愛☆猫 | ナノ


(14/37)

(14)


Side Yuya



「ユウさん・・・オレ、あゆを1人で行かせちゃったーよ」


跳に事情を聞いた瞬間、目の前がくらくらした。
いつも通りのゆるい口調ながら、電話をかけてきた跳の声も不安そうで。
おまけに跳が歩を1人で行かせたという事実が、事態の緊迫した状況を示唆していた。


置いてあった書類なんか投げ捨てて、白衣も脱いで丸め、すぐに保健室を飛び出す。
廃倉庫……。
ここから、一番遠いじゃねえか。





嫌な予感が頭をよぎる。
思い出すのは、始業式での悪夢。


歩はキレると、本当に手が付けられなくなる。
戦闘力や五感が鋭くなる反面、性格は残虐性が増して、非情になる。
漫画やゲームのような状況なのだが、事実なのだから仕方が無い。


大事なルームメイトが攫われたこの状況。
跳が歩を先に行かせたのは、時間が経てば立つほど飯島が窮地に陥るという理由のほかに、それによって歩がキレてしまうことを避けるためでもあった。
ことに及ぶその前に、犯人の男たちが逃げようとしたなら、歩はそれを止めようとするだけでキレている余裕はないだろう、と。
……犯人の男たちが、よっぽどのバカじゃなければ。





そして、倉庫のドアを開けた瞬間。
俺は、犯人の男たちがよほどのバカだったことを知った。
目の前にいたのは、顔を真っ青にしてドアに走り寄ってくる2人の男と、明らかにキレた表情で男たちを沈めようとしている歩の姿だった。


キレている歩は、本当に容赦がない。
現に、あっちの男は関節を外されているし、向こうの男は肺を蹴られたんだろう。へたしたら、肋骨にひびが入っているかもしれない。
……そして歩は、無意識のうちに相手に苦しみを味わわせようと、止めをさして気絶させないんだ。
ま、催涙スプレーとみぞおちの二段構えの挙句、頭を蹴り飛ばす跳には言われたくないと思うがな。
あいつも、歩のことになるとまったく容赦がなくなるから。
歩以外の誰にも興味を持たない男だし。





慌てて倉庫に飛び込んだ俺は、とにかく歩を落ち着かせることを第一に考えた。
おそらく喉元かこめかみに叩き込もうとしていた手刀を止めて、太ももをひざで押さえつけることによって動きを止める。
それから、抱き込んで「大丈夫だから」と声をかける。


怒りで体が震えている。
自分のことは最後に回すくせに、なんで人に危害が与えられるとこんなになるんだよ。
恐らく本当の両親がいなくなってから現れたこの兆候だけは、何度戒めても治らない。
だって、本人も無意識のうちに行われている行動なんだから。


「う、ぇ・・・おに、ちゃ……」

「だーじょうぶだ。ほら、飯島も跳が解放したからな」


そう言った瞬間、歩はびくんと跳ねて、俺の腕の中から飛び出した。
それから、視線を飯島に向けて、急いで駆け寄る。
ボロボロと涙をこぼしながら、歩は飯島のそばに座り込んだ。
跳がロープを切ったことで手足が自由になった飯島は、まだ少しぼんやりしながらも、悪い、と頭を下げる。


「わ、るい・・・オレ、不注意にドアを開けたから……」

「ちがっ、・・・ごめんっ!わたし、昨日まで見張りなの・・・、忘れて……」

「謝るな・・・本当……オレ……」


苦しそうに呟く飯島に、歩は泣きながら抱きついた。
それから、無事でよかったと、何度も呟く。


「……おっそーい」


と。
こんな状況でも、歩が飯島に抱きついているのが気に食わないんだろう。
ほっとしているのか、イライラしているのか読めない表情で歩と飯島を眺めていた跳が、ドアのほうを見て声をあげた。
振り向くと、入り口のところに生徒会副会長の吉池と、庶務の相原が立っていた。
倉庫内の状況に呆気に取られているのか、呆然としながら倉庫を見渡している。


「……三宅先生?」


先に回復した吉池が、俺を見て驚いたように口を開く。
そして、辺りを見回して、いぶかしげな声を上げた。


「これは、どういうことです?」

「……俺がやったっつったら、信じるか?」

「そんなわけ、ないでしょう?先ほど、あなたが保健室を飛び出すのを見ていました。どんなに身体能力が高くても、不可能な時間帯ですよね?」

「カマかけんな、胸糞悪い」


私情だが、この2人は嫌いだ。
片や俺の歩の唇を奪い、片や食堂で歩の首筋を舐め上げたんだからな。


「そもそもあなた、なぜこんなところにいるんですか?」

「保険教諭が、怪我人が出そうな場所に行くのは悪いことか?」

「いえ。……ただ、あなたと歩は兄妹でしょう?」

「分かってるなら聞くな。俺は歩が何より大事なんだ」


いちいちつっかかってくるこの男が憎たらしい。
にらみつけると、吉池は肩をすくめて倒れている生徒に近寄った。


「……処罰の前に、2名は病院に行かなきゃなりませんね。三宅先生、処置をお願いします」

「処置道具、持って来てねえ」

「……あなたよく『怪我人が〜』なんて嘘でも言えますね?」

「まあな」


歩にやられたやつの処置なんてごめんだったが、仮にもここでは養護教諭。
倒れている6人の中でもとくにひどい2人に近づいて、処置を開始する。


「……我が妹ながら、すばらしい関節のはずし方だな・・・」

「ユウさーん、のん気すぎぃ」

「あ、こっちも。……またこんな苦しむ場所に蹴りいれて……。すげえぞ、歩」

「褒めちゃダメでしょー」


怪我人を見ながら感嘆の声を上げると、跳が小さくため息をついた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -