愛☆猫 | ナノ


(21/37)

(21)


Side Yuya



歩の唇の端についていた血液に、思わず我を失った。
我慢していた思いが、弾けた気分だった。


「やだ、やだっ・・・!」


動かない体を必死に捻る歩に、心の端がちくりと痛む。





閉じこめておきたかった。
危険にさらしたく、なかったんだ。


自分でも、本来妹である歩に、こんな感情を抱くことが間違っていることは、とっくに分かっている。
いつか、歩が俺の腕の中から飛び立ってしまうのも、分かってるんだ。


星としての頭角をあらわしたとき、じいちゃんや親父、俺は愕然とした。歩には、ふつうの道を歩んでほしいという、共通の願いがあったから。
だから、さまざまな理由をつけて、歩の才能の片鱗が、ほかの星にバレないようにしていたんだ。


……でも、歩の望みは星になることだった。三毛家の一員として、役に立ちたいという希望が、歩の中にはあったから。俺たちが「普通の女の子として生活してほしい」と頼んだところで、歩の根底にある「二度と足手まといだなんて思われて、捨てられたくない」という思いが強すぎた。


歩が賭けを持ち出したとき、俺たちはチャンスだと思った。これで、諦めさせることができる、と。歩が諦める、大義名分ができた、と。


……でも。
人知れず体を鍛えていた歩は、俺たちを破り、星になることになった。
約束は約束。それ以上、歩の思いを反対することができなくなってしまったのだ。


だからせめて、そばにいようと思った。危機感のない妹のそばで、少しでも危険がないように、と。


なのに……。
歩は、危険なことに身を投じる。「役に立ちたい」という一心で、何度「やめろ」と言っても、危ない橋を渡ろうとする。


生徒会との接触。二度に渡る強姦未遂。
そして、ほんの少し目を離した隙に唇を奪われたという、この現実。


どうしたって、守れない。
どうやったって、歩に近づく男が減ることはない。





だったら……?
だったら、せめて……。





正常な思考であれば行き着かないところに、俺の考えは行ってしまった。
こんなことするべきではないという気持ちを抱えつつも、歩を押さえつけることをやめられない。





「おに、ちゃん・・・! やだっ、だめ!」

「……っ、」

「ん、っあ・・・!」


腹部をなぞりあげると、わずかに色を混ぜた声が歩の口から聞こえる。
やばい、と思う。
これ以上は……。


「待って、お兄ちゃんっ・・・! 兄妹、だよっ!?」


歩の口から紡がれた「兄妹」という単語に、思わず顔が熱くなった。
同時に訪れた、真っ黒な絶望感。


「……ちげえ、だろ」

「……え?」


言っちゃいけないことは、分かってた。
歩がもっとも傷つく言葉だと、分かってたんだ。





「兄妹じゃ、ねえだろ。……血が、繋がってねえんだから」

「……っ、あ・・・」

「本当は……いとこ、なんだから」

「やだっ……お兄ちゃん、違うっ!」





「……家族じゃ、ねえんだから」





そう言った瞬間……歩の大きな目から、ぼろりと涙がこぼれた。
それから、すうっと歩の体から力が抜ける。


……そのときになって。
ようやく俺は歩に、絶対に言ってはいけないことを言ってしまったと、気づいたんだ。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -