Side Ayumi
みなさーんっ! わたし、とってもバカだったみたいですー!!
「……す、すげえ気持ち分かるけどな。親衛隊の制裁、こええもんな!」
わたしの咄嗟のウソを信じて、こんなことを言って慰めてくれるのは、颯斗。ぽんぽんと肩を叩かれる。 ……うう、優しいよー。
「そうだよお。それに、歩のあの喋り方、結構可愛かったよお?……顔は、ちょっと怖かったけど」
ちょっと的外れだけど、全力で慰めてくれようとしているのは、翔太。初めて会ったわたしなんかに、ありがとう。 でもやっぱり、顔は怖かったのね。
「三宅くん、最初から、黒いオーラ出してたよね。理由は分からないけど、たぶん目、付けられたよ?出る間際にチラッとあいつら見たけど、すげえ楽しそうにしてたし」
ですよね、ですよね。 諭しながらも、心配そうにしてくれる冴島くん。ちょっと呆れ気味で言っているけど、根はすごく優しいんだと思う。
もう本当に……わたしの、バカ。
そんな感じでわーきゃー言いながら、自分たちの部屋に戻る。 翔太は、始業式に提出する課題が終わっていないとかで、これから冴島くんがつきっきりで指導するらしい。 『ぼくも手伝おうか?』って言ったけど、翔太が集中できなくなるから大丈夫だよって、冴島くんが。 邪魔しちゃ悪いし、各々の部屋に戻ることになった。
「大丈夫、かよ?」
部屋に入った瞬間、 颯斗がわたしの顔を覗き込む。 ……うぅ…。
「はやとお……」
すごい、いい人だ。 だって、全力で心配してくれるのが分かるもん。 トラブル続きの入寮日。なんだか、涙腺も弱まっているみたい。 颯斗を見ていた視界に、うっすらもやがかかる。
「……、男男男男……」
と、颯斗がばっと顔を逸らして、ぶつぶつと呟き始めた。 男……?
「うん、大丈夫だよ!なんか迷惑かけて、ごめんね?」
男男と連呼する颯斗の袖を引っ張って、謝る。 だって、副会長に馬鹿にされたっぽいこと言われちゃったし。わたしのせいだよね。
「いや、大丈夫だって」
颯斗がにっこりと笑ってそう言うから、わたしまで笑顔になった。 本当、プラネタリウムで理緒にキ○されたり、生徒会庶務に○スされたり、副会長に首を舐○○○たりって気が滅入ることばっかりだったけど、同室が颯斗で本当によかった。 ……あ、伏字にしたのは、思い出すのもイヤだからです。まあ、理緒のはまだ……いい出会いだったと思うけど。
「……あ、歩。携帯のアドレス、交換しようぜ?」
「へ?……あ、うん!」
わああっ! 学校の友だちと、携帯のアドレス交換! すごい、嬉しいっ!はじめてだもん。
颯斗は黒い携帯を取り出して、ぽちぽちっと赤外線のウインドウに変えた。 そっか。赤外線を使うのね。
わたしも、自分の白い携帯を操作して、赤外線の画面を出す。
「んじゃあ、俺から送んな」
「はーいっ」
受信ボタンを押してしばらく待つと、颯斗の名前が画面に出てくる。 【登録しますか?】にもちろんYESを押すと、無事にアドレス帳に颯斗の名前が入ったみたいだ。 ……なんだかすごく、嬉しい。
「えっと、じゃあ送ります!」
再度赤外線ポートを向かい合わせて、今度は送信ボタンを押す。 しばらくして【送信完了しました】の文字が出る。ちゃんと行ったみたいだね。 わたしは、嬉々としながら携帯を閉じた。
「サンキュー」
呟いた颯斗は、ぽちぽちと携帯をいじり始める。 たぶん、フォルダを整理してるとか・・・かな?
「…………?」
しばらく携帯を眺めていた颯斗の眉が、少し寄った。 でも、わたしはそれに気づかずに、キッチンへ向かう。
……あ、結構キッチン用品そろってる。 これなら、結構凝ったものまで作れそうだな。 これからはあんまり……食堂に行かないほうがいいと思うし。
自慢じゃないけど、結構料理はできる。 実は女の【星】って、屋敷のメイドさんに化けて潜入したり、情報を得るために料理に睡眠薬入れたりすることもあるんだ。 だから、料理も訓練の一つ。睡眠薬によって、効果が出やすい料理とかあるしね。
「あ、お皿も結構ある。……颯斗たちがよければ、みんなの分も作りたいな」
今日、迷惑かけちゃったし、これからお世話になるもんね。 わたしは、多分使ったことがないからだろう。ちょっとほこりを被っているお皿を手にとって、そんなことを思った。
「颯斗は料理、何が好……」
先ほどアドレスを交換した場所で携帯を見ている颯斗に声をかけようとすると、颯斗が不思議そうにこちらを振り向いた。
「みけ あゆみ……?」
「え……、」
するりと、お皿が手から滑った。 ……そして、
パリン、
白いお皿が床に落ちて、砕けた。
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