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暑い暑い夏が始まります


インターハイ一日目。空には雲一つない青空が広がっている。ジリジリと肌と髪を焼くように降り注ぐ熱い太陽に慌ててテントの下に引っ込んだ。そんな太陽を一身に浴びている彼らは今舞台の上で当たり前のようにその光を浴びている。暑さのせいかそれとも夏のせいか。ユニフォーム姿で凛とそこに立つ彼らがやけにかっこ良く見えた。

ま、一人だけユニフォーム揃ってない子いるけどね。えーと、あの子なんてったっけ?確か、マナミくん?だっけ。遠くて良くは見えないけれどさっき慌てて舞台に上がっていった彼を探そうと目を細めた。

…ああ、それにしてもここ暑いもうダメ溶けそう死ぬ。会場に付いてからずっとそう漏らしている私をここに連れてきた本人でもある友人マリン(こと麻友子)はさっきからオール無視である。カチャカチャと手元の自転車(ああ、ロードだったっけ?はいはい分かりました)の整備にチェックにと大忙しだ。

私の担当はボトル?とかいうのと補給食(新開がいつも食べてるやつ、で理解した)をそれぞれ名前が書いてある袋に入れて準備する、だったので既に終了していたりする。まかせろ全てクーラーボックスにinだどんなもんだい。

「ナマエ、暇なら開会式見てきたら?ちょうどウチの奴ら舞台上がってるし」
「…ええ?いいよここからだって見えるじゃん」

私に目も向けずにそう言い放った麻友子。隣には安定の黒田くんがいて、彼も彼女同様手元のロード整備に夢中の様子。相変わらず仲のよろしいことで。もしかして私お邪魔?二人きりになりたかった?なんて冗談っぽく言えば麻友子に大きく溜め息を吐かれた。あっ黒田テメッ今先輩を睨んだな!?おま、あの事バラしちゃうぞ!?

「…だったらナマエさん、ついでに東堂さんと新開さんの写真撮ってきて貰えないすか」
「やだよなんで行くこと前提なの」
「うちのクラスの女子に頼まれたんですお願いします」
「ちょっと私の話聞いてる?」

ふと思い付いた風を装って顔を上げた黒田くんから、ハイじゃあこれとデジカメを渡される。え?なんなの?この後輩人の話聞かないの?別に近くに行ってまで見たかないんだけど…なんて漏らしてみても彼のスタンスは変わらないらしい。おうおうなんだよ、そんなに私は邪魔者ですかそうですか。

「撮ったら即効帰ってくるからね。公衆の面前でいちゃつくなよリア充爆発しろ」
「はあ?なに?誰と誰がいちゃつくって?」
「はいはい分かりましたよ先輩どうぞごゆっくり」
「テメッ黒田こういう時だけ先輩扱いしてんじゃねーよバァカチャンが!」
「全然似てない荒北さんの真似するのやめてもらえます?」
「うっうるさいよ…」

そんな真顔で言わなくてもいいじゃない。とぼとぼ、デジカメ片手に箱学テントから抜け出せばやはり照り付ける太陽がくらりと視界を滲ませる。ああ熱い溶ける死ぬ…あのナルシスト二人組を適当に撮って早く涼しいテントの下にダッシュで帰ろう。何もしていないのに額に浮かぶ汗を首にかけたタオルで拭いながら一歩一歩舞台前にぞろぞろと溜まっているその集団へと近付いた。

あ、そういえば黒田くんのデジカメどうやって使うんだろ?小さなその電子機器の電源を見つけてボタンを押して。ああなるほどこれがシャッターねふむふむ。とりあえず2、3枚あればいいっしょと独りごちて何だか偉そうに舞台に立つ東堂と、どこか余裕そうな表情の新開を捉えた。カシャッと数回鳴ったシャッター音がざわつく声に掻き消されたかと思いきや、隣からあっと何かを見付けたような声がして。なんだどうした?と見上げた先、そこにはなんと見知った顔がいた。

「あー…久しぶり、ショ、ナマエちゃん」
「…おお!誰かと思えば!」

久しぶり巻ちゃん!元気してた?そう言って笑顔を向ければ少し照れ臭そうに頬をかいて、そっちも元気してたっショ?と返される。東堂曰く玉虫色と称されるその髪の毛も身長も、前回会った時よりも伸びていて雰囲気が変わったように思えたけれど。

「いつもは元気なんだけど今日はそうでもないかな。こんな暑い日に外出るもんじゃないと思うの」
「クハッこんな暑い日にわざわざ写真まで撮りに来てよく言うな」
「ちょ、それ誤解だから巻ちゃん。今日は友達に無理矢理連れて来られたの。それからコレ、後輩に頼まれて仕方なく撮ってるだけだから。決して写真撮りに来た訳じゃないから。ね?分かった?」

そう言う私を見て、ハイハイ分かりましたよっと、なんて。肩を竦めてみせるその仕草があの日待ち合わせ場所に駆けてく東堂を見た時のリアクションと全く同じだったから。

「変わらないねぇ、巻ちゃんは」
「そうかァ?」
「ごめん適当」
「…お前ってそんなキャラだったっけ」

苦々し気に私を見下ろす彼に、そうだけど?なんて笑ってみせて。久々の会話に花を咲かせた。



舞台上で何やかんやトラブルがあった事を知ったのは、開会式が終わり彼らが舞台を降りた後だった。どうやら私と巻ちゃんはそれに気が付かない程に話を盛り上げていたらしい。正直内容はあんまり覚えてないけど。

散り散りになってく観衆と共に彼とは別れた。じゃまたね〜なんて何とも軽いお別れである。そういえば彼は東堂の唯一無二のライバルなのだからここでは敵になるのではないだろうか。そうは思ったけれど私には関係ないのでまぁ良しとしようじゃないか。荒北辺りには、敵と馴れ馴れしくすんじゃねーよ!なんて怒鳴られてしまいそうだけど。

「あの御堂筋ってやつ何だったんだろうな」

いつものように全く崩れない表情を湛えてパワーバーをむしゃむしゃする新開。そんな彼の言葉にさあ?なんて首を傾げてみせる東堂とそうだななんて至極どうでもよさそうな声音で返すフクちゃん。このテントに戻ってからようやく知ったトラブルの原因はその御堂筋くんとやらにあるらしい。えーと?その御堂筋くんはなんてったっけ?きょ、きょう?

「京伏だろ」
「ああ、そうそれナイス荒北」

フンッ!京伏だろうが御堂筋だろうが、んな無名チーム興味ないね!とそっぽを向いた荒北の意見はどうやらここにいる私以外のメンバーの意見でもあったようだ。その言葉を聞いた皆の雰囲気が一瞬の内にガラリと変わった気がした。なるほどこれが王者の迫力ってやつですか。

ピリピリと肌を刺激するのは何も太陽だけではなかったらしい。日頃あんなに騒がしい東堂が珍しく終始口を引き結び、ただじっとその時を待っている。そんな彼を見たのは初めてで、ああなんだコイツも人間だったんだなんて妙にむず痒い気持ちになった。

彼らが臨む最後のインターハイ。もうすぐその幕が開く。

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