T卍R 場地中編 | ナノ
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彼女のことが大好きすぎる



※場地サイド
※ふわっとドラエマ、マイにも女の影あり



思い返せばそれは17年間、今まで一度も我慢なんてものをした覚えのない自由奔放な男を唯一抑える魔法の言葉だったのかもしれない。


「…は?ドラケン、それマジで言ってんの?」

場地圭介、17歳。やりたい盛りの一男子高校生。最近できた彼女と付き合って3ヶ月が経ちました。3ヶ月……いやぁ、長かったなぁ。

「マジだけど、なに?」

何がとは言わないが、これでようやく使い込まれた右手から本物の恋人と…!そう息巻いて昔馴染みの彼に報告がてら自身の愛機のメンテナンスを頼みにきたら、そこでまさかの言葉をいただき今に至る。

意図せず手から滑り落ちていったバイクの鍵。唖然と自身を見下ろす俺に訝しげな目を向けて「落ちたぞ」そう進言してくる辮髪の男はたった今自分が漏らしたその言葉がとれほどの破壊力を持つか分かっていないらしい。

黙々と俺の愛機のメンテナンスを進めながら「あー残り3ヶ月?ヨユーじゃん」などとふざけたことを抜かすので、つい勢いに任せて目の前の男と同じ目線にまで腰を落とす。

「おま、お前が付き合って3ヶ月までは絶対手ェ出すなって言うから…!」
「ウン、だってお前が大事にしてーんだけどどうしたらいい?って言うから」

こいつ…こいつ、マジどうしてやろうか。

もうこの際白状してしまうが、俺は彼女――…羽宮なまえと付き合ってから今日までの3ヶ月、それこそ血の滲むような思いで身体の関係を持つことを耐えてきた。

なんならキスだってしていない。いや本当はめちゃくちゃしたい。したいけど、一度してしまえば歯止めが効かなくなるのでは…と自身の衝動を恐れただひたすら耐えて耐えて耐え忍んできたのだ。時には彼女から求めるような目を向けられることもあったし、それに応えたくて堪らない時もあったけど、全部全部誤魔化して我慢してきた。

それもこれも全てはドラケンから言われた、付き合って3ヶ月は手を出すなルールを遵守したからだ。

だというのに…!

「3ヶ月の次は半年ってなんだよ!?ふざけてんの!?」
「まー聞けよ場地」

そう、言うに事欠いてこの男。「3ヶ月?おーよく我慢したなすげーじゃん。なら半年まであと3ヶ月だなー頑張れー」と突然意味不明な言葉を投げつけてきたのである。ハ、ハントシ?ガンバレトハ???

「今時さぁ、ヨメ大事にしてーからって理由で手ェ出すの我慢出来る男なんてそういねーよ?」
「あっそう」
「お前はそれが出来る男だ」
「んで?」
「だから頑張れ、耐えろ」
「いや意味分からんし無理!」
「無理じゃねーよ、お前なら出来る」
「励ますなやめろ!」

もう何が何だか分からない。ドラケンの言うこと全てが理解出来ない。ぐしゃぐしゃ頭を掻く俺を何故か楽しそうに見やる元凶。お前ほんとなんなの。嫌がらせか?嫌がらせなのか?

「言っとくけど俺だってずっと我慢してたんだぜ?手出すまでに3年だぞ3年。仙人レベルだっつの」
「あ?だからってお前…つか仮にもアニキがいる前でそーゆーこと言うんじゃねーよ」

なぁ、マイキー。カウンターの奥、書類と睨めっこをしていた幼馴染みに声を掛ければ心底面倒だと言いたげな目をしたその男が「別にどーでもいい」と低い声で吐き捨てた。うっわ機嫌悪。

「なにあいつ、どしたの」
「あー昨日ヨメと喧嘩したんだと」
「ふーん?なんで」
「あいつソース派だったんだよ!なぁ、目玉焼きには醤油だよなケンチン!」
「うわ聞こえてた」

触らぬマイキーに祟りなしと、声を潜めていたというのに無駄だったらしい。つか喧嘩の原因くだらねー。どっちでもいいわ俺からしたら。ソースでも醤油でも好きな方かけたらいいじゃん。

そう思ったのはどうやら俺だけではなかったようで呆れたような顔をして「そんくらいで喧嘩すんなよ」と隣の男も窘めてはいたが唯我独尊マイキーがその言葉を受け入れる筈もなく。

その後もぎゃーぎゃーと自身のこだわりを語るマイキーにげんなりしつつ、これ以上面倒くさくなる前にとメンテナンスを早々に切り上げさせて奴らの店を出る。あんなんと一緒に仕事するとかぜってぇ無理だわ。やっぱドラケンはすげーな。半年は意味分からんけど。



それからしばらく経ったある夜のこと。ずっと観たかった動物映画を借りてくれたというなまえに誘われ、ほいほい足を踏み入れた二人しかいない彼女の家。

ここには何度か遊びに来たことはあるというのに時間がそうさせるのか、それとも自分たち以外誰もいないという妙な背徳感がそうさせるのか。流れていた曲が止まり一瞬音が消えた時。その場を支配するのがお互いの息遣いだけになった時。それから時々触れる柔らかな素肌に一人どぎまぎする俺…くそだせぇな。

あんなに観るのを楽しみにしていた映画なのに、気付いたらなまえの横顔にばかり目がいった。少し潤んだ目で真剣に観てるの最高に可愛い…はぁ…やべぇ、めっちゃ好き。

そうこうしているうちに流れ始めたエンドロール。重要なシーンはしっかりと観ていたのでもれなく自身も涙目だった。これは良作すぎる。

しばらくそのままお互いに鼻を鳴らしながら映画の感想を伝え合っていると画面は深夜のお笑い番組へと切り替わる。あ、もう0時越えてんじゃん。壁掛け時計を確認してそれから隣へ視線をやれば重そうな瞼をなんとかこじ開けようと瞬きを繰り返すなまえがいて。

「ねみぃの?」

顔を覗き込めばとろんとした瞳で俺を見上げたなまえ。目が合うとゆるゆる微笑んで「…ううん、大丈夫」首を振った彼女は今にも夢の世界へと旅立ってしまいそうだ。

「バイト疲れた?」
「うん、土曜日だったから…割と忙しかったんだ」

こてん、俺の肩に頭を乗せた彼女からとても甘い香りがした。これは…シャンプーの匂いだろうか。

指通りの良い、俺よりも長いその髪を梳いてやれば甘えるようにすり寄ってくるなまえが好きだ。圭ちゃん、俺を呼ぶ柔らかな声も目が合うと嬉しそうに緩む表情も。本当は口が悪いのに俺の前では何故か大人しい女子であろうとするところも…どんななまえも、なまえのすべてが大好きだから。

…あーシてぇなぁ。

ムラムラ、落ち着かない気分になりながらもいやいやさすがに今日じゃねーだろと冷静な俺が言う。何故って、せっかくここまで耐えたわけだし今諦めたら試合終了だし…は?何言ってんだ俺?大丈夫か俺?いや大丈夫じゃねーわ…助けてアンザイセンセイ。

悶々、沸々としながらも心の中で必死に葛藤していたら。

「…ね、圭ちゃん」
「ん?」
「私、ちゅーしたい」
「え…?」

蕩けた声でそう乞われ、俺の思考回路はショートした。

まっっ…て……?え?今なんつった?ちゅーしたい?え?ちょ、まままままま…まじ?え?俺もしたいけどちょまっ……あっ勃っ!?これで!?やべ!うわどうしよやべっ!

だらだら、冷や汗を流しながら最善の方法を考えた結果、思い付いたのは古典的な方法だった。

「わり、俺トイレ」

そう言う前になまえが何か言いかけた気がしたけれど、ごめん…それよりもコレをどうにかさせてくれ。



トイレで精神統一を図り、見事勃ちあがったブツを治めることに成功した俺は前後のやり取りなんてすっかり頭から消し去り足取り軽くリビングへと戻った。

ソファに沈みぼんやりとした顔で俺の帰りを待っていたなまえにそろそろ寝ようと提案したのは、バイト終わりで疲れているだろう彼女を気遣ってのことだった。

なまえの部屋。一緒のベッドに潜り込み、普段もする軽いハグを一度してから不自然にならないように寝返りを装い背を向ける。あっっぶねぇ…危うく当てるとこだったわ焦った。なんで俺すぐ勃つんかな…欲求不満か?まぁそうか。

つか今更だけどこれ、この状況で寝れるわけなくね…?ムラムラしかしないけど何これ…修行?

まぁ運良く明日は日曜日だし、特に何の予定もねーから寝れなくてもなんとかなるけど…あーどうすっかな。とりあえず羊の数でも数えてみっか。

頭の中に思い浮かべた羊が何故か酷くマイキーに似ていて、やべ羊マイキーじゃんうける…なんて自身の想像力に吹き出しそうになるのを抑えていたら。

「…圭ちゃんのバカ、アホ」

そんな声と共に背中に押しつけられた拳。

えっ?なんで?確かに俺バカだけどさぁ…

急にディスられた意味が分からず戸惑いながら振り向けば、なまえはこちらに背を向けタオルケットに顔を埋めていた。小さく震える肩と聞こえた鼻を啜る音にサーっと血の気が引いていく。やべぇ泣かした…!

慌てて起き上がり、そっと近付き声を掛ければなまえはぴくりと反応した。腕に抱えていたタオルケットを引くと案外簡単にすっぽ抜けたそれを後ろに放る。どうして泣いているのか問うても「泣いてない」と言い張る彼女は今度は頭の下にあった枕をぎゅっと抱き締めた。

「なまえ」

本当はずっと気付いていた。なまえが恋人らしい触れ合いを望んでたこと。なのに俺はそんな彼女の気持ちよりも、大事にしたいからって自分の気持ちばかり優先して…ああ、最低だなぁ、俺。

「なまえ…ごめん」

二人のことなのに自分のことばっかりで、ひとりよがりで、ごめん。そんな気持ちを込めた謝罪だったのに返ってきたのは「…分かった、困らせてごめんね」なんて苦しそうな声と余計酷くなった泣き声で。

ああ、違う。違うのに。そうじゃないのに。

うまく伝わらないもどかしさと泣かせてしまっている罪悪感とが綯い交ぜになる。気付いたらその腕を引いていた俺は一瞬、涙で濡れた彼女の瞳の中に余裕のない顔をした自分が映り込んだ気がして無性に泣きたくなった。あーほんと、だっせぇなぁ。

「……圭、ちゃん?」
「……言っとくけど俺、そんな鈍くねーし。ずっっっと、めっっっちゃ我慢してたんだわ」
「え…?」

そこからは息を吐くようにつらつらと思っていることが口から漏れていった。言ってしまえば随分とスッキリするもので、けれど燻る想いだけは一段と燃え上がって。俺をじっと見上げる扇情的な表情に触発されて、なまえと初めてのキスをした。

じんわり、胸に広がる温かさと下半身に集まる熱に冒されて頭がくらくらする。貪るように唇を奪ってそれから――…都合良く先に進もうとしたものの、そうそう簡単には上手くいくものではないらしい。

「圭ちゃんごめん…生理になっちゃった」
「セイリ…?」
「その、一週間は…ごめん」

慌ててベッドから這い出てトイレへ向かったなまえが戻ってくるなり申し訳なさそうに言ったその言葉に、準備万端とばかりに勃ち上がっていた自身のモノが悲しげに項垂れたがそんなことはどうでもない。それよりも痛みに耐えるなまえの方が大事だ。

並んで布団に入り、痛みに顔を歪めるなまえの腹をゆっくり摩りながら気付けば二人して眠りに落ちていた。カーテンから差し込む日差しに同じようなタイミングで目を覚めし「おはよう」そう言い合って笑う朝がやってくるまであともう少し。


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