06


随分と場内が騒がしくなっていた。別に気にしなくていいんじゃない?お呼びがかかるまで部屋でゆっくりしてましょうよと怠惰なマーニャを背にナマエは部屋を飛び出した。廊下を走る兵士を一人捕まえて話聞けば、どうやら入国早々捉えられたという不審者の集団が揃って脱獄をしたのだという。脱獄者たちの目指す先が城の最深部、女王の部屋ではないかと予測されている現状を把握したナマエはいつ女王に呼ばれても良いように、早足で部屋に戻る道を歩いていた。――クレティア女王の首が落ちることにより、何かが変わり始めたりするのだろうか。部屋の扉の前でナマエは立ち止まり、しんとした女王の部屋に続く廊下の先を見据える。遠い喧噪の果て、そこにあるのは静寂と沈黙。

無性に不安を煽られた。…テリーに会いたくて、しょうがなくなっていた。マーニャと共に居ることでそれほど不安に襲われることのなかったナマエだったが、ここが異世界だという事実を、この世界にやってきたのは自分一人なのではという可能性を、もし元の世界に戻れなくなったらどうしようという不安は一人きりで静寂の中に身を埋めたその時ようやく、ナマエを襲ったようだった。ふるふると首を振り、襲い来る寂しさを無かったことにしたナマエはマーニャの待つ部屋の扉をゆっくりと開く。


「あらおかえり、どうだった?」
「…うん。下の階は騒ぎになってるけど、このあたりは妙に静かなのが気になるかな」
「なら、早速女王様にお呼ばれしちゃうかもね。準備だけはしておきましょ」


うーん、と伸びをしたマーニャの横には美しい鉄の扇が置かれている。扉の前に立ったまま、ナマエは部屋の隅に置かれた女王からの通信を受け取る美しい魔法具を見つめた。ちらちらと点滅しているそれは、いつでも戦えるように準備しておけという女王からの言葉を、この部屋に送信している。


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ホミロンの掛け声で女王の部屋に押し入ったラゼル達は、クレティア女王の呪文とクレティアの兵士長ドドスとカマンの連携を相手にそれなりの苦戦を強いられていた。人数はこちらの方が多いと言えど、相手はそれこそラゼルやテレシアが学校を卒業した後に目指す職で現役を務めている。オルネーゼは別行動で不在、多少は連携が取れるようになったといっても参戦したばかりのミネアはまだ、戦いの中でトルネコ以外の人間と連携する場合に、距離を上手く把握出来ていない。信頼関係が一瞬で築き上げられるのならば、こんな騒動が起こることのないほど、世界は平和だということだろう。

剣を振るいながらテリーは思考を巡らせる。どことなく以前にもこうして、異世界に迷い込んだことがあるような気がしていた。――そして、泣きそうな顔をしていたナマエの姿を見つけたことがあったような、気がしていた。果たしてナマエは今どこで、一体何をしているのか。何を考え、誰と居るのか。そもそもあいつ、一人じゃまともに戦えな、


「おいテリー!ナマエのことを考えるのは、目の前の敵を倒してからだろ!」
「っ、分かってるさ!」


盾を掲げ、飛び込んできたドドスの剣先を流したテリーはハッサンの声に、ナマエのことを脳内から追いやろうと首を振る。ところが考えまいとすればするほど、ナマエのことばかりがテリーの視界をちらつかせるのだ。剣先は鈍らないものの、戦闘に脳を切り替えて思考を巡らせることが出来ないテリーの様子に全員が気付いているものの、今はそれを気に掛ける余裕はない。

ミネアのタロットから呼び起こされた雷の力が敵を怯ませる。それを見逃さなかったハッサンの拳とラゼルの双剣がドドスを抑え込み、飛び込んだガボが剣を弾き飛ばした。同時にツェザールがカマンの盾を力技で押さえ、その隙を突いたマリベルがブーメランでその剣を弾き飛ばす。「…思ったより、やりおるわ」テリーは玉座の上に漂うクレティア女王に目を向けた。手のひらの上で小さな石のような、通信機を起動させているクレティア女王が杖を掲げ、高らかに宣言する。


「さあ!さすらいの踊り子よ!そしてさすらいの吟遊詩人よ!契約にのっとり、妾のために戦うのだ!」


20160704