愛☆猫 | ナノ


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Side Ayumi



その日は、翔太と話すことは叶わなかった。
冴島くんに引っ張られて自室まで行ったけど、どうやら翔太は部屋には戻ってきていなくて……。
「心配だから、探しに行こう」って提案したけど、冴島くんは首を横に振った。翔太から「友達の部屋に泊まる」ってメールが来たみたい。
心配だったけど……明日、きちんと話そうって言って、その日は解散になった。





「……颯斗・・・翔太、大丈夫かな?」

「んー。なんか事情があるっぽいけど、話してくれるよ。たぶんな」


颯斗も心配そうにしていたけど、「本当に困ったら言ってくれるはずだから」って笑った。
……そう、だよね。心配ばっかりしていても、仕方ないよね。


――ふとんに入って目を閉じると、目の前に浮かんだのはお兄ちゃんの顔。
……今日は、いろいろあって・・・なんか、あのときのお兄ちゃんとのできごとが、夢かなんかだったんじゃないかって思う。
でも、いつもなら来るお兄ちゃんからの「おやすみメール」が来ないってことは……。
来ないってことは、きっとあれは現実だったんだ。


「・・・おに、ちゃん・・・。おやすみ」


小さく呟いて、目を閉じる。
明日になったら……全部、解決したらいいな。








**********


次の日。
教室に入ってすぐ、見知った金髪の髪が見える。翔太!


「しょ、翔太!」

「歩!」


駆け寄ると、翔太はにへらっと笑った。
颯斗も、ちょっと安心したのかほっとした顔をしている。
……冴島くんは、相変わらず厳しい顔をしているけど。


「おはよお! 昨日、話の途中でどっか行ってごめんねぇ?」

「う、ううん! それより、翔太昨日の、」

「早速なんだけどさあ、歩宿題見せてくれない?」


わたしのセリフをさえぎって、翔太がペロッと舌を出した。
翔太に宿題を見せることは珍しいことじゃないけど……なんとなく、この言葉に違和感を感じる。


「おれ、昨日やってる時間なくてぇ。歩か雅、お願いっ」

「え、っと・・・」

「僕はお断りだよ」


パンッと手を合わせた翔太を一瞥して、冴島くんが言い放った。
そして、ふっときびすを返してしまう。
……えぇー、っと・・・。


「い、いいよ?」

「ほんとう? やったぁっ!」


翔太はにっこりと笑うと、わたしが差し出したノートを受け取った。


「あゆー、おはよーう」


翔太の様子を見ていると、急に後ろからずっしりとした重みを感じる。
目の端に見えるのは、見知った赤髪だ。


「跳、おはよー」

「んふー。今日はあゆの背中空いてたー」


跳はうれしそうに、わたしの首に手を回す。
く、苦しいです・・・!


「犬飼! 歩から離れろって!」

「やーだよっ。悔しかったら颯斗くんも抱きついたらー?」

「えっ、な・・・ば、ばかっ!!」


跳を引き剥がそうとする颯斗。それから、そんな颯斗にからかいの言葉をかける跳。
いつもの光景・・・なんだけど、いつもとちょっと違うような……。


「三宅くんの背中が、空いて……翔太、」


違和感の招待を突き詰めようと悩んでいると、ふいに冴島くんが声をあげた。
何事? と思っていると、冴島くんがつかつかと翔太に歩み寄る。


「え、なに? みやび、」

「最近、ずっとおかしいと思ってた。ここ数日、翔太が三宅くんに抱きついたりしなくなったから」

「っ、なに・・・それ」


びくり、と翔太が身じろぐ。
……言われてみたら、翔太っていつもわたしの背中にくっついてた・・・ような……。


「翔太!」

「いっ、・・・!」


とぼける翔太に痺れを切らしたのか、冴島くんが翔太の腕をぎゅっと掴んだ。
それだけのことだったはずなのに、翔太は大げさにからだを揺らす。


「……、翔太」

「み、やび・・・や、やだ!」


冴島くんは翔太を捕まえると……なぜか、翔太のシャツと、中に着ていたTシャツを捲り上げた。
翔太のお腹が……丸見え、に・・・!


「しょ、翔太!」

「お、おい! お前、なんだよそれ!」

「翔太・・・なに、これ?」


「……な、んでも・・・ない」


焦るわたしと颯斗、ぎゅっと唇を噛んだ冴島くんが、矢継ぎ早に翔太に声をかける。
でも、翔太はふるふると首を振った。

翔太のお腹には……真っ青なあざがあった。


「……なーんで、こう問題ばっかり起こるかなー」


後ろで、跳がため息をつくのが聞こえた。






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