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¶ 重ね合わせてしまう


風を切って走れば、アイツとおんなじ景色が見れるかなあなんて思った。中学入学と同時に通学用にと買ってもらったママチャリ、かれこれ4年目の付き合いとなる奴に跨がっていつもだったらあり得ないスピードで走り出す。もちろん脚なんて漕ぎ出してすぐに疲れるし息だってもう切れ切れで、確かに風を切って走ってはいるけれど…うん、全然楽しくなんかないし。

なのに、なんでアイツはいつも笑いながら走ってるんだろうなあ、なんて。いつもの通学路。差し掛かった下り坂をいつものペースで下りながらぼんやりそんな事を思った。



「うお、なんや汗ビッシャリやな」

背後からそんな声が掛かったのはママチャリちゃんを駐輪場に置いてすぐのことだった。振り返ればそこには、いつものピッタリとした服を着て私のママチャリよりも何倍も細い自転車に跨がりながら此方を窺う奴がいる。鳴子、とそう呼べば奴は途端に笑顔を浮かべておはようさん!と言った。なんと、朝から爽やかすぎるだろう。

「おはよ…今日は暑いね」
「?まあ、せやな?」
「ちょっと、朝からぶっ飛ばしすぎて辛い。主に脚が」

そう言うと一瞬キョトンとした鳴子に、自転車をね全速力で漕いでみたんだと捕捉説明を入れる。するとああなるほどなと頷いた後で、めっちゃ気持ち良いやろと楽しそうに笑った。

…めっちゃ気持ち良い?なにそれおいしいの?はあ?アホか食いもんちゃうわ。アホか知ってるわ。誰がアホやねん。そんな馬鹿げたやり取りを交わしてどちらからともなく笑いだす。こんな風にくだけたやり取りを鳴子とするようになったのはいつからだったかなあ。

「それよりもお前、はよ汗拭かな風邪引くで。拭くもんは?」
「え?ああ、うん」

教室行ったらある、そう言えば何を思ったか。鳴子はするりと肩にかけていたフェイスタオルを引き取って私の頭にばさりと掛けた。しゃあない、特別にワイのタオル貸したるわ!と何故か誇らしげに鼻で笑ったその声にむっとしながらふんわりと柔らかい奴のタオルに顔を埋めて、上げる。

「…なんや急に人の顔ジロジロ見よって。ガンくれとんのか」
「…いや、そういえばこれ綺麗なのかなって」
「はあ!?臭いっちゅうんか!?まだ一回しか使ってへんで!」
「いや一回使ってんの!?」

ばっちい!マジあり得ない!そう言いながら鳴子のタオルを顔から離せば、ばっちいやとォ!?ワイの汗はトロピカルジュースやぞ!?なんて意味の分からないことを言い出すから、だったら私の汗は新鮮な果物を使ったミックススムージーですぅ!と言っておいた。…おえ、なんかそれはそれで想像したら気持ち悪いわもうこの話はよしとこう。

「ハァ…どうせ貸してくれるなら綺麗なやつが良かった」
「ハァ!?んとに我が儘やな〜!文句言う奴には二度と貸したらんからな!」
「ごめんごめん、嘘だよ」

そう言いながらもう一度、鳴子のタオルに顔を埋める。隣で奴が、おいミョウジ…匂い嗅いどるやろ!?とタオルを奪おうとするけれど絶対離してなんかやんないんだ。だってこのタオルからは大好きな、

「鳴子の匂いがする」
「ああ!?それどういう意味や!?」

どういうってそういう意味やとにっと笑ってやれば仕方なさ気に溜め息を吐いて。それからぐしゃぐしゃと妙に優しい手付きで私の頭を撫でるから。

ああ、やっぱり好きだなあなんて思うのだ。

end

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