pdl短編 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


¶ 真波と華の金曜日


※年齢操作あり

週末前の最後の一日を華金。華の金曜日、だなんて世間では言うけれど最近の私はその華金よりも二日後から始まる地獄の日々のことしか考えられない。

会社であった嫌なことは酒を飲んで忘れようと。あれは誰が言い出したことだったのか。今年社会に出たばかりの私と彼らが華金に必ず集まるのにはこうした訳があってのことだった。いつもの飲み会。いつものメンバーといつもの居酒屋でいつもの酒を飲みながら私の愚痴を聞いて貰う…のが常だったのだけれど。ああ、うん、それにしても今日はちょっと、飲み過ぎちゃったかなあ。なんだか頭がフワフワする。

どうやら相当鬱憤が溜まっていたらしい。羽目を外しすぎたようで。意識はあるのに体が思うように動かなくてダラリと個室の壁に寄り掛かれば、まったく飲み過ぎだ馬鹿者!と頭上からお節介焼きのナルシストの声がする。うるさいなあ…ただでさえ声デカいんだから静かにしてよ。

そう言いたいのに上手く言葉にも出来ない。ついには目を開けているのも億劫になってきた。まるで自分じゃない誰かに頭から爪先まで支配されているみたい。ああ、なんか怠いなあ、眠たいなあ…あ、山岳に会いたいなあ、とか。思ってたら耳に入った声。

「お疲れ様で〜す。すいませんナマエちゃんが迷惑かけました〜」
「うむ、こちらこそ長い時間連れ回してしまった。すまない」
「いいえ、とんでもないです」
「ああウッゼ!彼氏面マジウッゼ!」
「靖友、顔にリア充爆ぜろって書いてあんぞいい加減大人になれよ」
「新開、てめえこそ目ェ血走らせて中指立ててんじゃねーよいい加減人間になったらァ?」
「まあまあ、二人とも落ち着け。それよりもすまんな真波、俺がセーブを掛けていれば良かったのだが…」
「あはは、大丈夫ですよ。家でも飲み出したら止まらないですし俺でも止められないんで…むしろナマエちゃんに付き合ってくれてありがとうございました」

俺まだお酒飲めないから、と続けて聞こえた困ったような笑い声に飛びかけていた意識は完全に戻ってきた。どうやら潰れてしまった私を見兼ねて誰かが山岳のことを呼んだらしい。風に乗ってやって来た嗅ぎ慣れた彼の匂いにぶわあっと目頭が熱くなる。ああ…そうだ、わたしずっとさんがくに会いたかったんだ、なんて。

「すみません、学生の俺じゃ会社のことなんて分からないことだらけで愚痴も聞いてあげられなくて…先輩たちが聞いてくれるから助かります」
「ったく、オメーの女だろォ?テメーで面倒見ろっつーのメンドクセェ」
「アハハ…すみません、ほんと彼氏失格ですよね」
「靖友、言い過ぎだぞ」
「チッ!」
「そうだ、荒北の言うことなんて気にするな真波。こいつのはただの僻みだからな!」
「ああ!?ッゼェな!そんなんじゃねーよ!つーか黙ってないで福チャンもなんか言ってやればァ!?」
「…ミョウジは以前、真波でなければ言えないことが沢山あると話していた。お前でなければ分かってやれないことがあるんじゃないか?」
「そうそう寿一の言う通りさ、自信を持てよ」
「あはは、そうかなあ」

弱音吐いちゃってすみません。励ましてくれてありがとうございます…あーあ、男らしくないなあ。どこか困ったように続いた山岳の笑い声にずきりと胸から変な音がする。どうしてかな?いつもと同じ笑い声なのに、何かが違う気がするの。…だけど、ああ、ごめんなさい。今の私のふわふわな頭じゃきっと分かってあげられない。

うっすら、開いた目の先にゆらゆら揺れる求めていたその姿を見付けた。さんがく、思わず呼んでしまった彼の名前だったけれど音に出せばなんてことはない。カラカラに渇いた私の口から漏れたのは小さくて舌足らずでおまけに酒焼けしたような掠れた声だった。ああ、なんて可愛くない声だろう。

そんなことをぼんやり考えながら、ただその姿を映していた私の目に飛び込んできたもの。ふわり、まるで背中に生えた白い翼を広げるように両手を広げて目の前に降り立った優しくて大好きな私の天使。

「ナマエちゃん?」

にっこり、笑顔を称えて下から見上げる彼に何故かこくりと頷いてその首元に縋りつく。さっきまで重くて怠くて、動かすのも億劫で仕方なかった身体だけど目の前に山岳がいるとなれば別らしい。肩に顔を埋めながらすりすりと頬を擦り寄せれば頭を緩く撫でられて。

「ねえナマエちゃん、帰ろうか」
「うん…かえる」

だっこして、なんて。普段じゃ絶対言わないような甘えた言葉を漏らせば、しょうがないなあなんて笑いながらも背中に回っていたその腕に強く抱き締められる。山岳の、この腕に包まれるだけでどうしてこうも幸せな気持ちになるんだろう?

さんがく、だーいすき。うん、俺もナマエちゃんが大好きだよ。久しぶりに交わした甘い愛の言葉を噛み締めてふふっと上機嫌に笑っていたら突然の浮遊感に襲われて、そして。

「それじゃ、お先に失礼しまーす」

軽々と私を抱えて歩き出した山岳の上から呆然と私たちを見つめる元チームメイトに向かって大きく手を振った、幸せな週末が待つ金曜日。

来週の飲み会ではきっと、会社の愚痴よりも山岳の話ばかりしてるんだろうなあ私。

(真波山岳 5/29 Happy Birthday!)

end

前 / 次