T卍R 場地中編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



彼氏のことが大好きすぎる



ああ、なんて爽やかな朝だろう。SHRまでの数分、自席で過ごしながらしみじみ思う私の目線の先にあるのは画面の向こう側。野良猫に餌をやりながら溌剌と笑う圭ちゃんの横顔(待ち受け)である。

「…ひん、最高」

だめだ、こんなもの見たら余計圭ちゃんに会いたくなってきた。待ち受けだから毎日見てるし、本物とはさっきクラスの前で別れたばかりだけど。それでも頭に浮かぶのは夢中になっている彼氏のことで、圭ちゃん補給をせねばと画面ロックを解除し流れるように画像フォルダを開いた私はそこに広がるオアシスについ抑えきれずに感嘆の声を上げた。

撮られていることに気付くと決まって笑顔を向けてくれる最高にかっこよくて可愛い私の彼氏、場地圭介。おそらくその人で半分以上埋め尽くされているだろう自身の至幸のフォルダを上から順に一枚ずつ、舐めるように見つめていれば隣から突然悪意の篭った声が飛んでくる。

「うわ、すっげー顔…お前また場地さんの写真見てんの?」

図々しくも当たり前の顔をしてそこに座る隣の男を横目で見やった後「別にいいでしょ」自分のものとはとても思えないような低い声で冷たく返せば奴は何を思ったか。私のスマホを覗き込んで「え、その場地さんめっちゃカッケーじゃん…なぁそれ俺にもちょーだい」なんて突然強請ってくるので、こいつ…藻だらけで有名な校内の池にでも沈めたろか?と睨みを効かせる。

「出たな、圭ちゃんのフン千冬」
「は?何そのただの悪口」

松野千冬。つい先日、金魚のフン千冬と命名したばかりの私の敵(ライバル)である。

「あげるわけないし、わ た し の 圭ちゃんの写真だし」
「ふーん?そんなこと言っていいんだ?お前にとっても悪くない条件出そうと思ったんだけど」
「…聞くだけ聞こうじゃない」
「見て。これこの間撮った、お れ の 場地さんの写真」
「ぐぅ…何それ最高欲しいっ!」
「だろ?な、物々交換しよーぜ」
「…今回だけだからね」

悔しさに唇を噛みつつ、待ち受けにしていた笑顔の圭ちゃんを隣の男に送れば勝ち誇ったように鼻で笑った千冬から届いた色っぽすぎる圭ちゃんの写真。お風呂上がりなのか僅かに濡れた前髪をちょんまげ風に結び、タンクトップ姿で某焼きそばを食べる彼の姿をじっと見つめて。

「なによ…こんなん…抱いてほしさしかないじゃない」
「うわきったねーな、よだれ出すな痴女」
「うっさいな、千冬には理解出来ないでしょうよ私の滾るこの気持ちは」
「うん興味もねーし」
「あ?表でろコラ。いつもいつも圭ちゃんのこと独占しやがって、今日という今日は許さんからな」
「あ?上等だわコラ。こっちは伊達に5年も一緒にいねーんだわ」

バチバチ、目が合っただけでお互いの間に火花が飛び散るのは別に今に始まったことではない。二年連続同じクラス、つい最近行われた席替えで苦しくも隣の席になったこの男とは常日頃より圭ちゃんの取り合いで戦闘モードである。

元ヤン(特大ブーメラン)千冬とのメンチの切り合いを終わらせたのはSHR開始の鐘の音と共にやって来た担任だった。「お前らまた喧嘩してんの?」向けられた呆れ顔にフンッとお互いそっぽを向いて。

こいつのことは嫌いだけど今回ばかりは千冬…私たち、珍しく気が合うと思うんだ。

「ねぇ」
「あん?」
「早く席替えしないかな」
「それな」



待ちに待ったお昼休み。お弁当を持って向かうのは圭ちゃんのクラス、ではない。そう、今日圭ちゃんはどうやら千冬との先約(デフォ)があるらしく奴と二人で食べると朝の登校時に申し訳なさそうに言ってきたのである。

また千冬かよ…まぁいい帰りは私と二人だしな?と般若顔になりそうなところを堪え「いいよ」なんて優しく微笑んだ私を誰か褒めてほしい。

そんなわけで到着した上級生のクラス。

「虎くーん、ご飯一緒食べよー」
「ん」

みんなお昼を食べに出払っているのか人のまばらな教室の入り口で声を掛けると携帯の画面から私へ視線を移した虎くん。どうやら割と高頻度で誘うせいか私がやって来るのを待っていたらしい彼は鞄の中からお弁当箱を取り出し「屋上」短く行き先を告げると怠そうに椅子から立ち上がった。



「ってことがあってさ、早く席替えしてほしいわほんと…ていうか見てこれ、この圭ちゃんやばくない?最高じゃない?」
「ふーん普通。つか、なんだかんだ仲良いよなお前ら」
「は?誰と誰が」
「千冬となまえ」
「やめてよ虫唾が走る」
「虫唾」

屋上でご飯を食べつつ今朝の出来事を話して聞かせれば、いつものことだと言いたげな顔をした虎くんは卵焼きを口に運びながら「同族嫌悪ってやつか」と難しい言葉を投げてくるので意味もよく分からないのに「そう」深く真剣な顔を貼り付けて頷いてみる。しかし彼には全部お見通しなようで「なまえ、意味分かってねーだろ」淡々と言われた。はいはいどうせ馬鹿ですよ。意味分からなくても死なないもん大丈夫だもん。

お弁当をすべて平らげた後は午後の授業が始まるまでのんびりと過ごす。三分の一の確率ではあるが圭ちゃんとお昼を一緒する時は大抵中庭のベンチなので、誰の目もない屋上でこうして大の字になれるのは虎くん様様である。

給水塔の側。影が出来る端っこがいつもの定位置。グラウンドが一望出来るそこでフェンスに身を預け、さっきからずっと携帯ばかり覗いている虎くんは安定の携帯依存症だ。おそらくあのメンヘラ彼女ばりのメールを誰かに送っているのだろうがよくみんな相手にすると思う。

「メール、あのセフレの子?」
「いや、また別の子」
「…ふーん」
「なんか悪いな、俺ばっか発散しちゃって」
「うわウッッザ」

顔は良いけど性格は悪い我が従兄弟さまは「見て、今回のセフレめっちゃ可愛いんだわ。ハメ撮りした」などと自身のブツまで少し写り込んでいるえげつないものを私の眼下に晒す。……いやあの、こんなセンシティブなもの普通身内に見せる?

「やめてよえぐい」
「ちなこれ俺のマグナム最高潮の時」
「ばかじゃないの」

いくら私が最強に欲求不満だからといって他人のセックスを覗き見る趣味はない。それも血の繋がった人間のものなんて尚更ご遠慮願いたい。あれは現実味のない作られた世界だから楽しいのだ。

「虎くんさぁ、もしかしてAVが全てとか思ってないよね?あんなん嘘ばっかだからね?たまにあるあれ、即尺とか頭打ってんじゃないのって感じだからまずは丁寧な愛撫だから」
「わーかってるわそんなん、ちゃんとやってるし」

不満そうに唇を尖らせた虎くんに「ただでさえ友達いないんだからセフレ、大事にしなよ」笑みを浮かべ肩を叩けば「これみよがしに仕返しすんのやめてくんない」と涙目で言われた。ウソウソごめんて。虎くんには圭ちゃんと千冬がいんじゃん。ねっ?泣かないで?



長い一日の終わりを告げる鐘が鳴り響いてしばらく、私は帰る準備を整えて圭ちゃんが来るのを待っていた。邪魔者千冬、あ違ったフン千冬は「うわ今日バイト場地さんと一緒じゃねーんかよつまんねー」なんて大きな独り言を零しながらついさっき帰って行ったし虎くんは昼間のセフレとあはーんでうふーんな時間を過ごすらしい。くそが。

昼休み終わり「羨ましいか?羨ましいだろ?」と仕返しの仕返しをしてきた性格ドブ野郎。奴に中指を立ててやれば「まじ性格ゴミ」などとほざきやがるのでそっくりそのままお返しした。私たちは仲が良い。

圭ちゃんがいないとつい粗暴な口調になってしまいがちではあるが、元来私という人間はこんな感じである。というのも彼と出会った頃、つまり3年前までは私もゴリゴリの不良であった。

女だらけのチーム。夜な夜なバイクを乗り回し、暴走行為と喧嘩ばかりしていたレディース時代。滅多に家にも帰らず荒んだ中学生活を送っていたある日のことだ。珍しく行った学校帰り、たまたま出会った従兄弟の虎くんに「こいつ俺のダチの場地」彼を紹介されたことが私の人生を変えるきっかけとなった。

そう、恋である。

「どーも俺、場地圭介。なまえちゃんっての?髪すっげー色してんなぁ、傷まねぇ?」

人好きのする笑顔で私を射抜いた彼を見た途端、一瞬で落ちた。そして急激な羞恥が襲ったのだ。無茶な脱色を繰り返し傷みきった自身の髪に比べ目の前の男は黒のさらさらヘアーを風に靡かせていた。枝毛なんて一本もないであろう、うるっうるでつやっつやだったのだ。私のキューティクルマジ仕事しろ。

その後なんとかして虎くんから場地圭介の好みのタイプを聞き出すことに成功したのはいいけれど、清楚で可愛く笑うコ、と返答がきた時は全私が死んだ。いや真逆じゃねーーーーか!!!と。

そうとくれば次に私がすべきことはこれしかない。制裁覚悟で、好きな人を振り向かせるためにチームを抜けたい。幼馴染みで総長でもある彼女に意を決して告げればなんともあっさり卒業を認めてくれ、気の良い仲間たちからは「絶対モノにしろよ」とめちゃくちゃに背中を押された。彼女らとは今でもたまにご飯に行ったり遊んだりする。閑話休題。

卒業後から私は努力を惜しまなかった。彼のタイプに少しでも近付く為、果ては彼女の座を手に入れる為ひたすら自分を磨きまくった。そうして2年が過ぎ、完璧なキューティクルと卵肌を手に入れ、彼の望む清楚な美少女に仕上がった頃合いを見て猛烈なアタックを開始した。

久しぶりに会った私を見た圭ちゃんの第一声は「なまえちゃん?まじ?めっちゃ可愛くなったじゃん」である。頑張った私マジ頑張った…!

2年間の成果として見た目だけでなく仕草なども圭ちゃんの前でだけは可憐な女の子でいられるようになった私はそれはもう猛烈にアタックを繰り返し、約1年後、見事彼女の座をゲットするに至った。ちなみに告白は圭ちゃんからでした、以上。

約3年にも及ぶ努力が実り、幸せ絶頂な私を迎えに大好きな彼がやって来る。

「なまえ、帰ろ」
「うん!」

出会った頃より一歩近付いた呼び方。向けられる柔い瞳に、当たり前のように差し出された大きな手を取って。

「ねぇ、帰り寄り道してこうよ」
「おーどこ行く?」
「いつものとこ」
「りょーかい」

離れないように指を絡め、身を寄せ合い歩く。「いるかなぁ」笑顔を向けた私に「いんだろ、エサ買ってこうぜ」繋がれた手を大きく降り歯を見せて無邪気に笑ったかっこよくて可愛い自慢の彼氏に今日も私はムラムラします。


戻る