・・・それ」
びくり、と翔太が身じろぐ。 ……言われてみたら、翔太っていつもわたしの背中にくっついてた・・・ような……。
「翔太!」
「いっ、・・・!」
とぼける翔太に痺れを切らしたのか、冴島くんが翔太の腕をぎゅっと掴んだ。 それだけのことだったはずなのに、翔太は大げさにからだを揺らす。
「……、翔太」
「み、やび・・・や、やだ!」
冴島くんは翔太を捕まえると……なぜか、翔太のシャツと、中に着ていたTシャツを捲り上げた。 翔太のお腹が……丸見え、に・・・!
「しょ、翔太!」
「お、おい! お前、なんだよそれ!」
「翔太・・・なに、これ?」
「……な、んでも・・・ない」
焦るわたしと颯斗、ぎゅっと唇を噛んだ冴島くんが、矢継ぎ早に翔太に声をかける。 でも、翔太はふるふると首を振った。
翔太のお腹には……真っ青なあざがあった。
「……なーんで、こう問題ばっかり起こるかなー」
後ろで、跳がため息をつくのが聞こえた。
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