¶ 今日は貴方が生まれた日
うわあ何この人目付き悪ッ!それが彼に対する第一印象だった。
「…おい、何見てんだよ」
「いや、相変わらず目付き悪いな〜って」
「喧嘩売ってんのか」
おまけに口も悪い。どうだこれは良いところなんて全くないじゃないか。そう思っていたのが今からちょうど半年ほど前のこと。あの時は荒北靖友という男のことなど微塵も興味なんてなくて。それどころかその見た目から敬遠してた節もある。なのに、今はどうだ。
「そんな靖友が好きすぎて辛い」
「はあ?急に何言ってんのォ?」
こうして問題の彼の背中にだらりと凭れかかり、恥ずかしいとされる言葉も難なく言ってしまえる。ついにネジ飛んだかなんて酷い言われようにも関わらず、そんな嫌味を痛くも痒くもないと思ってしまう程には惚れてしまったらしいのだ。相変わらず目付きも口も悪い目の前の男に。
「ねえねえ靖友」
「ああ?んだよナマエチャン」
「あのね、えへへへ、あのね〜」
「ッチ、」
っぜェな早く言えよイラッとすんだろが、なんて言いながらも凭れかかっていた私の身体を優しく引き寄せて腕の中に閉まってしまう靖友が好きだ。だって酷い言葉とは裏腹に私に対する態度はまるでペットをでろでろに甘やかす主人みたいだもの。って、え?なに?私ってペットなの?
「やあだ、靖友くすぐったいよそれやめて。やめてってば、もお聞いてる?やーすーとーもー!」
「うっせーなァ、ちょっと静かにしてナマエチャン」
背後から、眠くなってきたんだから、なんて甘えたような声がする。すりすりと私に頬擦りして、満足そうに笑って。そんな彼には普段ロードに乗っている時の面影なんて一切ない。そうだ、今ここにいるのは私しか知らない靖友だ。目付きも口も悪くてちょっと意地悪で、だけどいつでも私に触れる手が凄く凄く優しくて。私が唯一ベタベタに甘やかしたくなるくらい可愛い人。
「あのね、靖友」
「うん」
「だあいすきだよ」
「うん」
「ねえ、聞いてる?」
「んー…うん」
こっくりこっくり、靖友の頭が船を漕ぐ度に私の身体も前後に揺れる。あーあ、ついに寝ちゃったかぁ…しょうがない練習で疲れてるもんね、なんて。抱き締められたままくすくす笑っていたらまだ微妙に意識が残っていたらしい靖友に、何笑ってんだヨと更に強く抱き締められる。寝かけているというに、私のお腹に回る靖友の腕にはかなりの力が入ってて。正直苦しい、けれど。それが凄く凄く幸せだから。
「靖と…っわ、」
「…一緒に寝ようぜ、ナマエチャン」
肩に埋まった靖友の前髪をふわりと撫ぜた瞬間、ぐっと引かれるがまま倒れた身体。ばふっと柔らかな布団に抱き締められたままの体勢でダイブする。…うん、なんか、これじゃヤダな。もぞもぞとその腕の中で身を捩っていれば私の意図を汲んでくれたらしい。彼の腕によってくるんと向き合って、それから抱き合った私達は目の前にあるお互いの顔をくっつけてふふっと笑った。
「…あのね、靖友。私今日ね、どうしても言いたいことがあるの。聞いてくれる?」
「…ん?ああ」
「あのね、」
今日は、貴方が生まれた大事な日。出会えたこと、こうして側にいられること。それがね、こんなにも幸せだってそう思わせてくれたのは貴方があの日私の一番の味方でいれくれたから。あのね、こんなにも優しい温もりを。温かな気持ちを教えてくれてありがとね。
「生まれてきてくれて、ありがとう靖友」
だから私はこれからもずっと貴方の一番の味方でいるよ。
(荒北靖友 4/2 Happy Birthday!)
end
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