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とある閑話


7月もあと数時間で終わりを告げる、相変わらず暑い夏の夜のことだった。

東堂と、何故か会ってすぐに始まった変に真面目な話(自分の人生設計的な)は気が付いたらどうやって老後を過ごすか、なんて所にまで飛んでいて。

熱く語るね〜なんて言い合って笑った後、ああもうそろそろ帰らなくちゃねという言葉を溢した途端に黙りこんだ彼。

目の前できゅっと口を引き結ぶ東堂に、帰らないの?と声を掛けてみても返事はない。明日はインターハイなのに早く帰らなくてもいいのか。ていうか、私も明日早起きなんだけど早く帰りたいんだけど。と本音をぽろり溢してみてもさっきからずっと、彼の視線の先には既に空っぽになっているコーヒーカップがある。



東堂から夕飯の誘いを受けてこのファミレスに集合したのは、東堂の自主練が終わった後。夕方を過ぎたあたりのことだった。既に今日の夕飯となるメニューは二人のお腹に収まっているし、食後に頼んだデザートも見事平らげた。それから滞在すること暫く、さっきまでずっと止まらなかった真面目な話だってつい数秒前に一段落したというのに。

どういうことだ。

喋らない東堂にいい加減痺れを切らせて、ねえ早く帰らないと門限過ぎるよ?見つかったら寮母さんに怒られるよ?と怒らせたら恐いあの人の存在をちらつかせてみる。が、何を考えているのか彼は帰ろうとは言わなかった。むしろ言えば言うほどこうして口をつぐむ。

うむ…これは困ったどうしたもんか、と頭を悩ませて暫く。なあナマエ、と耳に届いたのはいつもと大して変わらない声音で私を呼ぶ東堂の声だった。このやろう!散々無視しやがってこのやろう!

「あ、うん?なに?」

けれど、ああ良かった。ようやく喋ったと安堵にも似た気持ちをぶら下げて彼を見つめれば何故か困ったように微笑む。滅多に見ないその表情に何だか違和感を感じて。あ、れ?アンタってそんな顔する奴だったっけ?と首を傾げていたら。ふわり、伸びてきたその手に頭を優しく撫でられた。ますます訳が分からない。

「とうど、」
「ナマエ」

人の頭を勝手に撫でるな、と東堂だからこそいつものように非難する筈だった声は上げることが出来なかった。何故なら目の前に座る彼の目がいつになく真剣なものだったから。

「なに?」
「インターハイが終わったら、話がある」

そう言って、くしゃり、まるで感触を確かめるようにもう一度撫でてから。すっと離れていったその手をただただ眺めていた。私の反応をじわりと窺っていた彼は暫く経っても何も言わない事に痺れを切らしたのか、恐る恐る、聞いてくれるか?と口にする。私を覗きこむその顔がいつもの自信に満ち溢れた東堂の顔じゃない気がして。

「うん、いいよ」

約束ね、と彼に向かって自分の小指を差し出した。

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