Side Ayumi
「あ、歩ーっ!」
ぶんぶんぶん。 手を振ってくるのは、先ほどわたしにチューなんかした、瀬奈だ。
入り口から来たという生徒会一行……というか、3人。 覚えているデータに入っている。 副会長の、吉池 昴(よしいけ すばる)、会計の市川 雫(いちかわ しずく)、そして瀬奈。 入寮初日にして、この接触。 食堂でのんきにごはん食べてたのが悪いんだろうな……。
「え?歩、生徒会と面識あるのお?」
「……うん、まあ……」
驚く翔太。 わたしは、ぶんぶん手を振ってくる瀬奈をじっと見つめた。
お兄ちゃんの言葉が、頭の中を回る。 親衛隊の、言葉遣い。 なんかやたらとぶりぶりしていた気がする。
「なあなあ、歩!なんかな、オレがおもしろいヤツがいるって言ったら、こいつらが会いたいって言い出したんだよ!」
このやろう。余計なことしてくれやがって。
副会長の吉池先輩と、会計の市川……くん?男に見えないけど。
吉池先輩は、やわらかい茶系の髪と瞳を持った人。ちょっとだけ、理緒っぽいオーラが出てる。……でも、理緒みたいに優しい感じじゃない。口角は上げてるけど……嫌な、笑い方。わたし、この人苦手……かも。
市川、くん?は、ブロンドの髪をポニーテールに結って、緑色の目をした美少、年……?……女の人にしか見えない。大きくてくりっとした猫目。
「君が、三宅 歩くん?……瀬奈の言ったとおり、本当に綺麗な顔をしているね」
そして、にこっ。 ……うぅ、絶対作り笑い。 でも、お兄ちゃんに言われてるんだ。「なんか腹黒な笑い方をする……とくに副会長的な人に出会っても、『ちゃんと笑ったほうがいいよ?』なんて言うんじゃないぞ。好かれるから」とかなんとか。 もとより、そんな失礼なことを言うつもりはないけど(だって、作り笑いが悪いことだとは思わないもん。人間関係を円滑にするには、必要なことだってあると思う)……なんか、お兄ちゃんすごくない?
「へえー。確かに可愛いかもねー。でも僕のほうが綺麗かなあ?ねっ?」
そう言ってギャラリーに向かってパチンとウインクをする市川くん。 うおおおおって、男の人たちが雄たけびを上げる。 ……この人、本当に男の人ですか?
「あれれー?何見てるのお?あ、なに?君も僕とヤりたいの?」
「……は?」
「えー、でも、君に掘られるのはちょっとイヤかなあ?君だったら、どっちかっていうと僕が食べちゃいたい」
耳元で囁かれて、びくんと震える。 なに?なんなの、この人?
と、颯斗と翔太、雅が立ち上がった。 そして、颯斗がわたしの手をとる。
「すみません。こいつ、今日来たばかりなので……」
「分かっているよ、そんなことは。飯田くん……だっけ?黙ってようか」
クスリと笑った副会長。 ……ちょっと、カチンと来る。 でも、お兄ちゃんの言葉を思い出して、必死に抑えた。
「なな、歩?オレらと飯食おうぜ!」
「…………」
「いいね。なんなら、ほかの子も一緒でいいからさ?」
「ねえねえ、何で返事しないのお?」
3人に囲まれて、イライラする。 でも、ダメ。 颯斗たちは、心配そうにわたしを見ている。 ……ごめんね。不快な思いさせて。 がんばって、嫌われるから。……っていうのも、変な話だけど。
「わぁー、本当ですかあ?」
パッと顔を上げる。 わたしは、副会長さんをまっすぐ見た。
「うれしいです〜。まさか憧れの生徒会のみなさんとお食事できるなんて〜、恐れ多いって言うかあ」
自分で言ってて、引くわ……。 お兄ちゃん……これで本当に嫌われるんでしょうね?
「え?あれ…?お前、さっきとキャラちがくな、」
「編入初日で御三方にお声かけていただけるなんて〜、歩うれしいっ。でもでも〜、やっぱりいじめられたりしたらやだしい」
口を挟んできた瀬奈の言葉を制して、続ける。 さっき会っちゃったのは、やっぱりまずかったな。あのときは、あまりにも急すぎてキャラを作ってる余裕もなかった。
「それにい、急すぎて怖いですう〜。だから、また今度の機会にお誘いしてくださいねっ☆」
ガタンと立ち上がって、呆気にとられてる颯斗の手を取った。
ちょ、ちょっと……恥ずかしかったけど、仕方がない。 だって、こうでもしなきゃ、生徒会と深くかかわることになるもん。 このまま、この人たちの興味が失せてくれれば……。心置きなく、調査できるってもんですよ!
「ではでは〜」
「ちょっと待って」
ガシッ。 颯斗の手を掴んでいないほうの手が、急に引っ張られる。 ……な、なに?
ばっと振り向くと、副会長が肩を震わせていた。
「……ふ、ふふっ…」
え?な、なに……? 副会長は……どうやら、笑っているようだった。
お兄ちゃん!こんな展開聞いてないんですけど!?
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