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もしものハロウィン


※誰も死なない平和な世界+大人
※ ふわっとこれの続き




朝と夜が急に冷え込むようになってきた10月の初め、久しぶりに会った親友のお腹がまた更に大きくなっていた。出産予定日まではまだまだあるというのに既に重そうな腹を抱え「女の子だった」柔らかく笑ったエマはとても幸せそうでなんだか私まで幸せな気分になる。

万次郎との結婚を決めてはや三ヶ月。けれど籍はまだ入れておらず私はまだみょうじなまえのままである。来年の春頃、式を挙げる予定なのでその時一緒に入れようかという話になっている。それを仲間たちに報告すれば返ってきた反応はさまざまで、圭介なんかは「やっとかよ」って呆れていたし千冬くんは「なんか寂しいっすね」なんて涙目だった。

三ツ谷やぺー、やっちゃんは自分のことのように喜んでくれたしぱーちんはお祝いにと少しお高めのディナーに私たちを招待してくれた。

真ちゃん、エマ、ドラケンくんにイヌピーくん、タケミッチにヒナちゃん。みんなから贈られる祝いの言葉と気持ちと温かい笑顔に囲まれて。

幸せだね、生きててよかったね、なんて夜中に万次郎と二人お酒を飲みながらこっそり泣いたのは記憶に新しい。お互い随分と酔っていたせいで何故そんな話になったのかまでは覚えてないんだけど。閑話休題。


そんなわけであっという間に10月後半。数日前、寒くなったし鍋でもしねぇ?とドラケンくんに誘われ行った彼らの家で「もうすぐハロウィンじゃん!仮装してパーティーしようよ!」とエマ。それに賛同したのはヒナちゃんで、昔どんな仮装がみんなに似合うか二人で盛り上がったのだと楽しげに語った。

万次郎は赤ずきん、ドラケンくんはフランケンシュタイン、タケミッチはドラキュラだと話す彼女らに「なんで俺だけ女装なの、ぜってーやだ」と万次郎だけ不満そうにしていたけれど案外ドラケンくんとタケミッチは乗り気で「いいじゃんやろうぜ」「楽しそうっすね」と今度の休日、激安の殿堂こと某総合ディスカウントショップに仮装衣装を見に行くことが決定した。

三十路にもなって仮装かぁ、そう思いつつも楽しそうにパーティーの予定を立て始めた彼らを見ていたら三十路でも仮装?ありよりのあり!なんて思ってしまう私は今日もまた酔っ払っているのである。最近お酒ばっか飲んでる気がする。



あっという間にやってきたハロウィン当日。結局仕事が忙しくみんなと同じ休みを取ることが出来なかった私は自身の仮装衣装の準備を万次郎に託し今日に至った。

どんなのを買ったのか聞いても「見てのお楽しみ」にやりと笑って決して口を割ることのなかった万次郎。自身はどんな仮装にしたのか聞くとなんと赤ずきんにしたと言う。散々やらねーとか言っておきながら乗り気すぎる。

前回ドラケンくんとエマの家で鍋パーティーを開いた為、今回は我が家を会場に提供した。料理の準備をヒナちゃんとエマと少しだけ私も担当し、飲み物類を男衆に任せ、すべて整ったところでさぁ着替えてこようと家の中それぞれ別の場所で選んだ衣装に腕を通しリビングに集合!となったのだけど。

……嘘じゃん。

「なまえさん可愛い!」
「うんうん、似合う!さすが現役!マイキーやるじゃん!」
「だろ?あ、タケミッチとケンチンは目閉じろな?見たら殺すから」

一番最後にリビングに入った私を見るなりヒナちゃん、エマ、万次郎の順で声が掛かる。ヒナちゃんは可愛らしい魔女の帽子とマントを羽織り、エマは随分とお腹も大きいからか衣装は纏わず頭に可愛らしいツノのついたカチューシャをつけていた。赤ずきんにしたと言っていた万次郎はそれらしい赤色の布を被っているだけで仮装とは程遠い。

みんなやる気なさすぎるじゃん。わざわざ衣装買いに行ったんでしょ?そう言った私に「いやぁ、なんか見てる途中でさすがに着替えるのは面倒くさくない?ってなっちゃって」とエマ。おい発案者。

着替えたんだけど私。スマホを取り出しパシャパシャと遠慮なく写真を撮り始めたエマと万次郎をじろりと見やって息を吐く。この兄妹に何を言ってもきっと無駄だ。これまでの長い付き合いで私はよーく知っている。

ていうかあの、まぁ現役に間違いはないけども。

「言っとくけど制服こんなミニじゃないからね」

なんなら最近はパンツタイプがほとんどだし。そう言った私に「だからそれにしたんじゃん」と自身のこだわりを語る万次郎。…あっそう。

仮装用らしくタイトな作りのナース服(ミニ)を見下ろしてげんなりしつつも、過激派兄妹にされるがまま被写体として立ち尽くしていた私は今更だがあることに気が付いた。

万次郎に言われた通り、私がリビングに入ってきてからずっとこちらを見ないドラケンくんとタケミッチ。なんとこの二人も仮装というには程遠い姿でそこにいた。

ドラケンくんはエマと合わせているのか、衣装は纏わずカチューシャのみ。タケミッチはなんかマジシャンみたいな変な帽子を被って首にゴールドのモールを掛けていた。いやクリスマスか?

全身仮装してるのが私だけなんてあんまりだイジメだと拗ねれば「まぁまぁ可愛いんだからいいじゃない」とエマ。妹の言葉に何度も深く頷いていた万次郎を横目で睨みつけてから、とりあえず買ったの万次郎だし着てみれば?絶対似合うって!私見てみたいなぁ。

そう言えばまんまと乗せられた彼としめしめ衣装を交換した。ややあってみんなが集まるリビングにパッツパツのミニスカナース万次郎が現れて、泣くほど笑ったというのが本日のハイライトである。まだパーティーは始まってすらない。

何をどう見たら「案外俺もいけんじゃん」なんて言葉が出てくるのかは分からないけれど、上機嫌な万次郎が着替えを済ませみんなの笑いの波も収まった頃。エマからもう一個買っていたのだと差し出されたかぼちゃの乗ったカチューシャを私がつけたところでようやくハロウィンパーティーの開始である。

お互いのグラスを打ち付け、目の前に並ぶ豪華な料理に手をつける。そう、パーティーといっても普段集まる時となんら変わりはない。思い出話や最近あった面白い話をみんなでしながら料理を摘んで、時々誰かの話がツボにハマって。笑い声と賑やかな声が響く、いつも通りの平和で幸せな時間。

「あれもう飲んだん?相変わらずペースはえーなぁ。おかわりは?」
「いるーありがとー」
「ん」

底をつきそうなグラスの中身に気付いて声を掛けてくれたドラケンくんは「焼酎ソーダ割りだっけ?」アイスペールの中から氷を2個グラスに移しながら私を見る。それに頷いた後、向かいのソファに腰掛けたヒナちゃんと目が合って。

「ヒナちゃんは?次どれ飲む?」
「んーどうしようかな…じゃあオレンジジュース」
「はいよー。マスター、オレンジひとつねー」
「どこのバーだよ」

呆れたように息を吐き「ほんとなまえちゃん酒癖悪ぃ…ヒナちゃん絡まれんなよ?」なんて突然失礼なこと言い出す彼から完璧なソーダ割りを受け取って「失礼な、まだ酔ってないし」と唇を尖らせた。

くすくす笑い声を漏らしながらこちらを見やる彼女とはほんの数ヶ月前まで時々一緒にお酒を飲みながらいろんな話をした。酔うと普段の5割増で可愛くなるヒナちゃん。主にタケミッチの話を頬を染めキラキラした瞳でするあの彼女とはしばらく会えないのは寂しいけれど仕方ない。

そう、実はヒナちゃん現在妊娠三ヶ月。タケミッチとの赤ちゃんがお腹にいるのである。タケミッチが父ちゃんか…と万次郎が泣きそうになっていたけれど気持ちはとても分かる。感慨深いよね。

自分も含め少し前まで子供だと思ってたのにみんな親になってくんだねぇ、そんな真面目な話も交わしつつけれどくだらない冗談も言い合い笑いながら。今日もまた特別な夜が更けていく。

いい感じにお酒が回り始めた頃、日付が変わったのを見て誰かが言い出した「そろそろ帰ろうか」その言葉を合図に全員で後片付けをし始めた。適当でいいと言ったけれどそこはさすがヒナちゃんとエマ。シンクに溜まった大量の洗い物まで済ませ、ふわふわしている自身の旦那たちを引き摺るようにして帰っていった。

タケミッチ然り、ドラケンくん然り、嫁の尻に敷かれ幸せそうに笑う二人はきっといいお父さんになるだろう。玄関先まで見送った後、部屋に戻ると万次郎はベランダに出て彼らが通りすぎるのを待っていた。

星が輝く深夜一時過ぎ、ご近所迷惑だからと無言で手を振り去っていく二組の夫婦をしばらく見送り「寒くなったね」「もう冬だな」そんなやり取りを交わしながら私たちも部屋に戻る。

「もう11月かぁ」
「はえーなぁ」
「今年もあっという間に終わるんだろうね」
「それな」

時々肩をぶつけ合いながら寝室に向かう。同じタイミングでベッドに入って、冷えた足先を暖かい万次郎の足にくっつけて「ねぇ、さむい」そう言うと。

「つっめた!お前の足なんでそんな冷えてんの」
「手もだよ」
「は?何それ凍ってんの?」
「そうかも」

驚いたように上がったその声にけらけら笑いながら布団の中、暖を取るため抱き付けば「なに、酔ってんの?」私を抱き返しながら万次郎が酷く優しい声で問うてくるから。

「うん、酔ってる」
「お前すげー飲んでたもんな」
「ん、楽しかったね」
「な」
「…ねぇ、万次郎」
「ん?」
「今、幸せ?」

胸に埋めていた顔を上げ首を傾げた私をじっと見下ろした万次郎は、ふっと口元を緩めると酷く穏やかな顔で微笑んだ。私の頬をするりと撫で「うん、めっちゃ幸せ」そう言った彼の瞳に一筋、カーテンの隙間から忍びこんできた月の光が灯る。

あまりの眩しさに目を細めて降ってきた甘いキスに酔いしれる、秋の終わり。そして冬の始まりの日。



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