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しあわせを分け合う



※八木俊典から肉まんを貰うだけの話



雄英高校ヒーロー科三年、ミョウジナマエ。私の叔父は誰もが知るNo. 1ヒーローで平和の象徴、だった。そう、彼が誇った栄光はたった数ヶ月前に過去となってしまった。けれど今でもあの人は私にとって誰よりもかっこよくて、ひたすらに憧れで、完璧な最高のヒーローだ。そう、優しすぎるのが唯一、玉に瑕だけど。



「ナマエ、肉まん食うか?今日病院帰りにファンって子から貰ってさぁ」
「へえ、よかったね。うん、もらう」
「はい、まだ温かいぞ」
「ん、おいしい。これどこの?コンビニ?」
「そう、病院近くのコンビニ。見て、まだこんなにあるんだよ。ナマエもう一個いらない?」
「んーもういいかな、夕飯もあるし。最近運動量減ったせいか体重は増えちゃってさぁ」
「そうなの?見た目は変わったように見えないけど、まぁ女の子は気にすんのかね…うーんでもナマエもいらないんじゃこれ、どうしようかなぁ、保存もきかないし」
「あーじゃあ差し入れすれば?あの子…えっと、みどりや少年って言ったっけ。数的にも寮生全員分ありそうじゃん」
「ああ、なるほどその手があった」

じゃあちょっと行ってくる。名案だとばかりに手を打って表情を緩めた叔父はそのまま一年寮へ向けて歩いていく。だんだん小さくなっていくその背中を見送ったものの、なんだか誰もいない寮に戻るのも寂しくって入り口の階段に腰掛けた。たまたま私以外の寮生はインターン日が被ったようで全員出払っている。


叔父が私をこうやって訪ねてくるようになったのは最近のこと。ヴィランによる二度の奇襲以降、学校の方針で寮制度が敷かれてからだ。それまではずっと叔父と一緒に住んでいたので、こうしてたまに会うととてもほっとする。他の子たちは家族に会いたくても会えない状況なので、時々校内でひっそり短時間だけ顔を合わせているというわけだ。

随分と昔、両親が事故に遭いこの世を去ってから叔父はずっと私のことを守ってきてくれた。仕事と家庭の両立なんてさぞや大変だっただろう。注目を集めてしまうので授業参観や体育祭など、普通の家庭では普通にあることが我が家にはなかったけれど、それでも彼が私のことを一生懸命育て、とても大切に思ってくれていることは知っていたので多感な時期も常に感謝と尊敬の念は抱いていた。

そして離れてみてはじめて叔父の偉大さとその存在の大きさに気付いた。No. 1ヒーローだからとか、平和の象徴とかではなく。おかえり、と。当たり前のように向けられたあの一言と笑顔に、私はとても救われていたようだった。少し前までは、たまに始まるお小言が鬱陶しいとすら思っていたのに今はどこか懐かしさすら感じるなんて。

「…さみしいよ、おじさん」
「ナマエに呼ばれてーー私がきた!」
「うわ!いつの間に!」
「ん?今」

緑谷少年肉まん喜んでたよ。満足そうな顔で笑みを浮かべた叔父はそう言うと、私の隣によいしょっと掛け声付きで腰掛ける。…あれ?戻ってきた?彼のことを不思議そうに見ていると何を思ったか、昔よくそうしてくれたように頭をぽんっと軽く撫でて。

「大きくなったなぁ」
「…そりゃね。来年には高校も卒業するし」
「そうだなぁ。あと2年もしたら成人って…早いなぁ」

ついこの間までこんなだったのになぁ。どこか懐かしむような顔で私を見つめる叔父に、感じていた寂しさは一瞬で吹き飛んでいった。頭を撫でられるなんて、いつぶりだろうか。嬉しさと少しの気恥ずかしさに目を逸らしてしまうと叔父がぽつりと呟いた。

「嬉しいけど寂しいなぁ」

実はずっと聞きたくて、聞けなかったことが一つある。それを聞いてどうするのかも私自身分からないし、どの答えを求めているのかも分からなかった。それでもただ知りたいと思った。ヒーローとしてでも私の叔父でもない、ただの八木俊典という人間から。

「ねぇ、おじさん」
「ん?」
「おじさんは、幸せ?」
「え…?」
「No. 1ヒーロー、オールマイトとしてではなく一人の人間として。ちゃんと、幸せ?」

私の言葉に、出会った頃に比べて随分と痩せてしまったその顔を驚きに染めていた叔父が酷く柔らかく笑った。

「当たり前だろ」

幸せさ。くしゃり、私の頭を撫で続けるその手とうたうように溢れた温かな声にどうしようもなく泣きたくなったのは私だけの秘密だ。