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▽ リョウカタオモイ

ゴリラやら害虫やら死ねやら、どんな罵詈雑言を浴びせられても気持ちが揺るぐことのなかったこの俺が。お妙さんお妙さんとあれほど一人の女性に夢中だったはずのこの俺が、ここ最近になってそのお妙さん以上に気になる存在が出来てしまったというのだから驚きだ。

気付けばいつでもその姿を目で追ってしまっているのだけれど、ついぞ見掛ける小さな背中でさえも彼女だと思うとドキドキと胸が高鳴って柄にもなく緊張してしまう。そんなだから上手く話し掛ける事も出来ないし、お妙さんにしたような行為も一切出来ずで相変わらず俺の恋はあの頃と同じく一歩も進展なしなのだが…それでも今のこの関係に甘んじているのには訳がある。

「あれ、近藤局長?どうされました?こんなところで突っ立って」
「っえ?あ、ああ、うん!いや少し休憩をしようと思ってね!」
「休憩?ふふ、こんなところで?」

口元に手を当ててふふふと上品に笑った彼女。どうせなら座って休憩してらしたらいいのに、と何ともおかしそうに目を細めるその顔が物凄く好きで。そうこの笑顔が見られるだけで幸せなんだ俺は。ああ、いつまでも見ていたい!と心の中では思っているのだけれど…。

「あ、ああ…うん、その、じゃ、座ろうかな」
「はい、どうぞお座りになってごゆっくり」

心とは裏腹に何故か彼女のその笑顔をじっと見つめることが出来ずにへらへら笑いながらパッと視線を下へ下へと逸らしてしまう。情けないことに見つめることも見つめられることも不馴れで。…だってさ、こんなゴリラに見つめられても、困っちゃうだろうしさ。

「…あ!すぐお茶お持ちしますね」

だけれどそんな俺の態度を彼女は一体どんな風に受け取っただろう?もし俺が同じような態度を上司に取られたら?…そこまで考えて、ああ俺だったらこんな上司は嫌だなあなんて思うものの。くるりと背中を向けて足早に去ってく後ろ姿を見つめながら深い溜め息を一つ吐いた。…ああせっかく訪れたはずの幸せがどんどん逃げていく。

「わあ!」

その時だった。彼女が消えた曲がり角から聞こえたドンという衝突音。次いで上がった驚いたような声に、なんだ!?と落ち着けていた腰を上げかけて、すぐ。

「トシ、徹夜2日目お疲れ様!」
「いってェな!ナマエ!テメー今わざとぶつかってきたろ!?」
「あはは!うん、ごめんね!それより大丈夫?目の下の隈すごいけど」
「…ハァ、今ので一気に眠気も覚めたっつの」

耳に入ったよく知る二人分の声に、ストンとものの数秒で再び同じ場所に腰を落とす。

…ナマエ、と。簡単にそう呼べてしまうトシが羨ましい、だなんて。

「ごめんごめん!後で眠気覚ましのお茶煎れてあげるから」

ね?許して!とブツブツと文句を言うトシに、笑いながら返す彼女の声は先程と打って変わって弾んでいて。そんな彼女に向けて放たれた小さな溜め息は、仕方ねーなあ…と続いた酷く穏やかな声と共に空気に融けた。

トシの、そんな柔い声なんてきっと今までに一度だって聞いたことない。だからそこで俺がこう思ってしまうのも致し方ないことだと思う。…そう、もしかしたら二人はお互い想い合っているのではないか?

ふと頭を過った仮説、だけれど妙に的を得ているような気がするのはきっとそこに当て嵌まる何かがあったからだ。そうだ、だってあの時も。ああ、あの時だってそうだった。そうなれば人間誰しも自分の中の仮説とそれらを勝手に結び付けて考えてしまうものだと思う。

そうなると最後に行き着くところはここである。ああ、やっぱり俺はいつになってもトシにゃ敵わねーんだろうなあ、なんて。そう、自分で自分を惨めにしてるだけの、ただのガキだってことは重々承知しているつもりだけれど。



「…ええと、局長?」

これは?と首を傾げて見上げる彼女に手渡したもの。それは数週間前から予約していた遊園地のチケットだった。大事に大事に箪笥の中にしまっていたもの。…本当は、彼女を誘うつもりで購入していたけれど今じゃもう何の意味もなさないからと半ばやけくそになっていたりする。はは、本当にだっせえ男だよなあ。

「この辺に最近出来たじゃない?ほら、あの大きい遊園地。なんて言ったっけな…忘れちまったけどさ、良かったら貰ってくれないかな?いつも頑張ってくれてるお礼に。ね?期限もあと数日しかないからこの土日にでもトシと二人で休み取って行っておいでよ」

アイツもここ最近根詰めてるから息抜きさせてやりたいんだ、とそう言えば。戸惑ったように俺を見上げてなかなかチケットを受け取らなかった彼女がおずおずとその手を伸ばす。困ったように笑う顔を何だか見ていられなくて、有給取っとくねと目を逸らしたまま笑顔を作った。そうだ、きっと彼女にはバレたに違いない。俺がこんなみっともねえ嫉妬をする小せえ男だってこと。



「うおおおおん!トシィ、聞いてよトシィ!!」

奇妙な泣き声を上げながら俺の部屋にやって来た女。名はナマエ。真選組の女中をしているこいつとの付き合いももうかれこれ数年に渡るが、いつの間にか隊士共の間で高嶺の華だなんて呼ばれてるらしいこいつがここまでぶっ壊れる原因は何年経っても俺ァ一人しか知らないわけで。

「あァ?んだよまた近藤さんか?いい加減にしてくれ頭が痛え」
「だってトシ聞いてよ酷いんだから…!そりゃ私の気持ちなんて露ほども伝わってないことなんて百も承知だけどさ?平気で他の男と行けだなんてこんなもの渡してくるなんていくら何でもデリカシーないと思わない!?っえ?思わないの?…っわあああん!もういい!もう知らないあんな人!この際トシにくら替えしてやるうううう!」

息継ぎもなく一気にそう捲し立てた彼女はうお〜いおいだなんてまるでどこかのギャグマンガで聞くような泣き声を上げながら俺の腰に縋りついてくる。…はあ、またか。泣き続けるナマエをどこか冷静に見下ろしながらこうして深い溜め息を吐くのもこれで一体何度目になるだろうか。…数えたくもねェ。

はああ、とナマエに聞こえるようにわざと大きな溜め息を吐いてみせれば、ぐずぐずと鼻を鳴らして泣き続ける彼女が俺の腰に顔を埋めたままポツリと小さな声で。

「…もしかしたら、あの子と行くつもりだったのかな」

ほら、あのキャバクラで働いてる…だなんだと宣うから。いやいや、そりゃねーだろお前どう見たって最近の近藤さんは…つーかお前らぜってェ両想いだろ!?と喉まで出かかったその言葉を何とか胃に納めた俺を誰か誉めてくれ。

こればっかりは当人同士の問題であるし、周りのモンがどうにかするのはおかしいと分かってはいる。が、傍で見ているモンとしちゃ何とも焦れったいものがある。ナマエにしろ近藤さんにしろ、そろそろいい加減にしてほしい。

「…お前の気持ちは分かった。とりあえず、その大江戸ランドっつーの?一緒に行ってやるから」
「っう、うう…私の人生初デート、近藤さんとが良かったよぉぉ!」
「ああ!?だったら今から近藤さん誘って来いこの意気地なし!」
「うわああああんそれも無理だって分かってるくせにトシの意地悪ぅぅぅ!!」
「だあああ!もううるせええええ!!分かったから!俺が一肌脱いでやるから!」

頼むからでっけェ声で泣くなうるせーから!…つーかお前もしかして太った?マジ重てェんだけど!いい加減離れてくんない!?…うっわ!鼻水擦りつけんな俺が悪かったごめんね!?

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