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¶ 可愛いけど小悪魔な


隼人からよく聞いていた、可愛い可愛い弟の存在を。三つ下の悠人くんという名前の弟くんはそれはそれは愛らしいお顔をしていた。といってもやっぱりそこは兄弟。髪の毛と目の色が違うだけで他は隼人とソックリだった。クリソツだった。

だけど歳が下だからかはたまた私の好みの顔立ちをしていたからか。気付いたらその悠人くんのことが気になっていた。友人の、しかも同じ部活の仲間の兄弟に惚れるなんてまさかの出来事だ。それに相手は三つも年下という。…うん、望みなんて限りなく低いというのは分かっている。

だから隼人にも他のメンバーにも秘密にしていたのだけれど、何故か隼人には速攻でバレていた。だけどここで少し言い訳をさせて貰いたい。ナマエ〜これ見てくれよ〜だなんて、寮生活でたまにしか会えないその弟と撮った写真を学生時代毎日毎日見せられたらそりゃ気になっても仕方ないと思うの。



「おお、隼人そっくり」

そう言えば目の前で、可愛らしいお顔がぐにゃりと歪む。大きな目をこれでもかと細めて、ギロリと私を睨む彼。その顔を見て、はてはて?なんだどうした?と首を傾げるほど私の勘は鈍くない。あ、これ完璧にあかんやつや。初対面一発目でやらかした。彼が怒ってるということを素早く理解したけれど、やっちまったもんはしょうがない。もう取り返しがつかないのである。

あわあわと慌てながら思う。不機嫌丸出しなその顔ですら、もおおお!可愛い!キュン!だなんて。…ああ、私はいよいよ末期だろうか。いやそんな筈はない。あいつの弟がこんなに可愛いのが悪いんだ。そうだそうに違いない。

「っあ、えーと、初対面で失礼なこと言ったかな?悪気はなかったんだ、ごめんね」

とりあえず両手を合わせて謝ってみる。少しでも機嫌を直して貰わなければ。せっかく彼に会えたのに話も出来ないんじゃ無駄足だ。けれど、どうやらこの悠人くんという少年は話に聞いていたのと少し違うようだ。のほほんとしている兄隼人と違ってどっちかというとねちっこい性質をしているらしい。

あんた誰?と漏れた地を這うような低い声にはありありと警戒の色が含まれている。おまけに私に向かう視線はまるで汚いものでも見るかのようなものだ。

う、わあ!話に聞いていたのと全然違うじゃないの!隼人は、悠人?そうだなあ…いつもニコニコしてるかな、なんて言っていたのに全然ニコニコしてないじゃない!むしろギラッと音が立ちそうなほど私のことを睨み付けている。

なんたることだ…せっかく会えるのを楽しみにしていたのに最悪だ。これは実に居心地が悪い。けれど怒らせてしまったのは私の方だし、彼からしてみてもそんな相手と一緒にいるなんて居心地は良くないだろうし。…それにしても、まさかポロリと漏れた本音にこんな反応が返ってくるなんて思ってもみなかった。

「あ、え、と…自己紹介してなかったね。私、ミョウジっていいます。去年まで自転車部のマネージャーをしててね、隼人から弟がいるって話をずっと聞いてたから」

今日は君に会いたくて来てみたの、といきなりではあるが本音をぶちまけてみた。すると彼はその大きな目を見開いて数秒、なんだそんなことかと小さく漏らす。え?そんなこと?私のちょっとした勇気の賜物をそんなことって、え?と首を傾げる私を他所に彼は顎に手を添える。一人で何かを考え始めたかと思いきや数秒後にアッサリと解決したらしい。ああ、なるほどね、なんて感慨深げに頷いてみせた後くるりと私を振り返って。

「つまりナマエちゃんは俺に会いに来たってことだよね?」

と、首を傾げてみせる。あ、ああ、うんそうそう。そういうことだよ。つい勢いに任せて頷けばなんと彼は先程までの警戒心たっぷりの顔を綻ばせて可愛らしい笑みを浮かべて見せた。お、おお…なんと、二重人格なのかね彼は。そんなこと一言も聞いてないぞ隼人のばかたれ。

…あれ?それより、今彼はなんと言っただろうか?ナマエちゃん?あれ?私、名前教えたっけ?

こてん、首を傾げていたら隼人によく似た余裕そうな笑みが目の前に迫っていた。避けるとか拒むとか、そんなの考える暇もないままに押し付けられた柔らかくて熱いものに一瞬目の前が真っ白になって。それから、

「隼人くんからよく聞いてたよ」

悠人のことが大好きな可愛いマネージャーがいるって。それってナマエちゃんのことでしょ?とそう言って、隼人の言うあのニコニコの笑顔で私の髪の毛に指を通すから。私はもう、この底なし沼から抜け出せないのである。

end

隼人くんが写真を見せるくだりから全て悠人が仕組んだことだったらいい

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