T卍R 場地中編 | ナノ
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お泊まりで重要なものを一つ答えよ



※幼馴染みのレディース総長 名前変換なしです




とうとうこの日がやってきた…いや、やってきてくださりました。

可愛いルームウェアを身に纏い家のインターホンが鳴るのを今か今かと待つ。外は暗く、時計の針はもうすぐ夜の22時を指そうとしていた。

バイト終わり寄ったコンビニで適当に夕飯を済ませ、お風呂では全身隈なく洗った私の準備は完璧以外の何者でもない。そう、今夜は愛しの圭ちゃんが我が家にお泊まりにやってくる。



ことの始まりは数日前、母親から夫婦水入らずの旅行計画を告げられたのがきっかけだ。

「なまえちゃん」
「なに?」
「土曜日ね、ママ、パパと旅行行ってくるから」
「ふーん…泊まり?」
「そうよ、なんで?」
「ううん、楽しんできて」
「お土産いっぱい買ってくるわね」

泊まり、そう聞いた瞬間に私の頭の中で綿密な計画が練り上げられていく。土曜日、つまり翌日は日曜日で学校はないし確か圭ちゃんは今週の土日バイトは休みだと言っていた気がする。いつも私たちの邪魔してくる千冬が土日シフトに入っていると言っていたし……つまり?土日の我が家は私たちカップルの愛を育むのにちょうどいい場所であるということ。

朝から晩まで一日中圭ちゃんと致すことしか考えていない私がこの好機を逃すわけがあるまいよ。

つい最近レンタル開始されたばかりの人気映画(動物もの)が金曜日に返却されることを把握していた私は、翌日土曜日朝から晩まで入れたバイトの力を駆使し返却ボックスの中に無造作に入っていたいくつものレンタル品の中から見事ブツを探し出すことに成功した。

そして棚に戻すことなく返却、貸出作業を光の速さで行うと例の映画を観たがっていた圭ちゃんに『圭ちゃんが観たいって言ってたあの映画やっと借りれたよ!今日私の家で一緒に観ない?あ、でも20時までバイトなんだ…その後でよければどうかな?夜になっちゃうけど…』なんて魂胆見え見えなメールを送る。

すると当然彼からは『マジ!?行く行く!』そんな二つ返事が戻ってくるので『今日誰もいないから泊まってく?圭ちゃんの好きなペヤングいっぱい買い置きしてるんだ』と最後の餌を撒くのも忘れない。

『おーじゃあそうするわ』無事ペヤングで釣れた圭ちゃん。チョロすぎて可愛い好き。



「いらっしゃい圭ちゃん」
「ん、これ手土産」
「そんな、よかったのに」

22時15分、響いたインターホン。出る前に確認したカメラには長い黒髪を靡かせる大好きな彼氏が映っていて猛ダッシュで玄関へ向かいそっと扉を開ける。「よぉ」私を確認するなり片手を挙げた圭ちゃん。

時間が時間なだけにおそらく彼も自宅ですべて済ませてきたのだろう。入り込んできた外の風と共にシャンプーのにおいも漂ってきて、一瞬自身の脳内であろうことか彼を襲うというとんでもないことをしてしまったけれど現実で起こさなかった私マジで偉い。

「入って、映画いつでも観れるようにセッティングしてんの」
「お、サンキュー!」

靴を脱ぎながら告げられた、お邪魔しますの一言に圭ちゃんってば律儀…!好き!なんて心の中で妙な感動に震えながらも「どうぞー」なんて至って平然を装いリビングへと誘導する。

彼をソファへと促し、持ってきてくれた手土産――…映画のお供であろうポテチやポッキー等の菓子類をお皿に盛り飲み物を準備していれば「これもう持ってっていい?」とキッチンに現れた圭ちゃんが準備したものを全てローテーブルへと運んでくれる。優しい…好き。

「マジ楽しみ、これずっと観たかったやつでさぁ」
「ふふ、うん、知ってる」

プレイヤーに吸い込まれていく円盤、切り替わる画面。リビングのソファで二人寄り添いながら本編が始まるまでのCMをぼんやり観ていると隣でポツリ、圭ちゃんが本当に嬉しそうに呟くので私まで嬉しくなってくる。

ほのぼのと始まった映画の冒頭。可愛い動物たち満載の内容に釘付けの彼を横目で微笑ましく眺めながらも、気付けば動物と人間との間に生まれた絆や別れといった切なさに夢中になっていた私は気付かない。時々、圭ちゃんの視線が画面から私に向けられていたなんてこと。

「最高だなこれ…何回でも観れるわ…」
「ほんとそれ…」

涙目と鼻声でエンドロールを見守る私たち。目の前に置いていた箱ティッシュを交互に使いながら映画の感想を伝え合う。ようやく高揚していた気分と涙が引いてきた頃、切り替わった深夜のお笑い番組。時刻は0時を過ぎている。一日中バイトだったせいか若干の睡魔を感じつつ売れない芸人のギャグをぼーっと見ていると隣から「ねみぃの?」と圭ちゃんの声がして。

「…ううん、大丈夫」
「バイト疲れた?」
「うん、土曜日だったから…割と忙しかったんだ」
「そっか」

隣に座る彼の肩に頭を乗せれば「お疲れさん」そんな穏やかな声と共に頭をゆったり撫でられる。圭ちゃんの声が好き。圭ちゃんの手も好き。少しささくれだったその指先で頭や頬や私の手を撫でる、優しい手つきも好きだ。

撫でられた頭がふわふわする。ああ、だめだ。圭ちゃんの手、気持ち良すぎて今にも寝てしまいそう。のろり、顔を上げればこちらを見下ろしていた圭ちゃんが「なまえ、寝そうじゃん」なんて朗らかに笑うから。…だから、つい、いつもの仮面をつけ忘れてしまって。

「…ね、圭ちゃん」
「ん?」
「私、ちゅーしたい」
「え…?」

……あれ?私、今なんて言った?

目の前で固まる圭ちゃんを見上げてしばらく、自分が放った言葉を反芻して気付く。やっべ、本音出た。

今まで清楚で汚れを知らない女の子を必死で演じてきたというのに、まさかここでボロを出してしまうなんて。どうしよう…どうすればいいんだろう。

いっそこのまま本音を彼にぶつけてしまおうか。キスもセックスもしたいんですって。……いやさすがにそれはまずい、引かれるに決まってる。だけどこのまま、一生本音を言えないままでいいのかな。


つい先日、圭ちゃんとのことを相談している時にとうとう言われてしまったのだ。例のレディースの総長、幼馴染みの彼女から辛辣でけれど的を得ている一言を。

「なまえ、一生自分の気持ち隠したまんまなん?それでこの先上手くいくと思ってんの?」

ごもっとも過ぎて返す言葉もなかった。近所のファミレス、届いたパフェを前にお葬式みたいな空気を出す私に彼女は呆れたように笑ってこう続けた。「お前の彼氏、いいやつなんだろ?だったら受け止めてくれるんじゃね?」って総長らしからぬとても優しい顔をして。

…そうだよね、このままじゃダメだよね。

その時のことを思い出して勇気を振り絞る。アヤちゃん(幼馴染みのレディース総長)私…頑張る。

瞬き一つせずこちらをじっと見つめる圭ちゃんにドキドキしながらも「あのね…」言いかけて、すぐ。

「わり、俺トイレ」
「あ、はい」

すっとソファから立ち上がり、リビングを出て行った圭ちゃん。……え?待って待って嘘じゃん、このタイミングでトイレ行く?

ややあって聞こえたトイレのドアが閉まる音に虚しくも崩れ去っていく私の勇気たち。……これでも結構頑張ったんだけどな。



「おやすみ」
「うん、おやすみ」

って寝れるわけねーーーーーし!!!!

あの後ふっつーの顔してトイレから戻ってきた圭ちゃんはまるで何事もなかったかのように振る舞った。「そろそろ寝ねぇ?」私の頭を撫でるその手と優しい声にほんの少しだけ寂しくなりながらも「うん」聞き分けの良い子を演じたのはこれ以上彼を困らせたくはなかったからだ。

本当は気付いていた。圭ちゃんがそういう雰囲気になる度に誤魔化してきたこと。どうしてそうするのか理由は分からないけれど、もしかしたら彼は私とそういう行為をすることに抵抗があるのかもしれない。

時刻は深夜1時過ぎ。私の部屋、最近新しいベッドを購入した両親から譲り受けたダブルベッドに二人で入り込み就寝前の挨拶を交わすと圭ちゃんは私を一度ぎゅっと抱きしめた後で寝返りを打った。向けられた背中をじっと見つめていればしばらくして聞こえてきた規則的な寝息にじわじわ涙が浮かんでくる。

圭ちゃんとそういうことがしたい。キスもセックスも、愛を確かめ合う行為がしたい。けれど圭ちゃんは私とそんな仲にはなりたくないのかもしれない。好きだと愛を囁いて、ボディタッチ程度の触れ合いはしてもそれ以上進まないということはそういうことなのかもしれない。

「…圭ちゃんのバカ、アホ」

呑気に寝ているその背中に一発パンチをお見舞いして私も彼に背中を向けてタオルケットを手繰る。ぼろぼろ、溢れる涙は見ないふりをして静かに鼻を啜っていたら軋んだベッド。私の涙が染み込んだタオルケットは取り上げられて、頬に圭ちゃんの長い髪が落ちてくる。

「誰がバカでアホだって?」
「…起きてたの?」
「ん…なぁ、なんで泣いてんの?」
「…泣いてないよ」

こちらを覗き込もうとしてくる彼から顔を背け、タオルケットの代わりに頭の下にあった枕に顔を埋める。「なまえ」困ったような圭ちゃんの声がする。ああ、早く返事をしなきゃ。なぁに?って笑顔で振り向かなきゃ。

……でも、出来ない。今は出来ないよ。

「なまえ…ごめん」

その謝罪が何に対してなのか、すぐに分かった。ああ、そっか。3ヶ月…たった3ヶ月しかこの関係を築けなかったけど私、圭ちゃんの彼女でいられて嬉しかった。

「…分かった、困らせてごめんね」

掠れて可愛くない声だった。私は全然ダメだった。どんなに見た目を変えたって、取り繕ったって、清楚でも可愛く笑うこともできない私じゃ彼の…圭ちゃんの一番にはなり得なかったんだ。

抑えようとしても抑えられない嗚咽が漏れた時、強く身体が引き寄せられた。驚いて抱いていた枕を落としてしまった私は何かを耐えているような、険しい顔をした圭ちゃんの胸にそっと頭を押し付けられる。

「……圭、ちゃん?」
「……言っとくけど俺、そんな鈍くねーし。ずっっっと、めっっっちゃ我慢してたんだわ」
「え…?」
「ドラケンが…ああ、ダチが。そいつがさ、大事にしてーんなら付き合って半年は手ェ出すなって言うからよ…それ守ってただけで」
「は、半年は…長いね」
「だろ?同じ17の男だぜそいつ。マジ頭おかしくね?」
「いや、うん…まぁ」

つらつらとこれまでの不満を述べ続ける圭ちゃんはとても活き活きして見えた。そんな彼に圧倒されつつも返事をしていればさっきから聞こえていた心臓の音が少しだけ早くなる。

「…俺だって、その、なまえとしてぇし」

何を、とは言わなかった圭ちゃん。けれど照れ臭そうにもごもごと口籠もったそれが何を指しているのかくらいは分かるから。

「…圭ちゃんは、私としたくないのかと思ってたよ」
「ん、そんな風に思わせてごめん」
「ねぇ、私のこと好き?」
「当たり前だろ」

涙で濡れたひどい顔で見上げた先、今までになく熱いものを瞳に宿した圭ちゃんが私の頬に手を滑らせる。渇いてかさついた薄い唇は一度瞼に触れると「なまえ」私の名前をそっと呼ぶ。そして初めて彼に自身のそれを奪われる。時間にすれば数秒とない、唇同士を押し付けるだけの短いキスだった。

「…圭ちゃん」
「…ん」
「もっとして」

そう強請れば初めて見る、雄の顔をした彼が私の身体をやんわりベッドに倒し今度は噛み付くようなキスをする。無遠慮に入り込んでくる圭ちゃんの舌はそれでいて優しく、ねっとりと私の口内を侵していく。キスが深くなるにつれ熱を上げていく身体、疼き始めた下半身に膝を擦り合わせ耐えているとそれに気付いたらしい圭ちゃんが妖しく笑う。

「っん…」
「なまえ、いい?」
「うん…圭ちゃん、いいよ」

そっと服の中に忍び込んできた熱い手が私の下着に触れる。…ああ、ようやくだ。ようやくこの時がきた。隊長、私の身体、いつでもいけます。愛撫なんてなくてもこれ、キスだけで十分すぎるくらい潤ってるんで。驚きの速さで準備完了しちゃってるんで。

この間虎くんには即尺とかありえんバカがって言ったけど今ならなんでもアリだから。とにかく早く圭ちゃんの突っ込んで私の欲求不満を解消してくれ…なんてあまりにも品のないことを考えたせいだろうか。

「っん!?…ごめん圭ちゃん、ちょっとトイレ」
「…え?」

急にやってきた下腹部痛、それから違和感と倦怠感。完璧に忘れていた。そういえばそろそろ、くる頃だった。

「圭ちゃんごめん…生理になっちゃった」
「セイリ…?」
「その、一週間は…ごめん」

トイレから戻ってきた私をベッドの上で出迎えた圭ちゃんはその言葉に対し呆然として「ア、ウン」心ここにあらずといった表情で返事をした。…ほんとごめん。でも多分私も同じような顔をしてたと思う。

せっかくその気にさせたというのに神様はなんて意地悪なんだろう。一生恨むかんな。

ムラムラを抱えつつ「…寝るか」「…そうだね」二人して大人しく布団に入れば思い出したように鈍い痛みが下腹部を襲う。

「いたた」
「腹いてぇの?さする?」
「ふふ、うん、ありがと」

ゆっくり、優しい手から伝わる温かさがお腹から全身へじんわりしみていく。うとうと、遠ざかっていた睡魔が舞い戻り気付けば半分夢の世界へと旅立っていた私の額に圭ちゃんの唇が寄せられる。

「おやすみ、なまえ」

それはとても優しい声だった。いっそ泣きたくなるほどに優しくて温かい、大好きな声だった。

圭ちゃん、私…セックスしてないけど幸せだよ。


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