T卍R 場地中編 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



私の彼氏を紹介します



※全体的に下品 夢主の口も頭も悪い
※高校生時間軸




私は今無性に腹が立っている。誰にって?そんなの一人しかいないじゃないか。

「ねぇ虎くん聞いてよ」
「なに」
「圭ちゃんとのデート、千冬が毎回邪魔してきてウザいの」
「ふーん」
「ね、だから一生のお願い。あいつのこと潰してきて?そしたらさ、圭ちゃん…私のことだけ見てくれるよね?」
「うっわ…えぐ」

そう言ってまるで汚物でも見るかのような視線を投げて寄越してくるこの男――…虎くんこと羽宮一虎は私、羽宮なまえの一つ上の従兄弟である。

片耳で揺れる不思議な形のピアスを鳴らし「病んでんな」淡々と紡がれたその言葉に一つだけ言いたい。ああ病んでるよ。フラストレーション溜まりまくりだよこっちは。

圭ちゃんの金魚のフン、松野千冬。あいつまじ許すまじ。



虎くんの紹介で圭ちゃんと知り合ってそろそろ3年。一目見た瞬間から完落ちしてしまった私はそれはもう並々ならぬ努力を重ね彼にアタックしまくった。その甲斐あってか最近ようやく想いが実り、所謂カレカノになれたというのに貴重な二人の時間はフン千冬(憎しみを込めてそう呼びたい)によって事あるごとに邪魔されている。

圭ちゃんも圭ちゃんだ。先に約束してたのは私なのに「ワリ、千冬に誘われたから走ってくるわ」なんて平気でドタキャンするし、付き合って3ヶ月経つのに未だにキスすらしてくれないし。

いや実はこの間もう辛抱たまらんってなってオススメされた絶対キスできるリップなるものを即買い、厚塗りして圭ちゃんと会ったのね?そしたらたまたまこう、そういう雰囲気になったわけ。あ、これ絶対くるわって思って目瞑ったんだけど普通にスルーされたしなんなら「なまえ口どした?なんか汚れてね?」ってティッシュで唇拭かれたからね。

確かにその時一緒にファ◯チキ食べたけど。これファ◯チキの油じゃねーーーーし、リップだし。拭くなしってなったよね。

「うわキッッッツ…」
「でしょ?分かってくれる?」
「ちげーよ身内のそーゆー話聞くのがキツいっつってんの」
「ねぇ虎くん…圭ちゃん、どうやったらキスしてくれると思う?ていうかその先はいつくる?私さ、もう毎日ムラムラして欲求不満でどうにかなりそうなんだけど爆発しそうなんだけどいろんな意味で」
「あれ?俺の話聞いてる?だから知らねーって…つかそんなん直接場地に言えばいいじゃん」
「言えないよ…圭ちゃんの前では私、純真無垢なカマトトぶってるから…セックスどころかキスのキの字も出せないんだよマジバカ…可哀想でしょ慰めて…」
「ふーんへーあっそー」

面倒くさくなったのか相槌すらまともに返してくれなくなったクソ従兄弟。まぁいい、私はこいつではなく圭ちゃんに慰められたいのだ色んな意味で。ただし話だけは聞いてくれとまったく視線の合わない彼へとにじり寄り、諦めず溜めに溜めた欲求について語り続ける。

「ねぇ、高校生だよ?高校生って精力無限じゃないの?私、いつ圭ちゃんがムラッときてもいいようにムダ毛の手入れは欠かさないし下着だって毎日可愛いのつけてるし、なんならキス出来るリップと一緒に絶対えっち出来る香水まで手に入れて会う度つけてんのにぜんっっぜん、微塵も、効果ないよあれ詐欺だよ…絶対出来るって書いてあったのに…4000円もしたのに…」
「…つかさ」

項垂れた私の肩に腕を乗せ窺うように顔を覗きこんできた虎くん。ようやく慰める気になったのかふっと笑みをたたえた我が従兄弟を見つめ返し、こいつ顔だけはいいからな私に似て…いやでも顔の良さなら誰も圭ちゃんには叶わないか。私の彼氏最高にかっこいいからな…あーほんと抱いて欲しい。そんな邪な考えに囚われていると。

「場地、ほんと女見る目ねーよなぁ…カワイソ」
「それ虎くんの歴代彼女に声を大にして言いたい台詞第一位だよ」
「あ?」
「は?」

…うん、ごめんやっぱやめよ仲良くしよ?お互い罵り合ったって悲しくなるだけだからサ。



なんだかんだ言いながらも私の鬱憤晴らし(という名の散歩)に付き合ってくれた虎くんは途中立ち寄った公園の小さなブランコに腰掛けると適度な揺れに身を任せ徐に携帯電話を取り出した。おそらく今手をつけている女の子と連絡でも取っているのだろうと隣のブランコに座り浅く漕いでいると突然「来るって」と何故かそれだけ言い放つのでさすがに意図を理解することは出来ず首を傾げる。

「来るってなにが?」
「場地」
「は?」
「ほら」

そう言って虎くんが見せてきたのはメール画面。差出人は場地圭介。確かに本文には短く“いく”と綴られているけれども。

「いやこれだけじゃ意味分かんないんだけど」
「なまえが千冬に場地取られたって泣いてうぜーから取りに来いっつった」
「え?ちょ、やだやめてよ…!ていうか取りに来いって何?私、物じゃないんだけど」

一応これでも圭ちゃんの前では心の広い理解あるオンナ演じてるんだからね。あと別に泣いてないから話盛らないで。

そう思いながらも慌てて彼の手の中の電子機器を奪い取る。送信履歴を遡れば確かに『なまえうざい』『千冬に場地取られたって泣いてる』『迎えきて』『聞いてる?』『ねぇ』『返事して』『おい』『10秒以内に返事しろ』『じゅーう』と秒間隔でメールを飛ばしていた。まるでメンヘラ彼女のような執拗さに寒気がする。私だってこんなに連続で送ったことないよ…我が従兄弟ながら怖すぎる。

「なぁ、携帯返して」
「ねぇいつもこんなメール圭ちゃんに送ってんの?怖いんだけど」
「は?どこが」

フツーだろ?私の手から自身の携帯電話を奪った虎くんが「あ、セフレからメールきた」なんて欲求不満の塊である私を前にして勝ち誇った顔で宣うので「虎くん、潰すよ?」と圭ちゃんの前では絶対に出せない地を這うようなひっくい声が出てしまうのだった。



圭ちゃんから“いく”と連絡が入って数十分。虎くんが余計なメールを入れたせいで私は泣いた跡を演出する為に何度も欠伸を繰り返したり、背中をつねってもらい本当に涙を流したりとショックを受け憔悴した彼女の表現に余念がなかった。つか、つねられた背中がくそほど痛いんだけど…これ絶対痕になってるやつじゃん。虎くん容赦ねーーーわマジで嫌い。

ヒリヒリ痛む背中に再び涙が浮んだ時、ようやく姿を見せた待ち人は愛車と共に排気音を轟かせ目の前で停車すると颯爽と運転席から降りてくる。ああ今日も圭ちゃんはかっこいい好き。

「わりー待ったか?」

そう言った彼にようやくかという顔をした虎くんが「おせーよ」ぴしゃりと不満をぶつける。…いやちょっと待ってほしい。お前ごときが圭ちゃんに不満を言うとは何事なん?たとえ世界中が許したとしても私が許さんけど?

じろり、横目で虎くんを睨めつければ至極面倒くさそうな溜め息と「じゃ、俺帰るわ」ひらり挙がった片手。携帯の画面を見ながらさっさと背を向け去って行く彼に短く手を振った。

おそらく奴は今から例のセフレの元に向かうんだろう。まったくけしからん羨ましい…いやそうではない。

私は確かに欲求不満だが虎くんみたいにただ単にセックスを楽しみたいわけでは決してない。好きな人と…圭ちゃんとそういうことがしたいだけだ。いやそりゃ出来ることなら楽しみたいですが?

「…なまえ、ごめんな?」
「…ん」

そっと寄り添うみたいに隣へとやって来て、ほんの少しバツの悪そうな顔で私を覗き込んだ圭ちゃん。さっきまでもやもやしていた筈の気持ちもその顔を見ると不思議と晴れてしまうのだから彼は本当に凄い人だと思う。が、幾度に渡るドタキャンに対してこれでも私は怒っている。態度には出さないけど。

こくり、頷いて目線を下へ落とすと「泣いたん?」赤くなった目元を指の腹で撫でながら気持ちを推し量るように問うてくるので「うん」じっと彼の目を見つめもう一度頷いてみせる。

圭ちゃんは目が合うとほっとしたように、けれどどこか面白くなさそうに「俺以外の男の前で?」そう言ってまるでおもちゃを取られて拗ねる子どもみたいな顔をした。こう見えて案外嫉妬深いのだ、私の彼氏は。

そして彼がそうであることを分かっていて尚、同じことを繰り返してしまう私は相当に性格が悪い。だって、ヤキモチ妬く圭ちゃん可愛いんだもん。

「えー?虎くんだよ?」
「一虎でもだめ」

わざとらしく首を傾げた私の肩に腕を回し「なまえは俺のだろ?な?」なんてわざわざ確認を取ってくるところとか。
 
「んー分かった…じゃあ他の人の前で泣くの出来るだけ我慢するね」
「……ん」

絶対納得していないのにそれ以上は詰めて言えないらしい、時々酷く弱気になるところとか。

「ふふ、嘘だよ、圭ちゃんの前以外では泣かない。約束する」
「おう、絶対だかんな?」

すっと差し出された小指に自身のそれを重ねればきゅっと優しく力が入る。穏やかな顔で繋がれたそれを見つめていた圭ちゃんはそっと私へ視線を移すと蕩けるような微笑みを浮かべ頬に手を添えるので、もうこれキスする流れでしかなくね?と欲望だらけの脳内が自然と私の瞼を引き下ろしたのだが。

「ん?どした?なまえ、眠いん?」

よしよしとまるで動物にするかのように私の頬を両手で包み撫でるのでこれは…まさか彼女ではなくペットと思われている…?

まったく、この男は彼女がこんなにも欲望だらけだというのにキス待ちにさえ気付かないとは…鈍いのかわざとなのか分からないけどそういう空気読めないところも大好きです。

「んー…うん、ちょっとだけ眠いかな」

確かに少し寝不足気味ではある。そう、昨日は遅くまで布団の中で如何にして圭ちゃんといたすか、いたすためにはどうすればいいか…頭を悩ませ気付いたら朝の3時を過ぎていた。

…さすがの私も驚いたよね。

なんかここまでくると、もしかして私って魅力ないのかなって思えてくる。でも圭ちゃん、会う度に好きだって可愛いって言ってくれるし家で過ごす時は基本くっついてるし、たまにお腹とか足とか普通に触ってくるしもうこれワンチャン前戯じゃね?って。…え?違う?あ、そう。

「じゃあ今から俺ん家くる?」
「え…いいの?」
「おう、今日オフクロ帰ってくんのおせーんだ。だから」

これは…これは――…!まさか、散々焦らしておいてここでくるの?セックスのお誘い…っ!!!

「好きなだけ寝てっていいぜ、布団貸してやるから」

なわけないですよねーー!うんうん、分かってた!

「…嬉しい、じゃあ今日はいっぱい圭ちゃんといられるね」
「ん、俺も嬉しい」

クッソーーーーー!!!!なーにが、俺も嬉しい。だよ!!!!可愛い顔しやがって…!!!!好きだーーーーー!!!!

「あーなんか俺、めっちゃお前のこと好きだわ」

荒れ狂う私の脳内なんて露知らず、照れ臭そうな笑顔と共にべたべたに甘い言葉を贈られたら…頭から爪先まですっぽり被り物をしている私は上品な微笑みと共にこう言うしかないじゃないか。

「うん…私も圭ちゃんのこと大好きだよ」

抱こ?もういっそここで私のこと抱こ?

億分の一にまで抑えたテンションと喉元まで出かかったあられもない本音を今日もひた隠しにして生きていく。私、羽宮なまえ17歳。いい加減やりたいです。


戻る